3
やっぱり馬鹿にされているんだ。
ムッとしたのも束の間、凰理は紫音の手を離さないまま空いている方の手でそっと彼女の頭を撫でる。
「なにもなくてよかった」
安堵したという表情に、紫音は反射的に繋がれている手を離した。これ以上、この男のそばにいたら心臓がもたない。自分らしくいられない。
「と、とりあえず、ありがとう。あなたがタイミングよく現れたから助けられた」
早口で捲し立てたものの今の紫音の精いっぱいの素直さだった。本当はもっと気さくにお礼を言いたい。感謝だってしている。
けれど凰理を前にするとどうしても前世の関係を思い出して、ぎこちなくなってしまう。
「この借りは、またなんらかの形で……」
ほら、こんな言い方さえ前世を引きずっている。きっとここは〝お礼〟でいいのに。
「なら、今返してもらう」
「へ?」
わずかに後悔を滲ませていたら予想外の切り返しがあり、紫音は間抜けな声をあげる。
凰理を見ると、余裕たっぷりに微笑んでいた。彼の笑顔を見て、紫音の背中に一瞬、嫌な汗が伝う。
これは、もしかするととんでもないことを言ってしまったのでは……。
なにを要求されるのかと目を瞬かせていると凰理は離れた紫音の手を再び取った。
「ちょっと付き合え。用事はなくなったんだろ?」
「そ、そうだけれど……付き合うってなにに?」
紫音の問いかけを受け、凰理は改めてまっすぐ彼女を見つめる。ふたりの視線がゆるやかにぶつかった。
「デートに誘っているんだ」
凰理の回答に紫音は大きく目を見開く。そしてふたりの間に沈黙が流れること数秒。
視線を逸らさないまま紫音が口火を切る。
「なにを企んでいるの?」
「……お前なぁ」
紫音の反応を窺っていた凰理がどっと項垂れる。しかし紫音は大真面目だった。
彼の発言の真意を探ろうとあれこれ考えを巡らせたものの結局わからないので正直に尋ねたらこの有様だ。
頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
凰理は前髪をくしゃりと搔き上げた。苦虫を噛みつぶしたような顔も元々の造形が整っているのでそれなりに様になっている。
本人にはけっして伝えないが。
「お前にとっては、俺もさっきの男と同類か」
質問というより腑に落ちたという言い方だった。
「そんなことない!」
しかし意外にも紫音がすぐに否定する。これは凰理にとっても、声を発した紫音本人さえも驚く。
紫音は一度押し黙り、改めて言葉を紡いでいく。
「それは違う。さっきの彼とは全然違う。だって……」
元々知り合いだから? 前世の繋がりがあるから?
続けようとする言葉がいくつか浮かぶのに、どれもしっくりこなくて声に出すのがためらわれる。代わりに違う内容が浮かんだ。
「私、デートってしたことがないからよくわからないんだけれど……」
そもそもデートって付き合っているカップルとかそういうのが前提の男女がするものじゃないの?




