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「結構待ってたんだよ?」
うつむいたまま紫音は凰理に告げる。彼女の声と体が震えているのに気づき、凰理は紫音の頭にそっと手を置いた。
「悪かった、待たせたな」
優しい声色に乱れていた気持ちが少しだけ和らぐ。凰理はさりげなく紫音の肩を抱き、歩を進めだした。
状況についていけず、口をぽかんと開けている男に鋭い視線を送るのも忘れない。
駅を出ると、反射的に降り注ぐ日差しに目を細める。天気がよくわずかに夏の気配さえ感じるので、トレンチコートは置いてきて正解だった。
紫音の今日のコーディネートは、袖口がフレアになっている白シャツと爽やかなミントグリーンのスカートを合わせてシンプルにまとめている。
対する凰理はネイビーの七分袖ニットにデニムのジーンズのシンプルな組合せだ。
大学ではスーツか少なくとも襟付きのシャツを着用しているのでカジュアルな雰囲気が逆に珍しい。
顔もスタイルもいい人間は必要以上に着飾らなくても十分に目を引く。
つい凰理を凝視していた紫音だったがふと我に返り、とっさに彼から離れた。
「突然巻き込んでごめん。じゃぁ」
「ちょっと待て」
さらっと凰理の元から去ろうとするが、手を引かれてあっさり阻止される。
「巻き込んだと思うなら事情を話せ。あんなところでひとりでなにやってたんだ?」
当然といえば当然の疑問だ。彼には一応、知る権利がある。行きかう人々の邪魔にならないよう少し端に寄り、紫音は渋々自分の置かれていた状況を説明し始めた。
実乃梨と待ち合わせをしていたが、彼女が来られなくなったこと。男に声をかけられ、とっさに待ち合わせをしていると口にしたらそばから離れてくれず困っていたところだったことなど。
話を聞いていた凰理の眉間の皺が深くなっていくのに紫音は気づかない。
「なにかされたわけでもないし、あんまりこういう経験がないからどうしていいのかわからなくて……」
言い訳めいた発言をしてすぐに後悔する。ただでさえ魔王に借りを作った状態なのに、からかわれる要素まで用意してどうするのか。
身構えていると、凰理は紫音の手をゆるやかに引いた。
「そういうときは、すぐに俺に電話してこい」
てっきり揶揄されるかと思っていたのに、あまりにも真剣な表情で言われ逆に面食らう。
今になって繫がれた手から伝わる温もりや感触に神経が集中して、紫音は顔を赤らめた。
「で、電話したらどうなるの?」
動揺を悟られたくなくて質問を投げかける。アドバイスや励ましの言葉でもくれるというのか。
からかいの言葉を付け足そうとしたが、先に凰理が口を開く。
「どこにいても駆けつける」
あまりにも迷いのない言い方に紫音の胸が掻き乱される。前言撤回。今の方がよっぽどどうしていいかわからない。
「お前は変にお人好しのところがあるから相手の言い分によっては、ほいほいついて行きかねないしな」
ところが続けられたのはいつも通りの口調だった。ため息混じりに呟かれ、わずかに紫音の眉がつり上がる。




