7
「風間先生なら持っていると思うが……彼に借りたらどうかな?」
「え、いえ。大丈夫ですよ!」
高原の提案に紫音は条件反射で断りを入れてしまう。そこまでしなくても、学内の図書館で探せばいいだけだ。無理に凰理と関わる必要はない。
「まぁ、そう言わず。図書館で探す前に、一言彼に聞いてみればいい。きっと快く貸してくれるさ。なんなら私から言っておこうか?」
高原の厚意に紫音はそれ以上、拒否できなくなる。小さく「また聞いてみます」と言うのが精いっぱいだった。
本当に凰理に借りるのが嫌なら、高原には上手く言って誤魔化せばいいのだが、そういう器用さが紫音にはなかった。
また、問題事を先送りにするのも性分に合わない。
紫音は荷物を持って演習室を出ると、重い足取りで等間隔に電気の並んだ廊下を進み、凰理の研究室に向かう。天気の影響で外はすっかり暗く、まるで夜だ。
不在だったらいいのに。
高原にはそう言い訳できる。しかし近づいてその願いはあっさりと打ち砕かれた。遠目から凰理の研究室に電気が灯っているのが見える。
中から話し声が漏れているかと思えば、彼の研究室のドアが突然開いた。
「ほら、天気も崩れそうだしお前ら、もう帰れ」
凰理が疲れた声色で告げるのに対し、中からは複数の女子学生が機嫌良く出てきた。
「わっ、もう真っ暗」
「先生、送ってくださいよ」
「また遊びに来ていいですか?」
好き勝手思いついたまま話す学生たちは、おそらく凰理のゼミ生だろうとすぐに察する。彼も四限はゼミを受け持っていた。
「用事がないなら来なくていい。レポートの提出は一秒でも過ぎたら受け付けないからな」
厳しい言い方をしても彼女たちには通用せず『はーい』と笑顔で返事をして去っていく。
反対方向に立っていた紫音は無意識に息を殺してその様子を見守っていた。しかになにを思ったのか不意にこちらを向いた凰理と目が合う。
「紫音?」
なにも悪いことはしていないのに紫音の心臓は跳ね上がった。まるで悪戯がバレた子どもみたいになる。
「どうした?」
ばつが悪そうな紫音をよそに凰理は紫音に近づき尋ねてきた。
「えっと……高原教授に本を借りてくるように言われて……」
正確に言うと異なるが、この際かまわない。続けて紫音は高原に聞いた本のタイトルをそのまま凰理に伝えた。
「ああ、たしか持ってたな。高原先生も持ってなかったか?」
「今、手元にないみたいで……」
事情を説明すると凰理はさっさと自身の研究室に戻っていく。紫音も後を追うがドアの一歩手前で足を止めた。
その行動を不審に思った凰理が部屋から顔をのぞかせる。
「入らないのか?」
「ここで待ってる。ゼミ生でもないし」
ぶっきらぼうに紫音が答えると、凰理は目を白黒させた。
妙な線引きだと紫音自身も感じるが、どうしても素直になれない。ややあって凰理は微笑みドアを大きく開けた。
「なら、いつになるかわからないぞ」
紫音は目を大きく見開いた。




