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『今度の勇者は女か』
旅の途中、シオンがちょうどひとりになった際、目の前に魔王が現れたときは度肝を抜かれた。まさかのラスボスがこんな簡単に姿を現すとは。
その考えを読んだのか相手はニヤリと笑った。
『魔王は神出鬼没なんだ』
流れるような艶のある黒髪。吸い込まれそうに深い色を宿した青みがかった双黒の瞳。見る者を惹きつける外貌とオーラに不覚にも目を奪われた。
慌てて我に返り彼を観察してみる。思っていたより禍々しい雰囲気はない。
『わざわざ男の格好をするくらいなら、むしろ女を武器にしてみたらどうだ?』
シオンをじっと見つめていた魔王が呟く。ここでシオンは自分の正体が女だとバレたことに驚きが隠せない。
本当はシオンの弟、クオンが勇者として魔王討伐の旅に出るはずだった。勇者は男ではないといけない。クオンよりも剣の腕が立つのが、たとえ女であるシオンだとしても、自分は望まれていない。
だから、自分は“クオンの代わり”になると決めた。
この家から剣の腕が確かな男子が勇者として立ち上がる。その事実がどうしても必要だった。男の服を着て、立ち振る舞いも極力男性に思われるよう気をつける。みんなの期待を裏切るわけにはいかない。両親のためにも、クオンのためにも――。
私は、シオンはいらないから。それでも名前だけは捨てられなかった。
幸いなことに、クオンの名前までは知れ渡っていなかったし、シオンと名前も似ている。弟とは双子で異性ではあるが背格好もそこまで変わらず。元々クオンはがっしりした体形でもない。 『勇者=男性』という先入観にも助けられた。
それを、まさか初対面の宿敵に見破られるなんて。しかも女を武器? 冗談じゃない!
『ふざけるな。そんなことをしなくてもお前は私が倒す』
シオンは警戒心を露わに宣言する。誰のせいでこんな事態に陥っていると思っているのか、恨みを込めて向かって行ってやりたいくらいだ。
とはいえ今ここで魔王と戦うのは得策ではないことくらい理解できる。彼は今まで何人もの我こそはという勇者を返り討ちにしてきたと聞いている。
『たしかにお前相手にその気は起きないな』
反発しそうなのをシオンはぐっと堪えた。とにかくこの機会に魔王の情報を探ろうと試みる。
それからシオンと魔王は口喧嘩にも似た応酬をし、最後に魔王が改めて言い放った。
『まぁ、元々色気もないから女の格好をしたところでたいして変わらないだろ』
『は?』
さすがに青筋を立てて反応してしまう。魔王は余裕のある笑みで紫音を見下ろした。
『どんな格好をしてもどんな姿になってもお前はお前だろうからな』
その言葉をどう受け取ればいいのか。男装は無意味とでも言いたいのか。それとも本気で女の魅力がないと馬鹿にしているのか。
理解できない。鼻持ちならない男だ。けれどシオンは初めて宿敵である魔王とやりとりし、そこまで彼に対する憎悪も恐怖も抱かなかった。
不思議。それともこうやって油断させる作戦? 憎むべき、倒すべき相手なのに。




