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第8話 『疑心の迷路』

『吸血鬼は馴染みたい』を閲覧していただきありがとうございます!


仕事から帰ってきたら、ブックマークをして下さった方、評価を押してくださった方が増えていたので

あまりの嬉しさに追加更新です。


本当にありがとうございます!!


 

 その日、如月香帆は朝から落ち着かなかった。


 昨夜の出来事が、まるで夢だったかのようにふわふわと頭を占めていた。郷夜とベンチで話したあの時間。今でも、風が吹くたびに彼の声が耳の奥で再生される。



「俺は、君を守りたいと思った」



 あの言葉が、嬉しさと怖さを同時に呼び起こす。


 香帆は誰かに守られたかった。でも、同時に「守られる存在」だと認識されることに恐怖を覚えていた。なぜならそれは、“自分は普通じゃない”と突きつけられるのと同じだからだ。


 午前の講義の後、香帆は一人で購買に向かった。友人たちとは自然に距離をとってしまっていた。友人たちを巻き込みたくないし、この状況を知られてしまうのも嫌なのだ。


 人は1度レッテルを貼られたしまうと、それを剥がすのは容易ではない。



「(また、風が……)」



 髪がふわりと舞う。

 その瞬間、すれ違った男子学生が一瞬こちらを見た気がした。


 ただの視線かもしれない。

 でも、昨日も――その前も、何度か同じようなことがあった。



(これって、偶然? それとも――)


 正直、気にしすぎているのかもしれないと思う時もある。


 スマホを取り出すと、また1件、新しいフォロワーが増えていた。アイコンは、香帆が今までSNSで投稿してきた風景などを一部切り抜いたもの。


 自分以外フォローしておらず、投稿も1度もない怪しさ満点のアカウント。



「……また、知らないアカウント」



 静かに息を吐いて、画面を閉じる。

 心の奥にある“不安”がじわじわと広がっていく。


 どこに行っても逃げ場のない。そんな恐怖。





――――――




 午後、香帆は講義の合間に図書館へ足を運んだ。

 何気なく入った資料室で、一冊の本を手に取った。


 タイトルは『人間の新たな生態変化』。

 自分には関係ないと避けてきたジャンルだった。


 しかし、なぜかその本のページをめくる手が止まらなかった。


(血の覚醒。DNAの再構成。人体構造の変化。新たなる機関の発現)


 難しい単語だったが、書かれている現象の一部に、心当たりがありすぎて怖くなった。


 今まで出会ってきた、自分の血を求める異能者らしき人物、それと血の覚醒という言葉。そんな2つの言葉だけでも、自分は平穏とは程遠い状況であると思わされた。



「(……私は、何者なの?)」



 中学の頃、放課後の駅で、知らない男が話しかけてきた。



「君、いい匂いがするね。なんの香水?」



 香帆は驚き、無視して足早に歩いた。

 その日から数日、学校帰りにその男が現れるようになった。


 怖くて、何も言えずにいた。でも、ある日、男が腕を掴んできた瞬間――

 心が凍りついた。


 助けてくれたのは、偶然通りかかった通行人だった。



「親に言ったら、学校に言ったら、自分が“変”だと思われる……」



 その恐怖が、ずっと心の奥に残っている。






――――――





「如月さん?」



 突然、肩を軽く叩かれた。

 びくりと振り返ると、そこにいたのは白赤郷夜だった。


 その顔を見ただけで、先程までの不安が少し和らいだ気がした。



「……白赤くん」


「ごめん。驚かせた。偶々見かけたから」



 香帆は本を慌てて閉じた。

 彼に見られたくなかった。異能について調べていることを知られたくなかった。


 目を逸らしても何も変わらないとわかっていながらも、咄嗟の行動を止められなかった。


 自分から危険へと踏み込んでいるのを知られて、変な心配をかけたくなかった。



「なに読んでたの?」


「ううん、なんでもない。ちょっと、調べもの……」



 視線を逸らした香帆の態度に、郷夜は無理に追及しなかった。


 しばらく沈黙が続いた。



「……何かあった?」



  郷夜の言葉にドキリとしてしまう。

 香帆は口を開きかけて、また閉じた。

 だけど、どうしても言いたくなった。


 彼ならば、自分を否定することなく話を受け入れてくれるだろうと。



「……ここ数日、誰かに見られてる気がするの。SNSでも……知らないアカウントが増えてて。気のせいだと思ってたけど、最近は夢にも出てくる」


「夢?」


「うん……見知らぬ何かが部屋の窓から覗いてる夢。正体見えないんだけど、どこかで見たことあるような気がする……そんな、気味の悪い感覚」



 郷夜の表情が鋭くなる。


 こういった感覚は、郷夜の直感では間違いではないと告げてきた。

 心休まる場所すらありそうにない香帆の状況に、郷夜は踏み込むことを躊躇わずに話を聞き出す。



「具体的に、どんなアカウント?」


「……この前の事件のあと、いきなりフォロワーが増えたの。何も投稿してない。でも、アイコンが……なんていうか、私が撮った写真を加工したものだったりして……」


「そんな露骨なことしてくるってことは、随分とお相手さんはご機嫌みたいだな」



 郷夜の声は静かだが、確かな怒りがにじんでいた。

 休まる場所のない苦痛を、実態の見えにくい恐怖を、香帆の置かれている状況を考えれば考えるほど、郷夜の拳は赤く硬く握られていく。



「……許すとか、許さないとかそんな話じゃなくなってきたな」




 郷夜はすぐにスマホで豪へとメッセージを送信する。



 「(……この行動が、さらに彼女を危険に晒してしまうかもしれないけど、許すわけにはいかない)」



 その言葉と怒りを隠さない郷夜の様子に、香帆の胸が少しだけ温かくなる。

 でも、同時に思ってしまう。



「(白赤くんは、どこまで私のことを知ってるんだろう)」



 私の血が“何か”を引き寄せること。

 それはもう、偶然なんかじゃない。


 彼の抱いてくれる怒りは、私の異質に惹かれておかしくなった結果なのかもしれない。


 私のせいで、また彼が怪我をしてしまうかもしれない。そんな想いも溢れてきてしまう。


 安堵と罪悪感、そして不安でいっぱいだった。




――――――





 その夜、香帆の住むマンションの前に、不自然な人影が立っていた。


 フードを深く被った男が、スマホを手に、アパートの窓を見上げている。


 男の背後では、街灯の下に溶けるように、小さな影がいくつも這っていた。

最後まで閲覧していただきありがとうございました!


朝7時前後を固定更新時間にしつつ、ブックマークして下さった方や、評価やレビューしてくださった方が増えてたら追加で更新していこうと思っています。

『大罪の魔王』のときと同じノリで更新してきます!!

基本は1日1話予定ですm--m


次話もよろしくお願い致します。

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