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第3話 『異質』な気配

『吸血鬼は馴染みたい』第3話を閲覧していただきありがとうございます。


第1章途中から1日1話更新にする予定なのですが、どの時間帯に更新しようか迷ってます。

よろしければ意見お待ちしております。


 

 夜19時過ぎ。キャンパス南側の大学裏で入り口から少し進んだ先にある裏道は、授業終わりの学生たちが稀に通るくらいで、この時間には人通りがほとんど見られない。


 そんな道を、ひとりの少女が歩いていた。


 漆黒の長髪に、鮮やかな青のメッシュ。身長もそこそこあって姿勢が良く、白のカットソーに紺のカーディガンを羽織っている。シンプルな格好ながらも、通りすがる多くの人が二度見してしまうような、品と華のある空気を纏っている。


 『如月 香帆(きさらぎ かほ)』愛福大学2年生で教育について学んでいる者だ。


 自覚は薄いが、彼女は“異能者”にとって、本能を揺さぶる『香り』を放っている。


 


「(……もしかして、また?)」



 香帆は、かすかに後ろを振り返った。


 先程から視線を感じていた。はっきりと”見られている”というより“狙われている”感覚。


 人混みの中でならまだやり過ごせるが、人気も少なく住宅もほとんどない小さな道。気のせいかと思いながらも、これまでの経験がそれを否定する。


 昔から、こういうことが多かった。


 好かれる。懐かれる。絡まれる。


 普通に過ごしているだけなのに、変わった人にばかり追いかけられる。


 だが、今日のそれは、いつもと気配が違うように感じた。

 


「……ねぇ、君」



 不意に、路地の先から声がした。



「(追われてると思ってたのに……なんで前にいるの!?)」



 香帆が足を止めると、前方に3人の男が立ちはだかっていた。年齢は自分とそう変わらない。声に感情が入っておらず、表情はどこか抜け落ちている。


 無表情。瞳に焦点がない。笑っているようで、笑っていない。


 明らかなに不自然な状態。



「君……香帆さん、だよね?」


「2年の有名人だよね?」


「あなたみたいな人を惹きつけそうな人は、私たちと一緒にいたほうが良い」


 

 チラシを差し出してくる。駅前で配られていた“異能者賛同運動”と書かれたあれだ。


 『異能者』に対して賛同する運動が活発だというのは友達との話でも、SNSでも何度か見たし聞いてきた。いざそれを目の前にすると香帆の内側から恐れが湧き出てきた。


 この人たち“目が生きてない”。


 

「ごめんなさい。急いでるので……」


 


 香帆は一歩引いて、逃げるように振り返る。


 だが、先ほど香帆が感じていたように2人の男が林の中から出てくる。


 直線の道で5人に囲まれるという絶望的な状況。今まで執拗に迫ってきた人たちは1人であり、複数人にこのように迫られた経験の無い香帆はどうすればいいのかわからなかった。



「ねぇ、逃げないで。仲良くしたいだけなんだ。友達の多い香帆さんなら僕らとも友達になってくれるだろ?」


「君の血は……凄く綺麗な匂いがする」


 


 ぞくりと、背筋が粟立つ。


 男の一人が香帆に近づきながら、ふらふらと手を伸ばしてくる。


 

「――っ、触らないで!」



 恐怖が爆発し、香帆は反射的に叫んだ。


 次の瞬間――


 

 「おい。やめとけ」

 


 静かで少しの怒りを孕んだ声が、夜の道に落ちた。


 香帆のことだけを見ていた男たちが一斉に振り返る。


 そこにいたのは、一人の男。


 黄色のパーカーに黒のズボン、赤いスニーカーと、少し目がチカチカしそうな格好、耳につけていたイヤホンを取り外しながら、香帆のことを囲む男たちをにらむ。


 白赤郷夜だった。


 

「何、君? 香帆さんの知り合い?」


「俺たちはただ、彼女を迎えに来ただけで――」


「黙ってろッ」


 

 ――バキッ!!

 


 最後まで言わせなかった。


 郷夜の右足が一閃し、最前列の男が脇腹を守るように構えに入るも間に合わずに突き刺さる。


 悲鳴を上げて吹き飛ぶ男。雑木林の中へと吹き飛んだ男を気にかけることなく、郷夜は鼻をひくつかせた。



「やっぱりな。近づくと丸わかりだ……異常な匂いだ」


「……排除しろ」


 

 残りの4人が、ギリギリと歯ぎしりする。


 1番大きな身体の男が郷夜を完全に標的にしたのをスイッチにしたのか、誰かに命令されたかのように、全員の目が同時に光を帯びる。


 さらに強くなる『異能』の匂い。


 

「……終わったあとのことは今はいい」


 

 郷夜は左足を半歩前に出し、両拳をあげてファイティングポーズをとる。


 異能発動終了後に訪れる脱力感と吸血衝動なんて今はどうでもいいこと。


 その瞳が真紅に染まっていく。


 香帆に自分が異能者であることを知られてしまうことにはなるが、今それよりも助けを求めている人のために、異能者が誰かを傷つける事件を減らすために、郷夜は自身の異能を解き放つ。


 

「『血月への帰郷(ブラッドムーン)』」



 軽い呟きのような宣言だが、確かな強い怒りを感じる異能の発動は、空気を震わせた。


 郷夜の背から圧力のような気配が溢れ、視界が広がり世界がクリアに視える。内側から全能感が湧き出てくる。



「ウオアァッ!!」


「病院送りぐらいは勘弁しろよ」



――ドスッ!!


 

 香帆に興味を無くしたかのように4人が一斉に郷夜に向けて動き出す。


 1番近い迫りくる男に得意の飛び膝蹴りを入れる。鈍い音とともに男は血を吐きながらドスンと倒れる。


 倒れた者には目もくれず、郷夜は次の一手を仕掛ける。


 

「一撃一倒ッ」


 

 郷夜の右から来た男の拳を上体を前に反らして避け、上体を戻す勢いをも利用した右のアッパーカットで顎を撃ち抜く。


 アッパーカットで空いた腰めがけて飛びかかってきた男に対しては、振り上げていた右腕を勢いよく打ち下ろし、右肘を飛びかかる男の右肩に叩きつけ、男を地面に沈める。


 最後の1人に素早く近づきトドメの一撃を叩き込む。



――ドスッ ドスッ!!


 

「『捕らえて砕く槌膝(カオ・パ・ルア)』」


「ゴハァァ……」


 

 最後の1人が倒れたのを確認し、郷夜は一息ついて肩の力を抜いた。


 そんな姿を香帆は驚愕しながら見ることしか出来なかった。


 大学で見たことあるような気がする。それだけの存在だったはずの男が、まるでヒーローのように5人の男を薙ぎ倒した。


 先ほどまで感じていた恐怖は、いつの間にか消えていた。


 倒れた男たちの様子を見ながら、どこかに連絡している郷夜を見て、安心感が少しだけ出てきた。


 


「……知り合い?」


 

 香帆の問いに、郷夜は顔を背けた。

 

 とりあえず普通の会話ができそうなことに一安心しつつ、郷夜は香帆の問いに答える。


 

「……知らん顔だな。とりあえず、ナイス叫び」


「……ありがとう。今回ばかりはダメかと思った」


「囲まれてた感じ、こいつらに準備されてたっぽいな」


「大学いるときも変な感じしたんだけど……道変えなきゃダメだった」


「変な感じがするで、いつも通りを変えれるほど人間偉くないもんだ」



 倒れている5人に感じていた『異質』の気配と匂いが急に消えてしまったことに疑問を感じつつも、香帆が落ち着けるように会話を続けながら考えを深めていく。


 こんな気配と匂いが出現したり消えたりされると、なかなか掴みづいけど今回はたまたま噛み合った結果。


 自分の髪を触りながら考え込む郷夜に対し、香帆がゆっくりと近づいて、郷夜の服の裾に触れた。


 

「……ありがとう」

 


 その一言に、郷夜は返す言葉を持たなかった。


 香帆の目を見た瞬間に溢れてきた吸血衝動を抑えることに必死になってしまった。


 この“特別な血”の匂いが、いったい何を意味するのか――そのときの彼は、まだ知らなかった。


 暗く涼し気な風が雑木林を揺らしていた。

 

最後まで閲覧していただきありがとうございました!!


自分の通っていた大学もこんな感じで色々出入りできるところあったなぁと懐かしい感じがします。


『大罪の魔王』という完結作品を書いてました。そちらは全然違うジャンルですが、よろしければ覗いてみてください。コミカライズ作品になっているので、良かったら漫画としても楽しめます。


次話の更新時間はX(旧Twitter)にて呟く予定です。


ありがとうございました!!

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