第2話 『優しさ』の音
『吸血鬼は馴染みたい』を閲覧していただきありがとうございます!!
格ゲーをやっており、最近出たキャラの影響でムエタイを好きになったのですが、ムエタイってカッコ良すぎませんか??
ムエタイを知れる漫画やアニメ情報、教えてくださいませm--m
カラン、と小さく鳴るドアベルの音が、静かな朝に溶けていった。
喫茶『渡り鳥の休み木』。愛福大学から徒歩10分の路地裏にある、鮮やかな木目調が目立つ喫茶店。曇りがかったガラス戸、木製のテーブルと椅子、微かに鳴っている懐メロやクラシックたち。
――それは、白赤 郷夜にとって“安心できる人間社会の居場所”だ。
「……豪さん、諸々の補充終わりました」
無言でカウンター奥の男がうなずく。『斎藤 豪』。『渡り鳥の休み木』の店長夫婦の旦那にして、無口な職人肌の男。身長は190近くあり、熊のような体格だが、繊細で丁寧な作業が評判な人物。
豪は、返事もせず黙々とグラインダーの音に集中している。だが、郷夜の問いにうなずいたということは、ちゃんと聞いてはいる。
至って変わらぬいつものコミュニケーションの風景だ。
「郷夜くん、ありがとう。新しいケーキも出来たから、あとで味見してってね」
厨房の奥から顔を覗かせたのは、豪の妻であり、この喫茶店の絶対的存在『斎藤 惠』だった。長く明るい茶髪を後ろで結び、やさしい目と柔らかな声。まるで陽だまりのような笑みをいつも浮かべている。
「……ありがとうございます。楽しみです」
「甘さは控えめだから郷夜くん好みかもね」
「色々食べさせてもらってありがとうございます」
「全然。むしろ頼りっぱなしで困っちゃうわ……もっと食べてもらってエネルギー補給してもらわないと」
「ケーキ作りの腕を追いつくためにも、いただきます」
「期待してるからね」
軽く笑い返しながら、郷夜は拭いていたグラスを棚に戻す。何気ない暖かい会話が郷夜にとっては心に染みるモノであった。
この店では特異な力を持つ異能者であることを気にせずにいられる。
ただの人間でいられる郷夜にとっての大事な場所なのである。
だからこそ、この時間が、いつか壊れてしまう気がしてならない。
誰にも言えない力を抱えて、こうして笑っていられる日常が、あまりに脆くて儚く感じる郷夜なのであった。
―――――――
「こんにちは!!」
明るく派手な声とともに、ドアベルが鳴った。
「もうそんな時間か」
郷夜がボソリとつぶやく。
入ってきたのは、明るい金髪を揺らす少女、獅子堂 蓮華。大学の後輩であり、郷夜と同じで地元を離れた下宿生のため大学付近は出没場所である。黒のスカートに白パーカー、耳元では三日月型のピアスが揺れている。
「恵さんこんにちは!! 豪さんもお元気そうで」
蓮華が勝手知ったる様子でカウンター奥に手を振ると、豪は目線を上げてひとつ、うなずいただけだった。
「じゃあ~先輩。アイスミルクティーと、なにかおすすめのケーキお願いします♪」
「恵さん、いつもの注文入りました」
「了解。蓮華ちゃん、今日は課題の相談?」
「そうなんですよ。先輩が助けてくれるって言うから♪」
「言った覚えも無ければ、頼まれた記憶も無いぞ」
「え~……心の中では“しょうがねぇな”って思ってくれてるくせに♪」
郷夜は肩をすくめ、ミルクティーと桃のタルトを皿に盛ってカウンターに出す。蓮華が嬉しそうに手を叩いた。
蓮華が困ったときには、いきなり郷夜を訪ねてお願いをする。このやり取りは小学生のころからずっと一緒だからこそのものだ。
「わー!! これが本日のおすすめですか~?」
「一応な。俺がさっき作らせてもらったやつだ」
「お~……じゃ~先輩の味ってことだっ」
「……不穏な言い方するな」
蓮華はくすくすと笑って、椅子にちょこんと座った。
2つの品を綺麗に並べ、いそいそとスマホで写真をとってニコニコしている蓮華を優しく見守りながら、郷夜は心地よさを感じていた。
「ほんっとうに雰囲気良いよね、ここ。いつ来ても先輩ニコニコしてるし」
「豪さんも惠さんも優しくしてくれるし、お客さんも良い人ばかりだし……何より静かで落ち着くからな」
「ふーん。じゃあ、私がうるさくしてたら、嫌?」
「……少し静かにしてくれたら合格点だな」
「居ても良いってことだね♪」
やかましい。だが、悪くはない。
このやりとりが“普通の大学生”に見えるなら……それだけで、今日という日は良い日だったなと郷夜は思ったのであった。
―――――――
夕暮れの光が傾きはじめた頃、郷夜はエプロンを外し、斉藤夫妻に軽く頭を下げた。
「先に上がります。新作美味しかったです……ありがとうございました」
「お疲れ様。もう2年生だからって遅くなりすぎないようにね」
「……変なやつに絡まれたら、蓮華が追い払いに行きそうですけどね」
「まっかせてください!!」
「それはちょっと心配だわ……」
小さな笑いが、静かな店内に灯る。
その笑いを背に受けながら、郷夜と蓮華は大学の図書館へ向かった。
―――――――
大学の図書館棟は、土曜の夕方になってもそこそこ人がいた。
天井が高く、白と青の2色を中心とした床や壁、暖色のランプが柔らかな光を灯す空間。ここもまた、郷夜にとっては『騒がしくない』貴重な場所だった。
「ここの空気、ほんと落ち着くよねー。涼しいし静かだし」
「ここだと蓮華も静かだしな」
「今は図書館モード。若者はTPOで生きてるの。……はい、先輩、レジュメ」
蓮華が手渡してきたのは、心理学のレポート課題。
1年生は講義も多くて課題もたくさんで大変だったなと郷夜は思いながら、レジュメをめくっていく。
「『子どもがみせるしぐさから見る心理状態について』か……講義内容と自分の考えをまとめるような流れだけど……俺いるか?」
「先輩の意見を聞きながらまとめたいんです~」
「……頑張れよ将来のチャイルド心理カウンセラーさん」
「まだ勉強し始めたばかりですけどね。先輩たくさんお悩み相談してくれていいんですよ?」
郷夜は少しだけ目をそらす。
俺は子ども扱いなんだなと思いつつも、せっかくと言うことで蓮華に考えを聞いてみることにした。
「悩みってほどじゃないけどな……最近、大学前でのあのデモが気になるかな」
「『異能者賛同運動』とか言ってるやつ?」
「あまりにも怪しくて不気味な活動だろ? 何人かは目が笑って無くて同じことを連呼してるみたいな話を聞いたしな」
「……ここらへんで今一番アツい話題になりつつあるもんね。内容が内容なだけに誰かに操られてんじゃないのって思うし」
蓮華がぽつりと呟いたその声に、郷夜はわずかに目を細めた。
自分ではない誰かに己が支配されてしまう。違う何かに飲み込まれるというイメージが脳内に浮かび上がってきて郷夜は気分が悪くなった。
自分が『異能』という強大な力に飲まれてしまうイメージがこべりつく。
「そういうの、苦手なんだよな……自分が自分じゃない誰かに飲まれそうになる感じがして」
「……アタシは」
蓮華が視線をゆっくりと落とす。
どこか儚さを感じさせる声色で、ポツポツと自分の想いを郷夜に呟きはじめる。
「私はね、飲まれてもいいって思える人が、ひとりだけいるの」
「……」
「でも、それは誰かに言われたからじゃなくても、自分の意志でしっかりとその人の隣に居続けたいからさ……勉強しなきゃ♪ 自分をしっかり持つためにもね」
その目はまっすぐで、少しだけ恥ずかしそうだった。
「そういうとこ、偉いな」
「でしょ? たくさん褒めてくれておっけい♪」
「……よくやってる、蓮華」
「えへへっ。じゃあ、ご褒美は今日のご飯先輩の奢りで」
小さくも明るく強い笑いが、図書館の片隅で咲く。
とても暖かく穏やかな時間を過ごす2人だが……確実に近づいてくる不穏な空気を確かに感じているのだった。
最後まで閲覧していただきありがとうございます!!
大学生時代が懐かしいです。1年2年の頃は図書館で色々やっておりました。
心理学の講義とか懐かしくて涙が出そうです。
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