第1話 『日陰』を歩む者
『吸血鬼は馴染みたい』第1話を閲覧していただきありがとうございます!!
前に『大罪の魔王』というのを書いていたんですが、一人称作品だったのに対して、いきなり三人称に挑戦するもんだから難しすぎる。
勉強になりそうな作品教えてください。
爽やかな風が肌を撫でる五月の中旬、昼前の太陽が照りつける。
都心から電車で30分程の場所にある『自然に囲まれた環境』で有名な愛福大学のキャンパス。そんなキャンバス内を歩く白赤 郷夜の顔が、しかめっ面になるのは、晴れの日にはお決まりとも言えるような状態だ。
「……真昼は戦場だ。こればっかりはいつまで経っても慣れない」
郷夜は白いパーカーのフードを軽くかぶり、頭に掛けていたサングラスを目元へとずらす。
光が刺すように皮膚を刺激するたび、肌がざわついていた。
日差し――郷夜にとっての“天敵”だ。
ここ十数年で出てきた人間では考えられない超人的な力を持つ者『異能者』。あまりに強大な力を持つ異能者に各国頭を悩ませながらも、どうにか警備体制や管理体制を整えてきてはいるが、『異能者』という存在ははみ出し者扱いである。
『吸血鬼』の特性を持つという異能を持つ郷夜は社会に馴染むのはもちろん、日常生活を送るにも一苦労だ。
真昼の直射日光は肌を焦がし、ニンニク料理の匂いには目頭がきゅっと痛む。
その証拠に、学食では毎回のように注文を迷う。
「最近の料理はとりあえずニンニクが多すぎる。とりあえず入れときゃいいと思ってるだろ」
ニンニクやらガーリックやらを聞いただけで郷夜の頭は鈍く痛む。
郷夜は無言でリュックから1本で満足できるカロリーバーを2本取り出し、4つある大学入り口である『駅前正門』にある端のベンチに腰を下ろす。日陰を選んだのはもちろん、日差しを避け穏やかな時間を過ごすためだ。
行きかう学生たちの視線が、微かに突き刺さる。
「(わざわざ外……しかも正門前でカロリーバーを食べてる奴いたら気になるか……さすがに)」
サングラスにパーカー姿、講義にはしっかり出席しているが、サークルには入っていない。
大学近くの喫茶店で働いており、1年生にして愛福大学のマスコット的な人気者の称号を手にしている獅子堂蓮華と仲良しいう不思議な存在。
“あいつ、何者?”
“あんな怪しい風貌なのに蓮華ちゃんと親しいのウケる”
“サングラス、イキってね?”
郷夜の耳には届いていないが、そうした空気を感じ取れないほど鈍くはない。
とはいえ、自分の正体を知られるわけにはいかない。この異能者に対して厳しい世の中で自身の正体を明かすのは危険すぎるのだ。
ふと、脇に人影が現れた。
「よっ。すげぇ場所で食べてんな」
「……鉄真か」
猿川鉄真。郷夜の数少ない、大学で気を許して話せる友人。
180cmの郷夜よりも背丈もガタイもよく、口調はやや雑で根は非常に優しい。今では古さ香る軽めのリーゼントヘアの大男である。郷夜とは入学当初から同じ講義をいくつか取っていて、何となく仲良くなった。
「昼、学食行かんの? 今日のガーリックライス美味そうだったぜ」
「……ニンニクがダメなんだよ、俺」
「そういえばそうだったな……損してんぞ」
「お前の四郎系ラーメンのシャツ見てるだけで頭が痛い」
「茹で前700gの全マシマシTシャツだぞ。なかなか気に入ってんだけどな」
郷夜は軽く肩をすくめる。
年中サングラスに長袖でいるような郷夜と仲良くするのは、郷夜の歴史上でも珍しい部類の人間だ。そんな存在が郷夜の中では非常にありがたいものとなっている。
郷夜は鉄真に対し、少し悩まし気な顔をして質問を投げかける。
「ところでアレ……見たか?」
「もう1時間くらいになるな」
「あんなの初めてじゃね? 見たことないんだが」
「……小規模とは言え大学前、さすがに大学側も黙ってないだろうし、下手したら警察案件だと思うけど」
「変っつーか……怖くね?。デモ行為的な活動の癖に熱が無いってか不気味さが凄いってか」
郷夜はその通りだと頷いた。
わざとらしいほどに、不自然を匂わせる統率のとれた集団、まるで軍隊のよう。
普段なら異能者に対する差別や嫌悪のほうが根深いのが世間の意見。若者が集まって異能者へ肯定的な意見を訴えるのは自分たちの首を絞める行為になりかねない。
それなのに、ああも堂々と賛同を掲げる者たちが現れるのは不自然だと郷夜たちは感じた。
「(あの熱の無い淡々とした抗議活動。しかも若者ばかり……さすがに怪しいよな)」
視線の端に、駅前でのデモの様子を遠巻きに見ている人影が映る。
今や些細な情報もSNSですぐに広がる世の中、駅前で行われていると知った学生たちが興味本位であったり、自身のSNSで様子を載せるためにとデモ前に集まっている。
そのとき、講義棟側から声が聞こえてきた。
「せんぱーい♪ あ、鉄真さんもいる」
振り返ると、金髪に小さな銀月のピアスが揺れる郷夜たちの1個下の後輩少女『獅子堂蓮華』が駆けてくるところだった。
肩まである金髪をふわりと跳ねさせ、スニーカーにスカート姿という軽い格好で、蒼い瞳をキラキラさせながら満面の笑みを浮かべながらスキップしている。
郷夜の中では人懐っこい金髪ギャル後輩という位置づけ。
「先輩目立つからどこいるかすぐわかったよ~。新しいピアスどう?」
「……うん。似合ってる。洒落たデザインだな」
「えへへっ♪、さすが先輩、分かってる!!」
「すげーな。講義棟からここに来るだけで、道中の男が皆振り返ってたぞ」
褒められたことがご満悦なようで満面の笑みを見せ郷夜の周りをぴょこぴょこ跳ね回る蓮華の姿を見て、鉄真は「またか」とため息をこぼす。
「ほんと仲いいな、お前ら。いや、羨ましいわ」
「さすがに小学校からの仲ってやつだ」
「なかなか居ないもんだけどな。小学校から大学まで一緒の後輩なんてよ」
「幼稚園まで一緒だったらコンプリートだったのになぁ~」
郷夜は蓮華の相変わらずの明るさと軽さに優し気な笑みを浮かべる。
その無邪気な笑顔に、時折自分が救われていると、誰よりも自覚していた。
だが同時に――怖くもあった。
異能者が問題を起こしつつある現代社会で、簡単に人を傷つけることの出来る力を持っていることを知られたら……自分の周りの環境はどうなってしまうのだろうかと。
「そういえば、先輩。アレ見てきた?」
「前までは行ってないけど、まぁ……ここからでもなんとなく分かる」
「凄いよねアレ。 これ見て先輩」
蓮華が郷夜にスマホを差し出す。そこにはデモで配られている1枚のチラシが映し出されていた。
『普通という殻に閉じこもった、つまらない若者よ。異能者という新時代の支配者の元へ集え』
この活動の中心人物が自身を異能者であることを明かしているあげくに、若者を自分たちの活動のために集めているという誰が見ても怪しい内容の1枚。
さすがの内容に郷夜と鉄真は思わず眉間に皺を寄せた。
「こういうの……昔あった異能者一人が数百人を戦争のための私兵にしようとした事件と似た流れだよね? 外国であったやつ」
「怪しいレベルを超えて危険かもな。 近づかないほうが良いぞ……さすがに大学と警察が動くだろ」
「はぁ~い」
「んじゃ……俺は学食行ってくるわ」
「先輩はアタシとお昼ご飯タイム♪」
「わざわざ昼飯のために探しに来たのか……また後でな鉄真」
「おう! 仲良くやれよ」
「鉄真さんお疲れ様です♪」
こんな身近なところまで、異能者であることを明かした存在が近づいてきていることに少し恐れを感じつつ、郷夜は蓮華は自作のお弁当を取り出し、中身の紹介をしてくれているのをしっかりとリアクションを入れつつ聞いていた。
漂う陰湿な血の気配を感じながら。
最後まで閲覧していただきありがとうございます!!
第1章完結まではポンポン更新予定ですので、よろしくお願い致します。
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