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第12話 『赤き衝動』は花開く

『吸血鬼は馴染みたい』を閲覧していただきありがとうございます!


血を美味しそうと感じる感覚、どんなものなんでしょうね?

やっぱ色んなもの食べてる人間の血が魅力的なんでしょうか。



 

 背中を裂いた熱と衝撃に、郷夜はその場で僅かによろめいた。


 鋭い蛭の触手。命を刈るためだけに形を成したかのようなそれが、服と皮膚を裂き、背中から肩甲骨の奥へと肉をえぐっていく。電撃のような痛みと共に、熱と冷たさが交互に走る。


 視界の端で、赤い霧が滲み始める。

 赤雷の鼓動が、鈍く、重く、遅れて身体にまとわりつく。


 『血月への帰郷(ブラッドムーン)』──今の郷夜に使用可能な時間、6分。 

 限界が、郷夜の五感を縛り始めていた。



「……は、ァ……ここからなのに……まだ……!」



 郷夜は足を引きずりながら地面を蹴った。痛みに反射するように放った蹴りが巨体再び吹き飛ばし、壁に叩きつけられ赤雷によって感電すし動きを止めた。


 だがその直後、背後の闇から、蛭男の触手が襲いかかる。

 避けきれない。

 動かない左腕を盾にしようとしたその瞬間に、今出せる最大出力を解放する



 「痺れてろッ!!」



――バリバリッ!!



 触手が自分の腕に当たる直前に赤雷を勢いよく放電した。


 焼け焦げて消失する触手を伝って蛭男にも赤雷が届く。

 蹴り飛ばした巨体蛭にも赤雷による感電が少しは効いていると見た、郷夜によるカウンターが上手く効を奏した。


 背後から駆け寄る香帆の気配と足音を耳に入れつつ、視線は蛭男から離すことが出来ない。



 「……うぐぅ……面白いな。赤ん坊吸血鬼」



 バチバチと赤雷が男に張り付く蛭を焼き焦がし、本体にもダメージを与える。


 蛭の血が至る所に散布されているが、彼女は怯まず、郷夜の元へ駆け寄った。



「立てる!? 白赤くん!!」


「こっちのが危険だ。……離れたほうがいい、急げッ」


「……あの女の人、壁を上ってきてた。だから待ってても家族を巻き込んじゃうかなって……それに放っておけない」


「……なるほど」



 香帆の震える声は、冷静さと恐怖が入り混じっていた。

 だが、その目だけは、はっきりと“郷夜”を見ていた。


 自分が執拗に狙われている状況で、家族のことを考えることができる優しさと、そこまで考えの回る……危機的状況への慣れ。


 郷夜に足りていない……窮地への経験だ。



「逃げるだけじゃ、また襲われるって……もう正面から出て来ちゃった」



 その姿が、郷夜の“迷い”を一瞬、揺らした。



 「(逃げないって……お前……)」



 だが同時に、それが引き金になった。


 体の奥底から、何かが“爆ぜた”。



 ──ゴギッ……!



 骨が軋む音。何かが勢いよく崩壊する引き金。


 頭の奥が、赤く染まり始める。


 『吸血衝動』。

 “人の血を啜りたい”という本能が、理性の壁を叩き割るように膨れ上がる。


 香帆の肌に跳ねた蛭の体液。傷ついた郷夜の鼻に届いたのは、血と鉄の匂い。そして──香帆の“あの血”の、甘い香り。


 蛭男と巨体蛭が感電とダメージで怯んでいる絶好のチャンスに訪れた、絶望的な衝動。



「──っ……、く、そ……!」



 思わず顔を背け、拳を地面に打ちつける。

 重い身体を無理やり動かして、香帆から距離をとる。



「白赤くん……?」


「来ちゃ……ダメだッ!!」



 叫ぶ声に、香帆の足が止まる。


 彼の背中から吹き出す赤い蒸気と血。

 地面を焦がすような赤雷。

 そして、濁った呼吸。震える手。


 それは、香帆が見たことのない“彼の姿”だった。



「けっこう……限界が来てる」



 郷夜は、自分の唇を噛んだ。


 血が流れる。

 それを啜れば、楽になるかもしれない。



 (自分の血を吸えば、衝動は一時的に抑えられる。でも──)



 目の前の強敵たちを確実に退けるには足りない。


 香帆を守るには──自分の限界を越えなきゃならない。


 その時、香帆がそっと言った。



「私、白赤くんのこと……少し怖かったけど……」


「でも、助けてくれた。何度も、何度も」


「だから、怖くても──信じてる。吸血鬼でも関係ないよ」



 ゆっくりと近づいてきた香帆の手が、郷夜の手に重なる。


 指先が震える。

 だが、逃げない。

 郷夜の瞳に、彼女の“決意”が映る。



「俺の浅い覚悟の……何倍も強いんだな」



 再び、郷夜が立ち上がった。


 赤雷が彼の身体を包み、蒸気が唸り声のように舞い上がる。


 全身の血が沸騰し湧き上がる感覚が身体を包む。



 「俺は……あんたみたいな化け物にはならない。人のまま、誰かを守れる異能者になるッ!!」



 叫びと共に、郷夜の身体が赤雷の奔流となって弾ける。


 その瞬間──地上から、蛭男が“跳んだ”。


 異形化した背の蛭翼が広がり、蝙蝠のように空を飛ぶ。



 「いくら叫んでも君は先ほどから半端者のままさ、結局甘い考えに支配された坊ちゃん吸血鬼だよ」



 蛭男の声が、空から降ってくる。


 完全に人を捨て、強大な異能の力を持つ男は、甘い覚悟と半端な力しか持たぬくせに言葉だけは一丁前の郷夜に対し、完全に実力差を理解したからこその言葉。



 「人間でも、吸血鬼でもなく──君は、君の正義でしか戦えない。だから弱い!!」


 「だったらそれでいい!!」



 郷夜が跳ぶ。


 香帆を優しく抱え、月が眩い夜の空へと全力で。


 夜の空に、真紅の雷が閃いた。


 その赤き衝動は、誰かを喰らうためではない。

 誰かを、守るために咲いた──夜の支配者としての、一歩目の証。



「ごめん……付き合ってくれるか?」


「こんな高いところで言われるのは怖いんだけど……いいよ。郷夜(・・)君にお任せする」

最後まで閲覧していただきありがとうございました!


本日はもう1話更新しようと思っております!!

時間はまだ未定なので、X(旧Twitter)にて呟こうと思ってます。


ブックマーク登録・評価や感想ありがとうございます!!

ブックマーク登録が1人増えてた!! とても嬉しいです!!


次話もよろしくお願い致します。

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