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第10話 『赤き月は駆ける』

『吸血鬼は馴染みたい』を閲覧していただきありがとうございます!


朝7時に更新してましたが、しばらく仕事で朝の時間が削られるため

夜9時前後に更新時間を変更します。


  

 夜風が、カーテンを揺らしていた。


 如月香帆は、眠れぬ夜の中でマンション周辺の空気が“変わって”いることに気づいていた。


 気配があった。そこには“人”ではない何かが──ぬめるように存在していた。


 そして、カーテンを開け、ベランダにいたのは──黒いフードを被った人らしき存在。


 至るところに張りつくような蛭が幾重にも身体を覆い、両眼は血走り、欲望と恍惚と狂気が入り交じったような笑みを浮かべていた。


 7階のベランダにどのように上がってきたのかなんていうことを考える冷静さは無かった。



「君の血……やっぱり、格別だ。一度、味わわせてくれないか?」



 香帆は即座に後退し、蛭の男から目を離さぬように距離をとる。

 窓越しだというのに、男の声が鮮明に響く。


 夜だと言うのに、狂気に満ちた顔が見える。



「近づかないで……!」



 だがその声をかき消すように、男が窓を開けようと一歩を踏み出す音が鳴る。


 刹那、天井より黒影が降り注ぐ。



 ——ドガァン!!



 男の頭を、真上からボールでも蹴るかのように、躊躇のない一撃が炸裂した。



「──郷夜くん!?」


「中で隠れてろッ‼︎」



 そう言って振り返る白赤郷夜の目は赤く染まっていた。獣のように、静かに、怒っていた。


 蛭の男は空中で体勢を整えながら、大量の蛭を触手のような形状で伸ばし、ベランダにいる郷夜へと反撃を試みる。


 そのまま、地面──地上7階から、裏路地へと落下。


 郷夜もそれを追って、大量の蛭で構成された触手を避けながら、地上へと飛び降りる。



「あの身体のどっから出したんだ」



 月夜に照らされた裏路地。ひと気のない夜の闇の中に、地響きのような音が響く。


 怒りと狂気、そして郷夜にむけられる香帆の純粋な祈るような気持ちが夜に渦巻く。


 7階の高さから落下しても無傷でいられる、人外同士の争いが始まる。



「……待ってるだけじゃ、後悔するよね」



 不穏な香帆の呟きは誰にも届かない。


 



——————





「おまえはな……! 何も知らないくせに、正義ヅラして……!」



 地面に這いつくばった蛭の男が、呻くように叫ぶ。

 ターゲットを目の前にまでして邪魔をされてしまい、蛭男は郷夜に対し怒りをぶつける。


 あの高さから蹴り飛ばして無傷なのは、さすがに想定外ではあるが、郷夜は動揺することなく構える。



「お前だな? 人のこと操って好き勝手してるら奴……蛭使って人を操れるなんてな」


「まさか……ここまで戦える異能者があの娘の味方とは」



 郷夜の視線は冷たい。


 だがその時──


 マンションの角から、何かが“走ってくる”気配。


 郷夜が振り返ったその先に見えたのは5つの人影。


 全員の目が虚ろで、肌には大小様々な蛭が張りついている。



「……くそったれな異能だ。本当に蛭だけでこんなこと出来るのかよ」


「劣等どもでは理解できなかった力だ。君は見る目がある」



 蛭の男が嗤う。


 1対6、圧倒的なまでの数の差。

 


「君を潰すために……私が撒いた“種”たちだよ」


「……いい趣味してるよ」



 郷夜は咄嗟に地を蹴って後退。


 五人の内訳は──若い男二人、女一人、中年男性一人、そして……高校生ぐらいの少年。


 全員、動きはバラバラだが、殺気は本物だった。


 その内の一人が、奇声とともに突撃してくる。


 郷夜は襲いかかる人物の身体をギリギリまで観察し、蛭の多いところを狙って一撃を叩き込む。



「オラァッ‼︎」



——バチバチッ‼︎



 赤い電を纏った前蹴りが炸裂。男の胸を撃ち抜くように直撃。蛭たちが蹴りの威力と高音の雷で消し飛んだ。


 その一撃で吹き飛んだ若い男は気を失う。


 だが──吹き飛び倒れた男の背中から、別の蛭がすぐに這い出し、地面を滑って蛭男の元へと向かっていく。



「……本当に、駒みたいに使いやがって」


「駒みたい……ではなく、駒として使っている」


「煽りが上手いな」



 郷夜が歯を食いしばる。


 操られてしまっているのは、まだ四人。


 しかも──そのうちの一人、中年男が何かのスプレー缶を取り出し、ライターで火をつけようとする。

 スプレー缶への着火に手慣れていることから、そういうことの出来る人間を選んで操作しているということ。



「多芸だなッ‼︎」



 即座に接近、男の腕を右のフックで強く打って、スプレー缶を弾き飛ばす。


 スプレー缶が地面に落ちる音とともに、他の寄生された者たちも郷夜にむかって襲いかかる。



「出来るだけ一撃で仕留めるからッ だから我慢してくれよ」



 郷夜の眼前で、少年の目が一瞬“涙を流す”。


 その瞳に宿った微かな理性を見てしまい、郷夜はとっさに拳を引いて、勢いよく後退して距離を取る。



「……馬鹿みたいだな」



 自分に言い聞かせるように、吐き捨てる。


 蛭男は笑っている。

 好き放題に、自分の異能を自在に使って、まるで遊びかのように楽しんでいる。


 一方の自分は、異能の力を恐れて……ギリギリの力で乗り越えようとしてる。

 目の前で泣いてる、異能の被害者がいると言うのに。



「そんな覚悟で……守れるかって話だよな」



——ブワッ‼︎


  

 郷夜を中心に巻き起こった風。


 郷夜に襲いかかる4人の寄生されし者たちが、思わず立ち止まってしまうほど濃密な殺気。


 バチバチと郷夜の身体から迸る赤雷と赤い蒸気。



――この衝動に怯えて、守れなっかったら……ただのエゴだ。



「……吸血鬼が蛭に怯えてどうすんだ」



——バチッ‼︎



「「グギャッ‼︎」」



 本能的な恐怖で思わず足を止めてしまった寄生されし者たち。

 郷夜に近かった運動部っぽい体格をした2人は、高速で接近する郷夜に反応できずに赤雷で感電させられ地面を這った。


 あまりに速く、そして先ほどまでとは生物としての雰囲気の違う郷夜に対し、蛭男の顔から楽しみの笑みが消えた。



「『血月への帰郷(ブラッドムーン)』」


「これが……これが異能者同士の殺し合いッ、楽しもうじゃないか!!」


「蛭が吸血鬼と同じ土俵に立てると思うなよ?」



 その真紅の瞳は、強い覚悟に染まっていた。




最後まで閲覧していただきありがとうございました!


蛭が大量に密集している絵面を想像すると、なんとも言えない気分になりますね。

ようやくガッツリ戦闘シーンになりました。

次話もこの流れを楽しんでいただけたら嬉しいです。

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