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想いは木になり 花と成る  作者: 夜野月人
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和服の君

「え~……席替えはこんなもので大丈夫だな~?」

 一通り自己紹介と席替えによる移動が終わり、私は廊下側の席になった。前の席にあざみがいるから嬉しくて足をパタパタと動かしていたら、廊下から誰かが歩いてくる音がして、思わず見るとさっきの和服の彼がこの教室へ入ってきた。

「おー、やっと来たか。皆知ってるかも知れないが改めて説明しようか」

 先生はその人を教壇へ手招きして、チョークを渡すと彼は黒板に名前を書き出す。

 待雪……颯? 名前は……多分はやとくん、かな…? 名字は…見たことないけど……。

「まつゆき そう、と読む。松雪は華道部に所属しててな、遅れたのと和服の理由はそれだろ?」

 先生がそういって初めてあぁ、だから和服なんだ! と納得がいき、松雪君を見ると優しく微笑みながら頷いた。それにしても和服にあってるなぁ……明るい茶髪に淡い色合いの着物と真っ黒な袴がいい感じに松雪くんの見た目と差し引きされている。和服……いいよねぇ……!!

「そしてこのクラスには知ってる人もいるかと思うが、一応言う。松雪はこの通り声が全く出せない。他は君達と全く同じだから、松雪と話したい場合は普通に話してやってくれ。松雪の返事はホワイトボードやノートに松雪が書いてくれる。あ、そうそう忘れてた。俺は(むかい) 春花(はるか)。かわいい名前だろ? このクラスではすでに何人か俺が担任してた生徒もいるなー、今年もよろしくな」

 和服に見とれていると、何でもない事のように衝撃の事実と先生の自己紹介が済まされ、私は体が固まってしまう。……声…声が、だせない……? そんな病気あるの? そんな事ある? え? とただただ混乱する。

「春ちゃんせんせー、今年もよろしくねー!」

「春ちゃん先生三年連続俺の担任じゃん。……さては俺のことっ……!?」

 先生へヤジを入れる生徒達に「おー、今年もよろしくな。あと君の事は普通」と苦笑して返す明るく賑やかな教室の中で、一人混乱しながらぼーっとする。

「颯、今年もよろしくぅ☆ はっちゃけてこうぜ☆」

「よろしくね松雪くん!」

 そんな声も聞こえるけれど、肝心の松雪くんに視線を向けても松雪くんは相手に笑い返してたり頷いたりしつつ教室の真ん中ラインにある机に座る。私は廊下側なので、少し距離があるけど……なぜか松雪くんが別の世界の人に見えた。それは服装のせいでも、実際の席の距離の関係でもなく……ただ、松雪くんの周囲だけがまるで知らない別の世界に、見えて。

「……??」

 そんな人が普通のクラスメイト達と仲良く話しかけられている違和感と、それゆえの、混乱と……微かな、不安と恐怖感……そして……。

「っ」

 まだ話しかけてもないのにそんな事思うなんて、と咄嗟に首を横に思い切り振り思ったことを頭の中から飛ばし深呼吸をする。何を今思ったんだ私は、こんな先入観一番ダメ…ダメなんだから…。

「ではそろそろ授業始めるぞ?」

 混乱する私をきちんと現実に引き戻すように迎先生の言葉が聞こえ、しっかりしなければと思考がハッキリした物へと切り替えようとする…けど、やっぱり心のどこかに松雪君の事が引っ掛かっていて…。

 ……だめだよ本当、偏見で差別なんて。一番やっちゃいけない事じゃん……と自分を叱りつけ授業に集中する。

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