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想いは木になり 花と成る  作者: 夜野月人
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出会い

 日が昇り、やるべき事をして、たまにだらけてまた頑張っていつの間にか終わる一日。

 何て事の無い日々の繰り返しの中、彼は長い髪をなびかせながら今日も逞しく咲く花達の元へ歩いていく。

「今日も綺麗だね、君達は」

 朝焼けの空の下、沢山の生け花がよく映えている。彼は昨日自分で仕上げ終えたスノードロップを主軸とした生け花に近づき、水を入れ換える準備をしだした。

「今日お客様が迎えにくるよ。楽しみかい?」

 相手は植物な為、彼の声に反応する事はない。カチカチと進む壁掛け時計の秒針の音と僕の呼吸音以外、何も聞こえない数分が過ぎていく。

「…今日は一段と良い顔だ。張り切ってお迎えされておいで」

 それでも彼は、声に出して語りかける。その姿はまるで植物と会話してるかのようだが…実際、本当に会話している。

 植物と会話、なんて…変に思うかもしれない。だがしかし、彼のように毎日花を見て生ける華道家なら花がどんな状態なのか一目で分かって当然というもの。

 僕は彼に気づいて貰うため近くの壁を軽くノックする。コンコン、と軽い音が響くと共に彼が振り返った。

「おはよう、(そう)。今日の調子はどうだい?」

 柔らかく微笑む彼の長く白い髪は朝焼けで桜色に光っていて美しい。いつもはピンク色の瞳も赤くなっていてとても幻想的だ。

 彼は僕の華道の師匠で、八重(やえ) (さくら)さん。二十三歳という若さで世界的に有名な華道家になった天才で今は華道の大学で臨時教師をしている。

 僕が頷いて微笑むと桜さんはいつものように頭を優しく撫でてくれた。

「今日は颯の作ったご飯だったね、楽しみだ」

 桜さんの上品で綺麗な笑顔に思わず微笑み返し、一緒にリビングへ戻って自分の席へ座る。作る順番は桜さんと僕で日替わりにしていて、今朝は僕の番だった。

 テーブルにはお味噌汁とご飯、昨日の晩御飯の余り物で作った野菜炒めと卵焼きがならんでいる。

「いただきます」

 二人で手を合わせてご飯を食べ始めた。よかった、今日も美味しく出来ている。

「颯は今日から高校三年生か、楽しみかい?」

 桜さんに頷きながら野菜炒めを咀嚼し、微笑んだ。樹と同じクラスになれるといいなと思いながら腕時計を見て時間を確認する。よし、まだ全然大丈夫だな。

「友達、増えるといいね」

 ゆったりと食事をしている桜さんに頷いてからご飯を食べ進めた。


           ―――★―――


「二度寝したぁぁああああ!!!」

 飛び起きてやばいやばいと呟きながら超特急で制服に着替え、癖毛な髪を適当に結ぶ。

 現在、七時三十分。自転車で全力で行けば間に合う…! と考えながら洗顔や歯磨きをする。

(つばめ)~、朝ごはんは食べていきなさいよ~?」

 リビングからお母さんが声をかけてくると同時、お腹がグルルル…と魔物のように鳴る。あぁぁ、お腹空いたぁ! 朝ごはんは食べないと頭が回らないからサクッと食べないと、と思い素早く歯磨きを終わらせてリビングの食卓へつく。

「頂きますっ!」

 手を合わせ、パンを口に入れながらスマホの充電確認をするとあざみや(すみれ)から「寝坊でもしたの?」「起きてる~?」と沢山のペインが来ていて申しわけなくなる。

「燕も今日から高校三年生なのね~、しんみりしちゃうわぁ~」

 ニコニコと微笑むお母さんに「これから忙しくなると思うけど楽しみ」と返事をしながらパンを食べ進める。

「ん、ご馳走様! それじゃあ行ってきます!」

 パンを詰め込み終わり、鞄を持って玄関へ向かうと「ちょっと、燕忘れ物!」とお母さんに腕を捕まれた。

「はい、お弁当。本当に忙しい一年になると思うけれど、高校最後の一年だもの。楽しんで青春してらっしゃいね」

 お母さんの優しさにじんわりと心が暖まる。私はお弁当を鞄の底に入れて、靴を履いてから振り返る。

「うん、思いっきり楽しむね! 行ってきます!」

 満面の笑顔で家から出て、「行ってらっしゃ~い」という母の声を聞きながら自転車の鍵を開け飛び乗る。

「急げっ!!」

 全力で自転車を漕げば余裕で間に合う…いや、間に合わせる! と思いながら人や車を確認しながら安全運転で急ぐ。


           ―――★―――


 遅刻十分前になんとか自転車置き場に付きました! 私を褒め称えたい……!!

「だがしかし! 教室に付くまでが遠足だぁぁ!」

 疲れで意味不明な事を言いながら自転車に鍵をかけ即座に走り出す。靴を履き替え……面倒!! でも履き替えないと! と葛藤しながらダッシュで廊下を走る。

 良い子も悪い子も真似しちゃ駄目だよ!? 遅刻は例外だけどね! なんて罪悪感にもかられるけど……急がないと本当にヤバい!

 代わり映えの無い廊下を走っていると、ふいに目の前に黄色が現れつい気になって立ち止まる。

「……花…?」

 階段の手前、少し空洞ができる場所に花が生けられていた。黄色の花が沢山で、春っぽさがあって可愛い。

「可愛い……綺麗だし、絶対プロが作ったやつだ~…」

 ほわぁ、と思わず息が漏れてしまう。可愛らしい黄色の花達を凛とした小さな白い花が際立たせてる。思わず写真を撮ろうとスマホを取り出すと後ろから何かに肩をつつかれた。

「ぴゃっ!!?」

 思わず驚きながら振り返ると、そこには和服の同い年くらいの男の子が立っていた。だ、誰…?

【こんにちは ところで君、急がないと授業遅れるよ?】

 混乱する私に少し申し訳なさそうに微笑んで、彼はとても綺麗な字でそう書かれたノートを持ち腕時計を見せてくれた。

「え? ???」

 何故ノートに書いてるのか分からずさらに混乱しながら彼の腕時計を見つめると、腕時計がさしてる時間は確かに急がないと一時限目に間に合わない時間だった。

「やばっ!? 遅れるっ」

 私はスマホを持ったままダッシュで階段へ向かい、ふと振り返り彼を見る。

「教えてくれてありがとうございます!」

 あいさつはちゃんと相手を見てするのよ~と母から教わったので、立ち止まってお辞儀をし即ダッシュする。

 やばいやばい、高校三年生にもなって遅刻は回避したいっ…!! と全力で廊下を走る。普段なら絶対廊下は走らないけどね!!

「遅れましたぁぁぁあ!!!」

 教室が見えた瞬間滑り込みのように入り挨拶すると同時、一時限目のチャイムがなったので「…これは、セーフなのでしょうか…?」と呟く。

大飛(おおとび) (つばめ)~、残念ながら遅刻(アウト)だ」

 担任であろう先生が生徒名簿のような物を持ちながら苦笑して「ですよねぇ~…」と諦めながら呼吸を整える。

「ほら、早く席につけ~? 殆ど知り合いかもしれんが、一応三年の自己紹介はじめるぞ~」

 けら、と爽やかな笑顔で苦笑する先生に良い先生そうだなと思いながら私の名前が張られた席に座る。

 周りを見ると、私の方を見て手を振ってるあざみと菫がいた。あ、同じクラスなんだ! 去年は二人共とは違うクラスだったから、嬉しいなぁ!

「まぁまだ一人居ないが仕方ない。自己紹介進めてくぞ~」

 先生の言葉に周りをキョロキョロと見ると、確かに空いてる席がある。確かに誰か居ないみたい……。誰なんだろう、あそこに座る人…。

「はい、じゃあ出席番号一番からー……」

 色々考えていると先生が自己紹介をはじめていく。私も前を向いて意識がそっちに向かって、さっきのノートの違和感も気にならなくなった。

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