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1-3

「足でも滑らせたのかもね。唯衣マジメでしっかり者なのに珍しい」


「そう、だったんだ」


「それも忘れてるのかー」


 しっかり者か。母はそう言ってくれていたけど、やはりそういう性格だったようだ。


 響也が「まあ仕方なくね?」と口を挟む。


「階段から落ちたのって夜なんだろ? 遅くまで塾にいたらしいから疲れてたんじゃないの? 十時ぐらいまで平気で自習スペースいるんだもんな、唯衣」


「あーそら疲れるのもしゃーないな。つか、詳しいな響也。お前らやっぱ付き合ってんの? 幼なじみで? それこそマンガじゃん」


「は? 響也、他校に彼女いなかったっけ。大々的に二股? 処すぞ」


「さすがにそこまでクズじゃねえわアホ」


「あれ? 響也、村上さんと付き合ってるんじゃなかったっけ」


「……村上さん?」


 なんだか聞き覚えがあって思わず声を上げれば、響也が少し目を丸くした。


「覚えてんの? まりあのこと」


「あ、いや、覚えてるわけじゃないんだけど、聞き馴染みがあるっていうか……村上まりあさんっていうの?」


「ああ。ちなみに付き合ってないからな俺とまりあは。俺他校に彼女いるから」


「そいや川谷さん、村上さんと八上と、あと清水とも仲良かったよな」


 清水。その名前にも、覚えがあるような気がした。


「たしかに光輝ともよく一緒にいるかもな。つか俺ら何気に四人でいること多いかも」


「……あー、まあ最近はそうじゃね? 四人でいるよなお前ら」


「村上さん大人しい系で川谷さんクールビューティで、清水が秀才眼鏡で八上が陽キャチャラ系って、なんか不思議な組み合わせだけどね」


「陽キャはともかく誰がチャラ系だって? ただ中学からの友達なの!」


「だってさ。ね、何か思い出したりする? 川谷さん」


「ううん……」


 首を振る。


 八上響也、村上まりあ、清水光輝。名前は聞き覚えがある。だが、中学からの友人だというのに、彼らとの思い出は何も思い出せない。


(それでも……わたし友達、いたんだ)


 これなら、大丈夫かもしれない。


 記憶を失って不安だったが、親しい友人がいるならまだ、なんとかなるかもしれない。




「おー、みんな来てるかー。来てないなー」


 ――八時半を少し過ぎたところで、まったくもって質問する気のなさそうな質問の声が響いた。無遠慮に扉が開き、ジャージ姿の男性が顔を覗かせる。担任の先生だろうか。


クラスメイトたちがこれまた無遠慮な様子でおはよー、おはよーと敬語も使わずに挨拶を投げかけるのを聞きながら、


「まーそろそろ授業始まるしとっとと出席取るぞ。席座れー。とはいっても全然来てないけどな」


 受験生だからって出欠甘く取ってたらすぐこれだよ、と先生が気怠そうに呟く。それに応えるように、皆家で遅くまで勉強してるから、来るのが遅いんですよと誰かが茶化すように声を投げた。愉快そうな、生徒達の甲高い笑いが弾ける。


「お、川谷は今日から復帰か。大丈夫か?」 


「あ、はい」


「大変だったなあ。一回俺もお見舞い行ったんだが、まだ気を失ったままだったんだ。だから話もできなくてなあ」


「あ、はい。母から聞いています。ご心配をおかけしたようで……」


「まあ怪我が治ってよかったよかった。いろいろ大変だとは思うが、このクラスにも隣のクラスにも仲がいいやつはいたよな? そいつらに助けてもらえ。もちろん俺に頼ってもいいけどこういうこと言うとセクハラって言う悪ガキが一定数いるから――」


「せんせー、セクハラでーす」


「ほらな」


 再び笑いが起こる。わたしも思わず笑う。


先生は出席を確認し終えると、とっとと教室を出ていった。その背中を意味もなく眺めていると、正面の席の響也がこちらを振り返った。


「唯衣、次移動教室だとさ。場所わかんないだろ? 一緒に行かね?」


「あ、そうなんだ。ありがと――」




『殺してやる』




「……!」


 響也とともに教室を後にしながら、不意に、あの声が脳内に響いた。


(……なんなの)


 誰のものかも判然としない声。目を覚ます前に聴いた声。


 ……この声は、物騒なセリフは、何かわたしの記憶と関係するのだろうか。



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