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清濁の青  作者: 白都アロ
6/10

虚心豹変

しとしとと、雨が降る。

服が濡れ、体が濡れて。

妹は横で、顔まで涙で濡れている。

え、僕?

僕は?って?

僕はもう泣いてなんかいない。

泣いたって何も変わらないって知っているから。

泣いたって早くお家に入れないって、わかってしまったから。

妹も早く気がつけばいいのに。

気づいてしまえば簡単なのに。

何度言ってみても分からないみたいで。

泣きたいなら泣けばいい。

僕はいつでも傍にいるから。[newpage]


・・・む。目が醒める。

顔が、濡れている。あぁ、泣いていたのか。他人事のように、気が付く。一体、何故。きっと、夢のせいだろう。しかし、何を視たのか、視てしまったのかは思い出せない。でも、そんなのはいつものことだ。だから、思い出せなくても別にいい。別にいいんだ。

涙を拭う。今は、午後八時。今日の仕事は深夜0時からだ。内容は市内の交通公園に現れる都市伝説、「赤い少女」の事実確認及び原因の駆除。

・・・ソレまでどうしようか。・・・時間まで、まだ大分ある。

「赤い少女」、ね。やっと、会えるのだろうか。「アカ」に。

お腹が、なる。・・・あぁ、とりあえず晩御飯にしようかな。ベットから立ち上がり、部屋の小さな冷蔵庫を開ける。そこにはおにぎりと卵焼き。それらを手に取り、ベットに向かう。

テレビをつけ、ベットに座る。チャンネルは特に気にしない。この時間の番組なんてどれも同じにしか見えないのだから。

ぼぅっと眺めつつおにぎりをほおばる。番組はどうやら音楽番組みたいだ。今日のラインナップが流れるが、誰が誰かなんてまったくわからない。皆同じような顔をしているからなおさらだ。それに、今の流行なんてわからない。もともと音楽なんて聴くような性格でもないし。だから、この出演者たちの何がどのようにいいのかなんてまったく分からない。

卵焼きを口に入れる。いつもながら、おいしい。私も料理憶えようかな。ようやく女らしくなったって、夜久斗も喜んでくれるだろうし。うん、今度、練習してみよう。

そう思ったけど、ふと去年の11月を思い出す。・・・そっか。もう、私、料理できないや。「火」は「燃やすもの」って定義しちゃったし。うっかり「家」を全焼させてしまうとこだった。

これが、夜久斗が言ってた「異端の力」の代償か。まぁ、でもこの「力」のおかげで仕事して、生活してられるのか。なら仕方ない。せめて、火を使わない類の料理を憶えよう。何ができるかな。おにぎりと、サラダと・・・。

テレビから音楽が流れ始める。・・・私には、夜久斗が時々歌っている曲名のわからない、懐かしい気がする鼻歌で十分だ。そんな、再認識。そんなのを、一時間の間、数回する。

気が付くと、ニュース番組になっていた。やたらと多い、殺人事件の報道。・・・きっとこのいくつかは「異端」が絡んでんだろうな。一体世の中に「異端」に組する輩は、私を含めて、どれくらいいるんだろ。今まで考えたこともなかった。でも、どれも関係ないか。

次のニュースはどうやら桜の開花予想についてらしい。こっちはまだ雪残っているのに、もう咲いているところが西日本にはあるらしい。まぁ、でも私たちにはあと一月は関係ない話だ。

あぁ、そうだ。夜久斗と花見に行きたい。だからそれまでには、料理、おぼえたいな。こっそり勉強して、久々に驚いた顔を見るのも悪くは無い。

花見なんて、周りはきっと家族連れで来ているだろうな。昔は毎年、家族四人で行ったっけ。お母さんの作った手作りのお弁当を持って、少し遠いところにある公園に行って。毎年、春になるのが楽しかった。なんで、あの時お母さんに料理を習っておかなかったのだろうか。そうすれば、今でも多少はできたはずなのに。

欠伸が出る。・・・眠くなってきた。少し、時間まで寝ようかな。起きていても仕方がないし。憶えてなくてもいいから、今度は楽しい夢だといいな。[newpage]


今日は何曜日。今日は何月。今日は何日。どれも今は分からない。何も今は分からない。

確かなのは、私は今、椅子に座っているということ。左には、夜久斗が座っている。目の前には木製の大きなテーブル。傷のたくさん付いた大きなテーブル。その上には何もない。

あぁ、ここは私の家で、そのリビングだ。目の前には父と母。椅子に座った父と母。その顔は笑っている。私たちを視て、笑っている。それにつられて私も笑う。父と母が笑っているんだ、きっといいことがあったのだろう。なら、私も笑わなくては。きっと、夜久斗も笑っている。

そう思い、左を見る。しかし、その顔は怒っているのか、泣いているのか。どうしてそんな顔をするのか。どうしてそんな顔をしてしまうのか。

ごろり、と何かが足に触れる。不思議に思い、テーブルの下を覗いてみる。そこに転がる薬ビン。その近くに転がるティッシュ箱。その右に転がるテレビのリモコン。その左に転がる醤油ビン。他にもいろいろソコにある。

どうしてこんなに転がっているのか。本来はテーブルの上にあった物たちが。私は知らない、分からない。

体を起こす。顔を起こす。

そこには笑っている父と母はいなかった。そこには嗤っている父と母はいた。怖くなって、横を見る。夜久斗は変わらずそこにいた。その顔は、怒っているのか泣いているのか。結局、最後まで私は分からなかった。

そう、ここはリビングだ。あぁ、なんで私は横になっているんだろう。さっきまでそこで座っていたはずなのに。立とうとするが、全身が痛くて上手く立てない。痛くて、痛くて、泣きそうになる。

だから、ほら。もう顔が濡れている。泣いたつもりはなかったのに。まだ我慢できたはずなのに。目の前には夜久斗がいる。同じように、床に転がった状態で。表情は、怒っているのか、泣いているのか。安堵をしているのか。いろいろ混ざっていて、よくわからない。

「その顔が気に入らないんだ。」

そんな音が聞こえた。聞き慣れていることは分かるのに、誰の声かがわからない。そして、夜久斗が蹴り飛ばされる。そこから、服の襟を捕まれ、勢いよく床にたたきつけられる。

私には、何も出来ない。それをとめる力がないから。それでも、夜久斗は泣かない。さすが男の子だ。凶行が止む。怒鳴り声が響く。何を言っているのかわからない。相手が誰かもいまだに分からない。

分かることは表情だけ。嗤っている、表情だけ。その表情。さっきどこかで視なかったっけ・・・?

じりりりりりりりりりりり

電話が鳴る。おかげで目が醒める。どうやら夢を見ていたみたいだ。顔を拭うと濡れていた。無色の液体で濡れていた。

どうやら泣いていたみたいだ。何が悲しかったのだろうか。わからない。

じりりりりりりりりりりり

電話は鳴り続けている。ベットから出て、受話器を取る。

「うん、分かってるよ、夜久斗。行ってきます。」

「寝起きみたいだけど、大丈夫かい?」

「・・・よくわかったね。」

「まぁ双子だし。」

「あ、そうだ。何かね、夢を見ていたんだ。」

「へぇ、どんな?」

「憶えていない。でも、起きたら泣いていた。」

「あぁ、そうか。憶えていないなら幸いだ。きっと怖い夢だったのだろう。そんなもの、憶えていなくて正解だ。」

「うん。」

「もう、怖いものなんて無いから、大丈夫だよ、夜久雨。」

「うん。」

「さて、そろそろ行かなきゃ間に合わないぞ。」

「うん。行ってきます。」

「あぁ、行ってらっしゃい、気をつけて。」[newpage]


空を見上げる。月が、不意に月が見たくなった。なぜって。それは、ここがあまりにも暗いから。ここは、鬱蒼とした木々に阻まれて、月明かりすらも届かない。

暗い所は嫌いだ。自分が今一人でいる事を、ひしひしと感じてしまうから。一人は、嫌だ。さびしいから、嫌だ。帰りたい。家に。一人は、怖い。

ぎゅっと手に持つ鉄パイプを握り締める。帰るには、仕事を終わらせるしかない。よし。早く、終わらせよう。

私の今いる場所。そう、ここは交通公園と呼ばれる場所。四方を柵に囲まれ、出入り口は一箇所しかない。

かなり広い公園のはずなのだが、鬱蒼とした木々のせいで広くは感じられない。どっちかといえば、深いと感じてしまう。

そして、ここが「交通」公園と呼ばれる所以。それはいたる所に乱立された道路標識と、四辻ごとにある信号機と横断歩道のついた交差点、これらのせいだ。

一見したらただの公道のようだがこの柵の中には車は通らない。だから、交通ルールを何一つ守らなくても交通事故は起こらない。

偽りの公道。偽りの公園。張りぼての世界。その中央に向かって私は歩を進める。

あ。遊具だ。懐かしいな。滑り台にうんてい、砂場にジャングルジム、それからブランコ。

そういえば昔、ここに、何回か夜久斗と来たっけ。あの時は昼間だったからあまりこの公園の木の多さなんて気にならなかった。そんなことより遊ぶことに夢中になってたって事もあるんだけどさ。

って、あれ。ゆりかごブランコがない。・・・あった跡、鉄の外郭はあるのに、そこに肝心のかごが無い。無くなったのだろうか。・・・好きだったのにな、アレ。二人で中に入ってたらよくお父さんとお母さんが押してくれた記憶がある。

・・・あぁ。あぁ、そうだ。私はここに仕事に来たのだ。昔を思い出すためじゃない。今日の仕事はここに現れると言われる「赤い少女」を殺すこと。

正体はわからないが、この近所で話題になっているらしい。夜中に交差点で立ち尽くす赤い少女がいると。ここらで視ない赤い少女がいると。きっとアレはこの世のモノではないのだろうと。

「赤い少女」か。「アカ」なのだろうか。

木々が風で揺れ、音が鳴る。目の前には交差点。目の前の信号機はアカ。私はソレを無視して進む。たとえ赤で渡ったって、死ねやしないのだ。守る理由が無い。守る意味も無い。

っと。あぁ、いた。赤い服の少女。もう一つ先の交差点の中央で空を見上げている。・・・頭には獣の耳。

こないだの、あの子か。そっか。今回はあの子を殺せばいいのか。今回はあの子だったのか。

「アカ」では、ないのか-----------。あぁ、まぁ、あんな耳の生えてる子供はここいらでは見ないだろう。というか普通はどこでだって見やしないってば。

呆れつつも。私は鉄パイプを構え、少女に突っ込んでいく。少女はまだ気がついていない。

あぁ。殺った。きっと、これで、殺った。上段から振り下ろす。

しかし、当らなかった。少女は半歩動き、ソレをかわす。銃を構える。しかし、なぜか撃ってこない。

そのまま私は右足で腹に向かって蹴りを放つ。少女は、かわさない。相手に当る感触。

が、致命傷どころかダメージすら与えられなかった。だって、少女はバックステップでソレを受けたから。蹴りの勢いにのって、後方に大きく跳ぶ少女。

この間合いは、まずい。しかし、やはり少女は私に銃撃をしてこない。そのまま、横の茂みに飛び込んでいってしまう。

逃がすわけにはいかない。殺さなければ帰れないから。少女を追う。

ようやく、発砲音が、響く。撃ってきた。なんで、今更。しかしその銃弾は木々にはさまれ私には当らない。

音のした箇所にたどり着く。

「そこだっ!」

横なぎに鉄パイプを振るう。当った木が、その箇所が、粉砕する。その裏にいる少女も一緒に折れているはずだ。

木が倒れる。しかし、そこには何もいない。どういうことだ?

上から何かが落ちてくる。丸い何か。校舎の屋上で見た、丸いもの。これって、手榴----------

辺りに、他害を成す光と音が響き渡った--------------[newpage]


木の上から足元に向かって落とした閃光弾によって。きっとこれで月原夜久雨は私を追えなくなる。できれば今夜のうちにこの施設に現れる異端物を処理したかったけど、しかたない。撤退しよう。

今、月原夜久雨を傷つけては本末転倒だ。跳躍し、別の木に足場を変える。

刹那、何かが足元から生えて来る。かわせない。右手でソレを防ぐ。音がする。

きっとそれは私の腕からだ。

痛みはない。しかし、今の一撃でバランスを崩し地面にたたきつけられる。肺の中の空気が押し出される。

すぐさま体勢をたてなおし、後方にバックステップをする。

「逃がさないっ!」

そんな声もした。そして、鉄パイプがなぎ払われる。しかしそれは体を前に曲げかわす。

また背中から地面に落ちてしまうが、首跳ね起きの要領で起き上がりつつ、確実に茂みに飛び込む。これで、終了。あとは音を立てないようにして後退していく。

「こんばんは。夜久雨。」

途中、そんな声をきいた。先ほど、私がいた辺りから。どうやら、この施設が当りだったみたいだ。

先ほどの所に、慎重に、それでも急いで戻る。そこには、さっきまではいなかったショートカットに赤い服、右手には赤い槍を持った女子がいた。地面に仰向けに倒れている月原夜久雨の横に。

左手で二度引き金を絞る。正確に、赤い女子に向かって。

しかし、手にした槍であっさりはじかれてしまう。

「あっははははははは。部外者は黙っいてほしいんだけどなぁ。」

私の、腹部から音が聞こえた。短い音が。口に広がり、こぼれる赤いもの。私の腹部にはあの赤い槍が刺さっていた。

「投げて当てるもの。ソレが槍。まぁ「強化」で命中精度は上げさせてもらったけど。で、どうする?まだ、やる?」

大分体が動きにくくなってきたこのまま戦っても良くて相打ちだろう。

「自分より、任務を優先して死んだら、許さないからな、依那。」

先生の声が頭によぎる。撤退しよう。腹部からさらに赤くなった槍を抜き、地面に投げ捨てる。くやしいが、そのまま私はこの施設を後にして住処であるマンションに戻ることにした。

今度の逃走は、幸いなことに、誰も追撃はしてこなかった。

鍵の開いていないドアの鍵を開け、マンションの自室に入る。体が、重い。足が、動かない。普段は何も感じない廊下がこんなにも長いなんて。

部屋にたどり着いたところで、冷たいフローリングの上に力尽きる。血が、足りないのだろうか。そろそろ治癒させないとまずいみたいだ。

今更気がついたが、月原夜久雨に殴られた右手は骨が砕け、さらには千切れそうになっている。痛みが無いと、そんなことにも気がつかなくて済む。痛みが無いと、そんなことにも気がつけない。

どっちが、正しいのだろうか。

すぅっ、はぁ

深呼吸をする。痛みを担う覚悟を決めて、私の異端としての力「痛覚遮断」を解除する。途端、全身を駆け巡る痛み。

「あ、ぐっ。」

思わず漏れる声。痛みと共に始まる、全身を覆う熱さ。体が治癒されていくのに伴う感覚。

体を酷使した対価か罰か。

「あ、あ、あ、あ」

熱い。体が溶けそうな程に。体をよじったせいか、ポケットから薬瓶がごろりと転がり出る。

中身は、強力な痛み止め。これを飲めば、楽になれる。痛みを感じない自分に戻れる。熱さが分からない自分に戻れる。寿命というモノを対価にして。

私はそれでも構わなかった。今だって、飲みたくて、飲みたくて仕方が無い。でも。

「なるべくそれは飲むな。君に僕より先に死なれては、僕が悲しい。」

先生の言葉を思い出す。だから、飲めない。だから、飲まない。先生を、悲しませてはいけないから。

「あ、あ、あ、あ。・・・・っく、せ、せんせい・・・・。」

痛みと熱感。この二つは、反比例で続いていく。傷が治癒するその時まで。果たして今日は、いつまでこの苦痛が続くのだろうか。 [newpage]


閃光弾だった。今までに経験したことの無いほどの光と音の暴力。耳はぎりぎり大丈夫だけど、目が、みえない。

がさ

かすかに音が上から聞こえる。きっとあの異端だ。私は地を蹴り音のしたところより少し前に向かって跳ぶ。鉄パイプを掲げる形で。

がつ

何かに当る音がする。そして私が着地すると同時に、何かが地面に落ちる音がする。

「逃がさないっ!」

一番攻撃範囲の広い中段に鉄パイプを薙ぐ。しかし、何にも当らない。近くからも何の音も聞こえない。目も、見えないまま。

逃げられた、か。仕事失敗だ。どうしようか。途方にくれる。と、後ろから何者かに襟を掴まれ、後ろに倒される。

「こんばんは、夜久雨。」

かけられる声。こいつ、誰?

ドカッ、ドカッ

銃の発砲音が聞こえる。

カンッ、カンッ

そしてソレを弾く音も。

「あっははははははは。部外者はだまってて欲しいんだけどな。」

つぶやくナニカ。風が、私の髪をなでる。ざくり、と、遠くで何かに何かが刺さる音。

「投げて当てるもの。ソレが槍。まぁ「強化」で命中精度は上げさせてもらったけど。で、どうする?まだ、やる?」

おそらくさっきの異端に問いかけるナニカ。

「さて。これで邪魔なのはいなくなったね。改めて、こんばんは、夜久雨。」

かすかだが、目が見えるようになっている。だから、かすかだが、ナニカの姿がみえた。だけど、かすかだけど。それで、十分だった。

ショートカットに赤い服、赤いヘッドアクセサリー。

「ア、アカァァァァァァァァァッ!!」

すぐに飛び起き、かすかなナニカ---------「アカ」に向かって鉄パイプを滅茶苦茶に振いまくる。

しかし、かすりもしない。

「丸腰相手にひどいよ、夜久雨。」

飄々と、そんなことを言ってのける。

そして、一瞬の隙を突かれ襟首を掴まれ、鉄パイプを叩き落とされ、地面に組み敷かれる。

「ところでさ、私の名前って「アカ」って言うの?ひどいよ。安直過ぎる。」

顔のある位置に向かって、拳をふるうが、簡単に腕を掴まれ止められてしまう。

「なんでそんなに暴力的かな?私、何かしたかな?」

っ!

「お前が、お前が、私の家族を、殺したッ!」

「・・・ひどいよ、夜久雨。私だって被害者なのに。」

「なにがだッ!」

「思い出してごらんよ、あの日のこと。思い出せない?なら、思い出させてあげる。」

顔を掴まれる。

「夜久雨の「記憶の再生」を強化する」

その声を、きっかけに、ゆらぐ朧な視界と断片的に頭に過ぎる十年前の景色。

そこにあるのはちらばった物品。破損した物品。変形した物品。濡れたフローリング。飛び散った赤い血。父だった肉片。母だった肉片。呆然と、立ち尽くす私。

「他に、誰がいる?」

聞こえてくる声。フローリングに横たわる、血で濡れた夜久斗。

「ほかに、誰か、いる?」

い、ない。

「私は、「アカ」は、いる?」

い、ない。

「じゃぁさ、なんで夜久斗は血まみれなのかな?」

なんで。なんでかって。血がかかったから。なんでかかったのかって。それは------

「あとさ、よく思い出して。貴方のとなりに「夜久斗」ってさ、いるの?」

視界は、もう正確に、見えるようになっている。目の前に、私の目の前にある顔は、私に、私たち双子にそっくりな、瓜二つな顔だった------------

                       了


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