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第二話 異世界転生Ⅱ

「ラリィ様、そろそろ起きてください」


「起きてるってば……マリアさぁ、もういい加減俺の部屋に入ってくるのやめてくれない?」


「はぁ……、何を言っておられるのですか?私はあなたの侍従なのですよ。ラリィ様の身の回りのお世話をすることがわたくしマリアの務めですので」


 そう言っている間も床に転がった書物を本棚へ淡々と移し整えている。あれは俺が昨日読んでいた魔術書だ。


 彼女、マリアはこの屋敷のメイドの一人で俺が産まれた直後に専属メイドとして俺のそばに付きはじめた。


 ベッドから身体を立たせて両腕を大きく開く。それを合図としてマリアが近づき俺の寝間着を脱がしていく。もはやこんな事にも慣れてしまったわけだが、この世界の上流階級ではこれだけの些事もメイドの仕事とされている。

 一番大事な下着まで脱がすわけではないし今ではマリアに裸の姿を見られても何とも思わない。


「マリアー、今日の予定は?」


「……ラリィ様、今日のご予定をあなたがお忘れなのですか?」


「え?」


 マリアにそう言われるということは今日は余程大きな行事が控えているのだろうか。頭を捻って思い出そうとしてみるも何一つ出てこない。


「はぁ、いいですか。今日はラリィ・アスチルベの13回目の生誕祭です。あ、ラリィ・アスチルベという人物をお分かりでないですか?アスチルベ子爵家の三男でありこの先の将来もっとも──」


「わーかったからもういいって!ごめんて、僕が忘れてただけだからもう許して」


 マリアのしてやったと言わんばかりの笑みが横目に見える。どうしても彼女の前では頭が上がらない。


 自分の事だというのにすっかり忘れていたが僕──いや俺がこの世界に転生してから13年が経ったのだ。今日はその披露宴ということになっている。

 夕方になれば様々な貴族が俺を祝いに──というのはただの名目に過ぎない。貴族階級でうちよりも上の奴らが圧力をかけにやって来るだけだ。


「披露宴の準備と招待で忙しくなりますからラリィ様はお時間までどこかで暇を潰していてください」


「え、主役がそんなことしてていいの?」


 てっきりやる事が沢山あるのだと思って今から気疲れしていた気分だ。


「じゃあ聞きますけど、何をしなければいけないのか分かりますか?まず上級貴族の方々に事前とは別に当日の招待状を書いて送りその後は当家メイド総出で披露宴のためのお食事をご用意して次に──」


「すみませんでした」


 どこで時間を潰すか今から考えてもいいだろう。そうだどうせなら少し中心街に出てみてもいいかもしれない。


「まぁそういう訳なので、時間まで帰ってこないでくださいね」


 追い出されるようにして部屋から出た俺はひとまず場所を移すことにした。

 屋敷ではマリアを含め多くのメイドが働いている。兄上や姉上の専属メイドはその中でも優秀な人材が就いているとマリアが言っていた。それならばマリアも優秀だから選ばれたのかと思っていたが、どうやら少し違うらしい。

 マリア本人は自ら志願したと言うし、なによりこの屋敷内での俺の扱いが一部酷い。

 全員に限った話ではないが数名のメイドは俺とすれ違っても見向きもせずに通り過ぎていくのだ。


 その訳についても分かっている事だが、俺は父上の正妻の子では無いのだとか。それは兄弟で俺だけが違く、実の母はすでに死んでしまっているという。


 そして俺を低く見ているメイド数名の顔には共通するものがあるのだが、今騒ぎを立てれば色々とややこしくなる。少し不快になっているだけで物理的な害は受けていない以上は静観しているしかないだろう。


 屋敷の裏口から外へ出ると、周辺に人がいないことを確認してから足に力を込め、勢いよく地面を蹴り飛ばす。


 地面に着いていた足は一瞬にして離れこの身は空高くに放り出されていく。


 言うなれば、ここは自由を体現したかのような世界だ。

 遥か上空から見えるのは前世で西洋の街並みに似た異世界の風景。

  ヴェニーツェ王国の首都ミリガンだ。


 中心街あたりで降り着き、人混みの多い大通りへ合流していく。

 そこかしこで出店が賑わっておりその種類は食べ物から雑貨まで幅広くある。

 ここにやってくるのは初めてであり、他の貴族もこうした場にはあまり足を運ぶ機会がないのだとか。それゆえにここにいる人間の多くは一般市民であり、それ以下の身分の者もチラホラと見える。


 マリアから貰った僅かなお小遣いで時間を潰すとしよう。


「おっちゃんそれ一個ちょうだい」


「あいよぉ!」


 肉の焼く匂いにつられて気づいたらこの店の前にいた。気前のいいおっちゃんに銅貨を数枚手渡しそれと引き換えに肉の刺さった串を一本受け取った。


「そいつぁ森で取れたキングゴートの極上の部位を使った肉だぜ。臭みなんて無く他のどの肉よりも旨みが強いまさに王様の肉よ」


「へぇ、キングゴート。聞いたことないな」


「こっから遠い辺境の地の更に奥にある森で取れた代物だ。この街で生まれ育った兄ちゃんが知らねぇのも無理ねぇ。しかしまた随分とお高そうなもん着てるが、兄ちゃんもしかして貴族か?」


 もし本当に貴族だったら場合によってはその場で罰を受けていてもおかしくない言葉遣いだ。もっとも、俺も一応は貴族なのだが。


「いや、ただ少し裕福な家庭で育っただけだよ」


 肉が口の中に入った瞬間に今まで味わったことのないジューシーな旨味を感じる。これがキングゴートか……


 肉の刺さった串を大事に持ちながら通りの先へと進んでいく。端に並び建つ建物と建物の間には所々狭い路地が形成されており、ひとたびその奥を覗いてみれば薄暗く、活気のいい大通りとは正反対の世界ができていた。

 しかしこれこそ全男子が興味を湧かせるスポットの一つだったりする。


 残り一つの肉を口に放り込み一本の路地の先へ歩みを進める。レンガ造りの建物ばかりのここら一帯は様々な商会が拠点を置いている。その大半が冒険者業であり、戦闘において腕の立つ者や知識のある者が数多く在籍している。

 なぜこれほど詳しいのかと言うと、屋敷でマンツーマンの座学をひたすら受けさせられたからだ。貴族は庶民を上から見ることができるがその分苦労量も多いということだ。

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