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副作用1

「ヅッ…グゥッ…!ァ…ッ…!!」


鏡花の家へと連絡を済ませ、増援の忍びたちによる一通りの処理を見届けた後…彼は1人で帰路に着いた。


目が覚めたら連絡をもらえるようにも頼み、とりあえず、すべきことは全て終わった。


気が抜けた途端、衝動が彼を襲う。

首元を掻きむしり、血が出てもその手は止まらない。

目は血走り、焦点も定まっていない。側から見れば変質者以外の何者でもない。


強化ではなく狂化。学園に渡したものをEとすれば、彼が使用したのはCランク相当。効果は凄まじいが、その分、心を蝕む濃度も上がる。


「ヅゥっ…ぐぅうっ……!!」


彼の頭は既にDランク相当を浴び続けており、時間を掛けてそれを馴染ませた。

しかしそれでは万全ではないと、今日限定でCランクに手を出したが…頭が割れるように痛む。同時に、あらゆるものを、自分を、壊したくて仕方がない衝動にも駆られる。


既にイヤホンは外しているのに、頭の中で音楽が止まない。

何も考えるな、落ち着け、深呼吸だ…そう思っても、体の自由が効かないのだ。


音楽はどんどんとアップテンポになっていく。


グルグル、曲が流れる。逆再生のように。色々な曲が同時に流れ、頭を支配していく。


頭が、脳が…壊れていく…その間際、頭の中を蠢くあらゆる曲達が、透き通るような一音によって黙らされる。


…知らない曲だ。

自分の曲ではない。自分のお気に入りの曲でもない。

だが…どこかで聞いたことのある曲。

深緑の森、吹き抜ける風。

陽の暖かさ、土の感触。

それは、穏やかで静かで、誰にも侵されることのない理想郷。

森の中、木々に囲まれつつも開けた空間。生い茂る草の上で眠ることができたなら、どれだけ気持ち良いだろう。


そして、その夢を叶えた、白い髪、白いワンピースの少女が1人…いつの間にやら彼の目の前に現れると、ふわりと宙に浮き、彼の額に自分の額を合わせた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「つっ…!!」


一瞬視界が明点すると、元の世界…自宅の前に戻っていた。

…目の前の、半透明の少女と共に。


少女はものも言わず、彼の瞳を見つめ…その色が元に戻っていることを確認すると、小さくニコリと微笑み、粒子となって姿を消した。


「……音楽の神様、ね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


服飾家「…君は、神を見たことがあるかね?」


「は?」


服飾家「私はある。私の姉がそうだ。服飾を極め、辿り着いた先…姉は急に体調を崩し、満足したように消えた」


「消えた?」


服飾家「そう、消えた。そしてそれ以来…姉の修作を見るたびに、私には姉の姿が見える」


「……成る程」


成る程以外の言葉が出てこなかった。正直、急に何を言い出すんだこいつは…としか思えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…奴の解釈を元に推測をするなら、以下だろう。


彼女ーー白髪のあの子は、奴に言わせればきっと、作曲の神、ということだろう。

自分と同じように作曲の才能に目覚め、そして何かへと"至った"。そして消えた彼女の音楽を聴き、その姿を見た。…会ったこともない彼女と。


…どこで音楽を聞いた?…一時期、ひたすら動画サイトで音楽を漁っていた時にでも見つけたのだろうか?…それぐらい、本当に思い出せない。……思い出せないが、才能を開花させる前に聞いたその音楽を思い出すことができ、なんとか正気を取り戻した…そういうことなのだろうか。


…曲の全容は…なんとなくは覚えているが、確かではない。もう一度Cランクの曲を使えばまた思い出せるかもしれないが…確証はない上、危険すぎる。


何はともあれ……彼女に救われた。命が繋がった。…そして、自分の曲の危険性も、この身を持って理解できた。


「…ふぅ、寝る前に洗濯しなきゃな」


今着ているのは滅多に着ない『勝負服』という奴であり、この服を大事に扱うこと、は、これを譲ってくれた奴との約束の1つだ。

自分と同じように才能に目覚め、偶然にも知り合うことができたという、貴重な存在。彼女の服を着ると、体調不良やらうっかりミスやら、あらゆる物事を"防ぎ"、着用者を『万全』にする、という眉唾な機能が付いている。それ以外にも、武器の隠蔽・取り出し機能なんかもあるが…振り返るのはまた今度で良いだろう。


少し前まで、誰もいないことが普通のはずだった彼の自宅。1人か2人か、というだけで、ここまで雰囲気に差が出るものなのか、と、心の隅で思った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


心の奥底。神様…なんて、そんなに良いものではないように思う。


幻覚。脳が機能障害を起こしていることの証明。


インターバルを置けば治るのか、一生このままなのか…何にせよ、やはりOD(過剰摂取)はマズイ。そのことだけは間違いないと思った。

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