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命を取るか、名誉を取るか

対策は、万全に用意したはずだった。

人数的不利は承知の上だ。彼女より強い忍は、更に重要度の高い任務に任されている。

失敗した忍の救出に人材を出すなど、それこそもっての外なのだ。許可を頂けただけありがたいと思わなければならない。

刀身の長い武器は簡単に避けられたり掴まれたりすることは分かっていたので、苦無や手裏剣、針などの暗器を主軸に立ち回った。催涙玉や煙玉なども数を増やし、幾人もの敵を殺しながら、ついに最上階まで辿り着いたのだが…。


???「ガルルルルッ!!!」


そこにいたのは…人間か、それとも狼か、はたまたゴリラなのか……長い髪を逆立たせ、鋭く巨大な犬歯が際立つ、そんな存在だった。


その傍らには、辛うじて息があるが、満身創痍な忍達が何人も倒れており、中には彼女が知っている者もいた。…雑な治療の跡がある。傷を治せばまたここに入れられる。それを繰り返して拷問としていることを、本能的に理解した。


あらゆる武器は効かず、煙幕を放っても、とてつもない鼻息で返されてしまう。もしも敵を後退させれば、忍達が踏み潰され、命を落とすこともありえる。


鋭く伸びた爪と、直撃すれば一撃で命を取られかねないパンチ…それらをいなしつつ、活路を探し続けたが…あらゆる攻撃を回避され、もはやなす術も無い。


催涙玉は最後の一つ。これを使えば、きっと逃げられる。


だが…彼女はそれを選ばない。


催涙玉を敵に向けて投げつけると、敵はそれを避けようと顔を逸らす。同時に投げつけられた左右から投げられた手裏剣も、咄嗟に伏せて回避する。玉は避けられ、起動。忍達の元にピンク色の煙が立ち込め、咳き込む声が聞こえてくる。

バッと勢いよく立ち上がり、鏡花の元へ飛びかかろうとした敵の首元に…ブーメランのように戻ってきた手裏剣が、深々と突き刺さる。


鏡花「ッ!」


意識が逸れた!今しかない!!


苦無ではダメだ。確実じゃない。

ならば、隠し球しかない。


既にボロボロだった忍装束は、胸元に穴が開いている。そこから流れるように、銃身の短いショットガンを取り出すと…眉間に向けて一発、発射した。

着弾。しかし、頭部はまだ原型を留めている。

弾薬は2発だけ。

彼女はすぐさま駆け出すと、ゼロ距離でもう一度、最後の一発を撃つために、引き金を引こうとした。


ーーギラリと、彼女を睨む、鋭く尖った赤い眼。

彼女が引き金を引くよりも早く、ソイツはまるでボールを蹴るように、型も何も無く彼女の足を蹴り飛ばし、たったそれだけの動作で、彼女は地面を転がり、回りながら部屋の入り口まで吹き飛ばされた。


……ぁぁ、……もう、ダメだ。


足の感覚がない。

銃も、何処かに転がってしまった。

道具ももう何もない。


ゆっくりと、敵は倒れた彼女の元へと歩みを進める。

ぼんやりとしてきた視界には、助けられなかった仲間達の姿が見えて…ただ、ただ…謝りたくなった。


思い出すのは、訓練に明け暮れた日々。幼き頃の、家族との思い出。…そして、少しの間だけだったが、共に過ごした男の人。

まだ何も知らないまま…終わってしまうことを許して欲しい。

でも、仕方なかった。忍が任務で命を散らすのは誉であり、生き恥を晒すことこそ、死よりも重い屈辱なのだ。

それなのに、一度は逃げ帰り……偶然彼と出会えたから。名家の生まれだから。表立ってのお咎めは無かったが、心の底では「恥知らず」と多くの忍に罵られたことだろう。


これで良いのだ。

負けたことは、任務を果たせなかったことは、口惜しくて堪らないが…それでも……信念を貫き、死ねるのだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


視界を遮る、漆黒の影。

敵が振り下ろした拳…ではない。

眼前に迫っていた巨体は、その影によって縦に真っ二つに切断され、大きな音をたて、その場に倒れた。


「……」


真っ黒な装束に身を包むその男は、耳につけていたイヤホンを取ると、忌々しげに首を振り、それからようやく、彼女へと振り返った。


鏡花「…まスたぁ、様…?」


目を見開いて驚き、両手を使いなんとか上体を上げる彼女。

彼はそっと彼女を抱きしめ、自身のイヤホンを彼女の耳につけると、子供をあやすかのように、彼女の頭を撫で続けた。

鏡花「マスたぁ様、、?どうして、ここ、に……」

やがて…安心した子供のように、少女は眠りについた。


彼はそっと彼女から離れると、彼女の任務の後始末を始めたのだった。


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