変化
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公開祭などという政に興味は無くとも、彼が行くのならば話は別。
正体がバレないように変装し、音の反響を通じて状況を把握していた彼女は、自身の忍から事の顛末を伝えられ…数秒経ってようやく、激情も唾も飲み込むことができた。
ククア「…マスター。貴方という人は……」
安易に命を投げうった男と、信頼に応え、自身も次の段階へと至った忍。
ククアは溜息を一度だけこぼすと、その場を後にするのだった。
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その後、風花に声を掛けられ今の状況を思い出した2人。
と同時に、彼女の"変身"とでも言うべき姿は元に戻った。
なんのかんのあった後、背守戦を投げ出した彼女が、公開祭の優勝者ということになった。
あの状況で、あの結果…あれを見て異議を立てる忍はいないだろう。
…会話もなく、帰路に着く2人。
彼の後ろを静々とついてくる彼女は、一見するといつもと同じように見える。
鏡花「…?マスター?」
歩みを止め、後ろを振り返る彼。
疑問符を浮かべる彼女。
いつもと変わらない2人。だが…
「…はは、いや、なんでもないよ」
目の大きさが、頬の硬さが、呼吸の音が、彼女の心の内を証明していた。目に見える変化がなくとも、彼女の「嬉しい」という気持ちは、彼に十分に伝わっていた。
振り返り、また歩き始める彼の背中。
暖かな眼差しと声色、歩く歩幅、いつも通りの背中。ふと、自分の頬に触れる鏡花。
…いつもより口角が上がっていることに気づいたが…彼の眼差しを思い出し…今だけは、このままの自分でいることを許すことにした。