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デート

潮の香りと波の音。温かな心地が背中にあり、それとは別に、やけに明るい蛍光灯の光が瞼の裏を赤く染める。


「んなっ!ん!?」


明らかな異常に飛び起きると…そこは、サンサンと照りつける太陽、エメラルド色の海、ゴミ一つない砂浜…。

後ろを振り返ると、森林が続いており…


ククトゥリア「そう、私のプライベートビーチですわ!!!」


予想とは真逆の答えが、目の前…潜っていたらしい、海から出てきたスイカ女から帰ってきた。


必要最低限しか隠していない、真っ赤なビキニ。海水で濡れた長い髪が陽光に照らされ、眩しく映える。

目元に巻かれた真っ黒な布も、防水仕様なのか、光沢が見える。…盲目の状態で水泳というのはかなり危険な行為に思えるが…。


…というか、いつのまにやら自分も水着にさせられている。


「……」


ククトゥリア「その顔、察するに『どういうつもりだと聞こうと思ったが、もう意図がなんとなく分かる…』という顔ですわね」


「見えてないだろ」


相手も自分と同種の存在。いや、恐らく自分以上だ。歌を作るための感受性と、喫茶店のマスターとしての眼…それらよりも絶対的な、歌聖としての、客の心情を計り取る力。

そして彼が察する所…拉致の理由は「親睦を深めようと」と言った所だろう。

何よりも恐ろしいのは、彼にも鏡花にも気付かれずに拉致を成し遂げた、(恐らく)彼女の忍の手腕だ。


「そうだな。…鏡花に連絡は」


ククトゥリア「ご心配なく、既に済ませてありますわ。…今日は一日、この島で私と過ごしていただきます」


「…この水着を着せたのは」


ククトゥリア「私自らがするわけないじゃありませんの。……まぁ、確認はさせていただきましたけれど」


「…確認」


嫌な想像が走る…というか、既に想像ではなく話された事実なのだが。


ククトゥリア「ええ、"確認"ですわ。合格点を差し上げます!良かったですわね?」


と、ニヤリと笑うククトゥリア。罪悪感だの羞恥心だのは無いらしい。あるいは、彼が目覚めるまでに拭い切ったか。


盲目の彼女が"どう"確認したのか、想定できるのは2パターンある。あえてツッコミはしないが。


「……変態め」


ククトゥリア「んなッ…!"そこ"の大きさは男の価値として重要な部分ですわ!深い関係になる前に確認しておくべきなのは当然です!!」


「…にしたって、許可ぐらい取らないか?」


ククトゥリア「求めたら許可を頂けるのですか?」


「なわけないだろ」


ククトゥリア「ほらみなさい。なら、この方法がベストでしたのよ。…というより、いつまでもこんな痴話をしてる暇はありませんわよ」


と、話を切ろうとするククトゥリアだが、彼は未だに少し不満気だ。


「……はぁ。…頼んだらそっちは見せるのかしら」


なんて、考え無しに呟くと


ククトゥリア「……ええ、頼まれれば見させて差し上げますわ」


と、ククトゥリアはビキニの紐に両手を掛けると、自身ありげに上目遣いで彼を見る。


「…冗談だ。必要ない」


ククトゥリア「そうですか。…今の時刻は9時過ぎです。お昼まで、貴方も泳ぎませんこと?」


「…そうだな。先に行っててくれ。準備運動をしたら泳ぐ」


ククトゥリア「わかりましたわ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エメラルドグリーン…写真でしか見たことのない、薄緑色の海を泳ぐ。

微かな風と、穏やかな太陽が相まって心地良く…浮き輪でのんびりすれば、相当心地良いだろうことは明白だ。


…などと考えていると、何処からともなく浮き輪が流れてきた。


ククトゥリア「あら、浮き輪ですか?」


…本当は目が見えているんじゃないかと思うような速度で気付かれた。


「…お前のところの忍は凄いな」


ククトゥリア「おーっほっほ!ええ、彼女は私が物心ついた時から仕えている、至高の忍ですわ!」


浮き輪の中に入り、ヒョイっと上に座る。隣を見ると、彼女も同じように浮き輪に座り始めた。


「…」


ククトゥリア「…」


目を瞑り、波音と風、海鳥の鳴き声に耳を傾ける。

不意打ちで連れて来られたが、良い休日を過ごせそうだ。

ゆらゆらと揺られる浮き輪と、太陽の暖かさに眠気を誘われるが、先程起きたばかりのため、流石に寝落ちはしない。


お互いに無言のまま、5分か10分程度経った頃…


ククトゥリア「…ゲームをいたしましょう。お互いを知るためのゲームですわ」


透き通る美しい声を掛けられ、片瞼を開けた。


ククトゥリア「身構えずとも、一問ずつ、質問を出し合うだけのものですわ。のんびりと過ごす中でもできる、最適なゲームだと思いますけれど」


「…異論はない」


ククトゥリア「パスは可能ですが、パスした数だけ相手もパスをできるというルールで。それと、嘘をつくことも認めましょう。見抜かれない自信があるのなら、ですが」


「…ルールはわかった。…そっちからどうぞ」


ククトゥリア「…そうですね……何故喫茶店を始めようと?」


「…いきなりだな」


ククトゥリア「難しい質問から聞いておいた方が、お互い気が楽ですわ」


「…(聞こえが)良い理由と悪い理由があるんだが…」


ククトゥリア「悪い理由"だけ"聞きますわ」


「…はぁ。単純だ。やりたいこと…質問されるだろうから先に言うが、ゲームの曲を作りたかった。けど就活で落ちまくった。それからはテキトーにIT系の企業とか受けて、なんとか内定した。だけどやる気になれなくて、興味があったし金もあったから喫茶店を開いた」


ククトゥリア「…成る程。次はそちらの番ですわ」


「…異性遍歴でも聞こうか」


ククトゥリア「あら、最初の興味がそれとは…」


「…」


ククトゥリア「まぁいいでしょう。私、男性とのお付き合いをしたことはありませんわ。手を繋いだことすらも。つまり貴方はボーイフレンド第一号というわけです」


「…第一号をよく切れたな」


ククトゥリア「それだけ貴方を買っていると、そう思っていただければ幸いですわ」


「でも、言い寄られたことぐらいあるだろう?」


ククトゥリア「数回は。最も、全員不合格でしたが。…次は私です」


ククトゥリア「…そうですね……お返しに…貴方の理想の異性のタイプは、どういったものなのでしょうか?」


「理想……中身で言えば、静かな…感情の薄いタイプ。外見で言えば、背は低め、長い髪…それぐらいか?」


ククトゥリア「大事なところが抜けてますわ。髪の色は?」


「別に、黒でも白でもなんでもいい」


ククトゥリア「胸の大きさは?」


「……」


ククトゥリア「…まぁいいですわ。目は口ほどに物を言う、と言いますものね」


こちらを見てニヤリと笑みを見せる彼女。見えていないはずなのに、何もかも見透かされているような感覚は、しばらく慣れることはないだろう。


「こっちも同じ質問をしようか」


ククトゥリア「外見は…私の隣に立てるレベル。背は高めで、髪は短い方が好きです。内面は…正義感が強く、芯を持っている方、ですわ」


「成る程…」


ククトゥリア「貴方は…まぁ、外見はおまけで…ギリギリ許容レベルですわ。髪はもう少し短めの方が私の好みです。内面は…今後に期待、と言っておきましょう」


「それはどうも…というか、顔が分かるのか?」


ククトゥリア「分かりません。ですから、忍に判定させましたわ」


「…成る程な」


確かに、自分が分からないのなら、他社の判断基準に委ねれば良い。…まさか、顔の良し悪しまで任せるのは彼女ぐらいかもしれないが。


ククトゥリア「…先日会った彼女に、何故曲を作ったのかしら?」


「…」


ククトゥリア「大好評みたいですわね。『カフェマスター』?あの曲が起爆剤になり、彼女はこれから、スター街道を進んでいくことでしょう。…貴方にとってあの曲は、5000点の曲ではないのですか?」


『カフェマスター』とは、彼女の曲の作曲者名として付けられた名前だ。テキトーにつけといてくれ、と言ったらこうなった。


「…あの曲は、彼女そのものを歌った曲だ。"現状"特別な効果はない。…お前のこの戦略は、俺に曲を作らせる上で模範解答だったが、100点ではなかった」


ククトゥリア「…それで、彼女に曲を送った理由は?」


「単純に、送りたくなったからだ」


ククトゥリア「……よろしい。貴方の番です」


「…お前の趣味は?」


ククトゥリア「音楽鑑賞。そして歌唱。映画を聴いたり、後はショッピングと…今日のように、旅行をしたりですわね」


ククトゥリア「…貴方が今、私の一番好きなところはどこですの?」


「…難しいな」


目を合わせないようにしていたが…ちらりと、横目で彼女を見ると…目が合ったような気がする。


目が合うと、いつもニヤリと笑うのは何故なのだろう。


「…すまん、分からない。…逆に聞いてもいいか?」


ククトゥリア「実力」


「……光栄だな」


皮肉にも何も返さず、彼女はこちらを見つめるばかり。


「………その顔だな、今のところの1番は」


ククトゥリア「あら、光栄ですわね」


本心からの答えだった。その事を分かっているかのように、彼女はニコニコともニヤニヤともとれるような笑みを浮かべていた。


ククトゥリア「そうですね…後は……時間も時間です。次が最後の質問で…貴方からどうぞ」


「なら…これまでに嘘をついた数」


目を合わせる。と、彼女もこちらに合わせ…


ククトゥリア「…誓って、ゼロですわ」


そう、言い切った。


ククトゥリア「では、こちらも同じ質問を」


「…それなりに、ってところだな」


ククトゥリア「ここ一年でついた回数は?」


「…2,3回。知らないフリをした」


ククトゥリア「成る程。……良い時間です、戻りますわよ」


「ああ」


ククトゥリア「…嘘も付かず、パスも最低限…まぁ、認めましょう。ボーイフレンドとして相応しい方だと」


ククトゥリア「今日1日の写真を既に送ってありますから、記念にどうぞ?あとで今日を振り返って普段の生活とのギャップに咽び泣くと良いですわ!!!」


「…なんだかんだ、楽しかったし、リラックスできたな」


ククトゥリア「…あら?」


「…連れてきてくれてありがとう。ククトゥリア」


ククトゥリア「…あらあら、あらあらあらあら?」


ククトゥリア「好きになりました?私の魅力に"くびったけ"ですか?」


「…エメラルドビーチに惚れたな」


ククトゥリア「おーっほっほ!!照れ隠しが下手ですこと!!!」

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