第一話 まだその世界を知らぬ僕 (4)
とある日の放課後、怜弓に呼ばれた。
どうやら、彼女は妹の機嫌を直すために何をしてやればいいのかというのを、僕に相談しに呼んだということらしい。
彼女の妹である綴のことを知っているのは僕しかいないらしい。あの様相だと、周りにも話しにくいだろうな。ゆえに僕だけに相談を持ち掛けてくる。
「で、その…どうしたらいいと思う?」
「どうしたらいい…って。無責任かもしれんけど僕だったら無視して放置しとくかもしれんな…兄弟……いたことなくてな」
「…」
僕の一言を聞いて、怜弓は顔を沈ませた。
「…そういうわけには…いかないっぽいね」
薄目を浮かべ、僕はそう言った。
「うん。そういうわけにはいかないから…」
「姉妹ならさ、ほら好きな食べ物だとかそういうのとかはあるでしょ。それならさ…」
「あー…実は綴の好きなものはよく分からなくて…」
「よく分からない?それを具体的に教えてくれると…」
「いや、好きなものとかを教えて欲しいって言ったら、白目剥き始めるし…その、何やっても満足していない感じで、何をあげたらいいのかも…」
「いやいや、流石に二年間共に暮らしてたら、家族の好き嫌いとかは分かるんじゃね?」
「…あぁそのぉ。ああえっと」
「え、分からない?マジ?」
「…言っちゃうか。お母さんは二年前に殺されたって話だけど…実は私が異世界から帰って来たのは、つい一か月前のこと…なんだよね」
「へ?」
「えっと…時差っての?」
「時差…?」
「ほら、海外に行ったら自分はもう寝る時間なのにも関わらず、外は真っ昼間みたいな?」
「あー…あれか。社会で最近習ってる…っていやいや、二年は時差の規模じゃないって。多分意味間違えてるんじゃない?で、どゆこと?お母さんの件でこっちに帰ってきたんじゃないの?」
「…」
わかりやすい沈黙をする彼女。何か特別な理由が、彼女の言う「異世界」にはあるらしい。その後何やら専門用語らしき言葉を彼女は放った。
「「ウラシマ効果」って言っても…通じないか」
「何のことだよ」
「…まあそんなわけで、妹の件どうすればいいと思う?」
「んんーー。ええーー……………あ!ペンダントとかよくね?お母さんの写真入れた的なやつ」
「…良いかもしれない」
「だろぉ。早速作ってみる?」
「そうしよ!」
こうして、僕たちはペンダントを作り、綴にプレゼントするという計画を実行した。「僕たち」とあったが、まあほぼ彼女の姉の怜弓が全ての工程を行ったようなものだった。
ロケットペンダント代も、写真を入れる作業も、すべて怜弓が負担した。
彼女の顔を見るに、割と簡単な作業だったように思われる。しかしながら、彼女は丹精込めて作ったように思う。
そして、諸々の時間を経て彼女はそれを作り終えた。
「ありがとう渉」
僕はあまり彼女を手伝っていなかったにも関わらず、作り終えた暁に彼女は僕に感謝をしてきた。その時、僕はとても気持ちが高揚したように思う。
今の今まで異世界への勧誘ばかりで嫌気の差していた部分もあったが、この時から僕は彼女に完全に惚れてしまったように思う。
「どど…ぅいたします」
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「何?」
白目を剥きながら不機嫌そうに寝転がっている妹。
「はい…これ」
姉は何かを妹に手渡した。
「いらね」
ポイッ
しかし妹は何の躊躇もなく、それを部屋の奥に放り投げた。
「あーちょっと!中までちゃんと見なきゃ」
「はぁーーーーー…ん、お母さん?……なんでだよ…」
不機嫌そうに溜息を付きつつも、中を開くとそこには三十代程度の女性の膝の上に乗っている二年前の妹がいた。
「お母さん、もうこれで綴の傍にずっっといるね。」
姉は妹に優しく微笑んだ。
そして妹は今までの素っ気ない態度をどんどんと崩していくように小さく呟く。
「おねえちゃん…」
「じゃあ、私お風呂入ってくるから」
トコトコトコ……
姉は部屋の扉まで向かい、廊下の奥へと姿を消した。
「……………………………グスン…ひぅ」
妹はしばらく沈黙したあと、姉に気づかれないように小さくすすり泣いた。
しかし、姉はそのことに気付いていて、待ち伏せしていたようだ。そして、妹の方へと駆け寄る。
…トコトコトコ
「あ、やっぱり泣いてたんだ!」
「な…お風呂入るって…グス、つーか泣いてねーし」
「んもうよしよし…大丈夫大丈夫。お母さんそういえば、姉貴ともっと仲良くしてほしいって言ってたよ。じゃあ、まずは一緒にお風呂入ろっか」
「そんな…そんなこと…ううう…い゛っ゛て゛な゛い゛!い゛っ゛て゛な゛い゛か゛ら゛!!うわぁぁぁぁぁぁぁん」
まだ待ってください!
まだ序盤です!
今回は結構ハートフルな回でしたが、次回から話が急展開を迎える(主人公が追放される)と思うので、楽しみに待っていてください!
主人公追放まであと9時間…