第九十話 フェラー辺境伯領 五 いざダンジョンへ! 一
階段を登り、屋敷の上に戻った私達は忙しく働いている近衛兵を見かけました。
「殿下! 作業終わりました! 」
「ご苦労、では予定通りあの者達を王都へ連れて行ってくれ」
「「「はっ!!! 」」」
そう掛け声と共に近衛の一部が屋敷を出て行きました。
どうしたのでしょう?
なんの作業をしていたのでしょうか?
知りたいですが、機密に触れてもいけないので黙っておきましょう。
「彼らが何をしていたのか気になるのですか? 」
どうやら見透かされたようですね。
「ええ、そうですが特に気にはしませんよ」
「別に秘密というわけでもないので話しましょう」
そう言いケアリック殿下は私達を連れて執務室へ向かいました。
あいも変わらず豪華な執務室のソファーに殿下が座ります。
立って話を聞こうかと思いましたが「座っても大丈夫ですよ」と言われたので座ります。
殿下がメイドに紅茶を持ってこさせ、メイドが私とケアリック殿下の分のお茶を出し、退出しました。
紅茶に口を付け、先ほどの話の続きをします。
「彼らは犯罪を犯していたり、他国と繋がっていたりしていました。それは以前にカウフマン卿の報告から容易に想像できました」
紅茶を一口飲み、一息つくと続けます。
「なので多めに人員と馬車を用意し、彼らを本国の王都付近へと輸送させたのです」
王家で管理する、ということですか。
「仮にも彼らは辺境伯家で働いていた経歴があります。その中で様々な機密に触れる機会もあったでしょう」
そう言うと私達——後ろにいるロバルト達も含めて見まわし確認します。
「父上と話し合った結果、一度奴隷に落としそれを王家で購入、そして情報を抜き取られないように監視をしながらアローズ子爵領にある鉱山で働いてもらおうということになりました」
どのくらいの期間生き残れるのかは不明ですが、と付け加えながら紅茶を更に一口飲みソファーに背を預けました。
「最終的にフェラー辺境伯は何を考えていたのでしょうか? これだけのリスクを抱え最終的に地獄のような代償を払うことになったのです。それに見合うものがあったのでしょうか? 」
やっていることがあまりにも無謀過ぎます。
殿下の暗殺未遂に他国との密輸貿易……。
それに見合うものなどあるのでしょうか?
「ふむ、断っていたから口外していないんだけど……。実は妹のクトリシアにフェラー元辺境伯の息子が婿養子にどうかと言ってきたことがあったんだ」
「「「……は??? 」」」
「まぁそうなるよね。父上は「ふざけるな! 」の一喝で終わった話だったから、ほんの一瞬だったけど、彼の息子からすれば「自分が次期国王になれるかも」と思ったんじゃないかな? そしてその親であるフェラー元辺境伯は影の宰相……」
呆れてものが言えませんね。
それにそれを未だに引きずり持ちだす、フェラー辺境伯……。
本当に辺境伯だったのでしょうか?
「彼の祖父は普通だったと聞いている。実際にあったことはないし、もういない。その息子、フェラー元辺境伯はダメだった……。貴族としてダメだった」
そう言うと少し、暗い顔をして言葉を続けました。
「フェラー元辺境伯は実は三男で本当は実家を継げることはなかったようだ。しかし相次ぐ兄弟の病死、そして貴族としてまともな教養を受けていないジグムントが辺境伯の地位についてしまった。それが彼を増長させたのかもしれないね」
確かに不憫ではありますが普通自国の王子の命を取ってまで宰相になろうとは思いませんよ?
むしろ根本的におかしなところがあったのでは?
「終わったことは仕方がありません。これから頑張りましょう! 」
ケアリック殿下がそう言い、半ば強引に話を終わらせたのでした。
★
翌日。
今、私はダンジョンに向かおうとしています。
ええ、ダンジョンに向かおうとしています。
なのに何故これほどにお出迎えがいるのですか?
ここはケアリック殿下の屋敷になっているはずです、ええそうです。
「では、無事を祈るよ」
凛とした声でケアリック殿下が出立の挨拶をしてくれました。
「は、はい。ありがとうございます、ではいってまいります」
そう言い私達は徒歩でダンジョンのある方へ向かいました。
すでにダンジョンへ向かう予定が決まっていたこともあり、準備は万端ですです。
因みにアレックスは文官としての本来の仕事をする為にお留守番です。
この領地の隣、つまり公国が魔王に支配される前からダンジョンが多くあり、中にはダンジョン同士が隣接している所もあります。
現在私達が向かっているのはその中でも中級に分類されるダンジョンになります。
ダンジョンには下級、中級、上級、最上級そして極級ダンジョンに分類され、それぞれ出現するモンスターのレベルが異なります。
この領地にあるのは下級から最上級まで。
稀に出てくるだけで現在は確認されていません。
今回何故下から二番目の中級ダンジョンに行くことにしたのかと言うと連れてきたメアリーとロバルトの訓練も兼ねているからです。
カウフマン公爵領はダンジョンはあまりありません。
よってこれをいい機会としダンジョンで経験を積んでもらおうということです。
ロバルトは幾度かダンジョンアタックをしたことがあるのですが、メアリーが心配です。
三番隊隊長とはいえダンジョンは初心者。
最初はこの地にあるダンジョンの中でも最も高い最上級ダンジョンに向かおうとか言っていましたが、「私のブランクもあるので」と理由を付けて半ば強引に中級ダンジョンで肩慣らしをすることにしました。
「それにしてもケアリック殿下はどうしたんですかね? 」
現実逃避をしていたのに現実に戻さないでください、ロバルト。
「殿下はクリスタ様に気があるのではないでしょうか? 」
首を飛ばされたいのですかメアリー。
不敬にもほどがありますよ。
「はぁ、そんなことあるわけないじゃないですか。第一私のどこに惚れる要素があるのですか? 」
「「「……」」
聞いた私もそうですが……せめて何か言ってください!!!
悲しくなります……。
「こう……王家と友好関係を強固にするとか? でしょうか? 」
私が聞きたいのは魅力です! 魅力!
「それならばいくらでも方法があるでしょう。そもそも王位継承第一の方が公爵家に来るはずがないでしょう? 逆に私が王妃に迎えられても今度は公爵家の方が軽んじられたと思われ、他の貴族と共に独立される危険性があります」
ロバルトを見上げ、続けます。
「我が家の戦力は強大で、今日まで『初代の直系』が『公爵家』を継いでいます。だから幾らルドルフ陛下とはいえ『現当主』を引き抜くようなことはしないでしょう」
人の来ている服装が物騒に変わりゆく中、こういいながらダンジョンのある方へ向かって行ったのでした。




