第八十五話 フェラー辺境伯領 二 暗躍のフェラー辺境伯 二
「現行犯逮捕です、クリスタ様」
豪華な応接室にロバルトが放り投げたのは二人ほどの男性でした。
ここまで縄でくくり引き摺ってきたのか二人ともボロボロです。
アザに生傷……それにかなり殴られた跡がありますね。
これはロバルトでしょう。
「この者達が密輸業者ですか? 」
「そうです」
「ちょっと待て!!! どういうことだ! 今日は視察だろ?! 何故密輸がわかっ……あ……」
……これほどに口が軽いとは。
最初から密輸貿易をしていると張っていたのですが自ら言ってくれるとは、これ以上にない証拠ですね。
「い、今のは言葉の綾で……」
フェラー辺境伯がそう言い訳をしますがもう遅いです。
記録済みですし。
放り投げられた二人は気を失っているのかびくともしません。
「ロバルト、殺してはいませんよね? 」
「クリスタ様ではあるまいし、きちんと手加減していますよ」
何気にロバルトも失言が多いですね。
だから五十まで一度も結婚が出来ないのですよ。
「……まぁいいです。その者達も含めてフェラー辺境伯とそこにいる執事を屋敷の牢屋に入れなさい」
「な?! 何故そのようなことを! 」
いえ、むしろなぜそうならないと思ったのですか?
私の言葉が合図となりアレックスとメアリーはすぐに行動しフェラー辺境伯とその執事を取り押さえました。
★
「フェラー辺境伯は現在、背任行為により牢屋に入れられています」
今、フェラー辺境伯邸一階でこの屋敷の者達に現状を説明しています。
私の言葉にざわめきが起こりますがそれをロバルトが一喝して治めました。
「これよりすぐ、魔法王国へ行きこの地を治める領主を派遣していただく予定ですが、その間は私が領主代行となります」
「し、失礼ですが、旦那様……いえ元旦那様は何をされたのでしょうか? 」
「ルドルフ陛下、ひいては本国である魔法王国への背任行為です。具体的には密輸貿易です。他に質問は? 」
威圧しながらそう言うと全員が黙りました。
「では皆、仕事に励むように」
そう言い一旦解散となりました。
「では……貴方達の実力ならば大丈夫だと思いますが私がいない間、任せましたよ? 」
「はい。しかしすぐに戻ってくるのですよね? 」
「ええ、遠距離転移を使えば一瞬ですから」
今回のことを含め、本当に遠距離転移を覚えていて良かったと思います。
ロバルト達に見送られながら、私は領主の部屋と王城の前を遠距離転移で繋ぎ、移動しました。
魔法王国王都マギカ王城の一室。
「やっと尻尾を出したか! 」
「これが陛下が求めていた尻尾かは分かりませんが」
ルドルフ陛下に急用ということで私はすぐさま取り次いでもらいました。
王城の常連となってしまった私ですが、毎度のことながら恐怖の対象のような目で見られるのは良い気はしませんね。
急遽開かれた会談には私とルドルフ王、宰相グラハムそしてケアリック王子がいました。
何故殿下が?
「しかし何かやらかすとは思っていたが、密輸貿易とはな……。ケアリック、どことやると思う? 」
「難しいですね……やはり隣国、でしょうか。公国の北側は砂漠地帯、もし公国を奪ったとしても利益がありません。ならば俗に言う『塩戦争』の真っ只中の隣国が最有力か、と」
ケアリック王子は張りのある、凛とした声で王の質問に答えました。
「そうだな……。まぁ後は叩けば埃はいくらでも出来るだろう」
「そうですな。元辺境伯邸にあった『証拠』も出ました。言い逃れは出来ないでしょう」
何の話でしょう?
私の知らない所で何か色々起こっているようです。
説明していただければ嬉しいのですが。
「お、そうだったな。クリスタは知らなかったか。クリスタがまだ勇者パーティーにいた頃に、ケアリックが暗殺されかけた。その最有力候補がクリスタが捕まえたフェラーだ」
そんなことがあったのですね。
それならそうと先に話していただいてもいいのに。
「そこでカウフマン卿には『視察』という名目でフェラー辺境伯領まで行ってもらったってことです」
……それ私が危険に晒される前提じゃないですか。
「まさか、それ以上の結果を持ってきてくれるとは思わなかったがな、ははは」
「父上……言いにくいのですが、カウフマン卿から物凄い殺気を感じますよ」
私とて怒る時は怒りますよ。
しかし流石ルドルフ王です。
これほどの殺気を浴びても平然としているので。
ケアリック王子の言葉を聞き、ルドルフ王は真面目な顔をして仕切り直しました。
「さてカウフマン卿、報告と同時に何か言いたいことがあるのではないのか? 」
「ええ、ルドルフ陛下」
一息置き、進言します。
「まず早急にフェラー辺境伯の爵位剥奪をした方がよろしいかと。加えてフェラー辺境伯領で活動できる者を一時的に派遣していただけたら幸いです」
すぐにでも転移魔法でフェラー辺境伯領へ向かえることが出来る者がいいです。
「あい分かった。転移魔法を使える者を卿の出発と同時に向かわせよう。それを第一陣といて第二陣を早急に派遣、そして議会承認後に第三陣として正式な領主を送り出そう。第二陣の到着後は卿は自由にしてよい」
「ありがたき幸せでございます」
そして追加で国内の対策もしておきましょう。
「彼の領地ではミスリルの値段が極端に低くございます。それは良い反面、取り尽くしてしまう可能性と他の領地の産業を奪ってしまう可能性がございます。よって彼の領地でのミスリル単価を徐々に引き上げてはいかがでしょうか? 」
それを聞き、考え込むルドルフ王。
「その件に関しては即答できかねる。議会で協議した後、決定しよう」
「かしこまりました」
そう言い私はこれからフェラー辺境伯領へ戻るといい、城の外へ出るのでした。
城の外で待つように言われて少しすると宰相に連れられた文官服風のローブを着た者達が二十名ほどやってきました。
「お待たせしました。この者達が補助に入る第一陣の文官兼治安維持隊になります」
どこかで見たことのある方々ですね。
あ、そう言えばカミラと闘った時に応援に来てくれた人達ですね。
「今回もよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!!! 」」」
「では参りましょう、遠距離転移」
「「「遠距離転移!!! 」」」
こうして虹色の転移門を抜けた私達はフェラー元辺境伯領へ帰ったのでした。




