第八十三話 フェラー辺境伯領 一 ミスリルの街
ウッド子爵領を抜け、フェラー辺境伯領へ入るとそこは山・山・山である。
勿論、林業が領の主産業の一つであることからウッド子爵領も山が多いのは分かる。しかしウッド子爵領の山は木々が多く、青々としているので主に森や林と言った方が良いだろう。
ウッド子爵領からフェラー辺境伯領へ向かうとその様子が異なってくる。
森や林のような青々とした様子から、禿た茶色い山へと。
木の取り過ぎもあるのだが、これはこの地帯に鉱山が眠っていることが分かったことにより、より積極的に伐採がされ鉱山として活用された歴史によるものである。
ウッド子爵領にあるこういった山々はもうすでに鉱山としての機能はもうない。
取り過ぎたわけではなく、元々少なかったのだ。
逆にフェラー辺境伯領のこういった山々には未だ多くの鉱物が眠っている。
フェラー辺境伯領の特徴はその収入の殆どが鉱山とダンジョンからによることであろう。
そして領都を中心にウッド子爵領からは多くの鉱物が、公国側からはダンジョン産の素材が領都へ持ち運ばれそれや加工物を他国へ売ることにより収益を得ている。
最も国が認めた範囲で、であるが……。
★
「今日は泊めていただきありがとうございます」
「いえいえ、我々としてもこうして本国の貴族様、それも女公爵様を泊めることが出来て光栄でございます。これは子孫代々自慢話にしなくてはなりませぬな」
ははは、と笑いながら私達を歓迎してくれるのはこの村の村長さんです。
今は村長さんの家で話しています。
素朴な家ではございますが、どこか品のある感じを受けました。
村長さんと言っても屈強な青年といった感じを受けます。
服はよれよれで恐らくこの方も現場に出ているのでしょう。
生傷も所々見えます。
「この村は主にミスリルを輩出する村でして、明日にでも領都の方に向けて幾つか出す予定なのですよ」
あら、それは良いタイミングですね。
「ミスリル、ですか? それは良いですね。加工された物を見たことはあるのですが加工前の物をあまり見たことがありません。是非とも一度見てみたいのですがいいですか? 」
「構いませぬよ、いくらでも見て行ってください」
そういわれ私は村長と家から出て、ミスリルを置いてある倉庫へと向かいました。
倉庫は大きな建物です。
多少金属が入っているのか、キラキラと光っています。
村長さんが入り口にいる管理人のような人に声をかけると「誰ですかい、その別嬪さんは」「村長さん、まさか結婚するんですかい?!」と話していましたが「たわけが! 本国の貴族様だ! 服装でわからなんのか!」と叱っていました。
こちらを振り向くと村長さんが言いました。
「申し訳ありません。何分、貴族様と接する機会のない者ばかりで後で叱っておきますのでご容赦ください」
「いえいえ、大丈夫ですよ。お気になさらず」
ほっとした村長さんが先導し、倉庫を案内します。
「こちらがミスリルの原石、そして向こうが原石からミスリルを抽出したものになります」
手前にあるミスリルの原石は男の人の手のひら大ほどの大きさに切り分けられており、所々黒ずんでいます。
教科書通りだとこの黒ずんだところがミスリルなのでしょう。
そして奥にあるミスリルと説明された物の近くに行き、それを眺めるととてもきれいに輝いていました。
色は白銀色で村長さんが持ってきた光球の魔道具に照らされ光っています。
さぞ値が張るのでしょうね。
「村長さん、これでいくらくらいするのですか? 」
「そうですな……。抽出前でキロ当たり金貨十枚、抽出後で金貨十五といった所でしょうか? 」
「「「え??? 」」」
や、安すぎます!
どういうことでしょう?
「ア、アレックス、本国での単価はどのくらいでしたか? 」
「そ、そうですね。抽出後、キロ当たり白金貨一枚でしょうか……」
「な!!! 」
この違いに顎が外れんばかりに驚いたのは村長さんでした。
産出量の問題もあるので一応説明しておきましょう。
「確かにこの領地はミスリルを始めとした多くの金属の産出量が多く、それにより単価は下がります。逆に本国での産出量が少なく、単価が高いのは分かります。ですがこの開きはおかしいですね……。村長さん、いつもこの値段だったのですか? 」
私の話を聞き我に返った村長さんはまだ驚いた感じでたどたどした口調で、答えます。
「ええ……そうですね。昔から、私の親や爺さんの代からずっとこの値段です」
ならばフェラー辺境伯自身だけの問題ではなさそうですね。
しかしこれを是正しないのも領主としては問題です。
格安で売るのは一時的にはいいかもしれませんがこれが長期化するとすぐに資源がなくなってしまいます。
ミスリルのような希少金属は特に、です。
「前国王の代わりに領主が派遣されたはずなのですが、どなたか巡回にきましたか? 」
「はい、治安部隊を名乗る者がきました」
「その時、彼らは何か言っていましたか? 」
「いえ、特に……。あ、値段と関係あるかは分かりませんが「今回の納品を急げ」と言っていましたね」
「納品を急げ、ですか? 」
「この地では多くのミスリルが取れるので、在庫が多くあります。なので時期を早めて納品する分には問題なかったので了解したのですが……」
それは何やらきな臭い話ですね。
面白いことを考えました。
「分かりました、少し時間はかかると思いますが何とかしましょう」
そう言い今日は村長宅に泊まり、明日に向け準備をするのでした。
尚、この村でミスリルを多く購入しました。
腕輪を作るのに失敗することも考えて、多めに買ったのです。
その金額、白金貨三枚。
アレックスの顔が引き攣っていましたが、まあいいじゃないですか!
私の財布から出したのですから!
白金貨を手にした村長さんが今にも倒れそうでしたが何とか踏ん張ってもらいました。
どれだけ冷遇されていたのですか……。
これはフェラー辺境伯にはお仕置きが必要ですね。
ええ、必要ですね……。
★
翌日私達はこの村を出立し領都フェラーへ向かいました。
私とメアリー、そしてアレックスで。
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