第八十話 ウッド子爵領 二 領都ウッド 一
翌日私達は村人の大袈裟な見送りの中、村を出立しました。
馬車が走る中、私はアレックスとメアリーに村の出来事で気になったことを聞きます。
かなり疲れた顔をしていますが知りません。
ハーレムと逆ハーレムを形成していた二人が悪いのです。
「今回のことはウッド子爵はご存じだったのでしょうか? 」
私の真面目な声に反応し、考えます。
「何も対策をしていないということは知らなかったのではないでしょうか? それに村長達も連絡に行っていないようですし」
それはそうなのですが、他の村が滅んでいる可能性が高いのです。
それを見過ごすのは治める者としてどうなのでしょう?
「連絡が行っていないといっても定期的に巡回をしているはずです。カウフマン公爵領でも定期的な巡回は行っているでしょう? 」
確かに、と頷く二人。
「知っていて放置している場合と巡回を怠って結果的に放置になっているのとでは意味合いが異なります。最悪、陛下に進言しないといけませんね」
そう言っていると、急に馬車が止まりました。
止まったことに何事かと感じたメアリーが外に確認へ行きました。
……
少し遅いですね。
そう思っているとメアリーが戻ってきました。
少し返り血のようなものを浴びています。
盗賊でしょうか?
「メアリー、どうでしたか? 」
「はい、モンスターによる襲撃に会いました」
「モンスター、ですか? 盗賊ではなく? 」
「はい、大量の森魔狼の群れが街道に出ておりました」
ふむ、もしかしたらスタンピードで移住した森魔狼が食べ物を求めて外に出てきたのかもしれませんね。
「分かりました。メアリーが戻ってきているということはもうすでに討伐済み、ということでいいのですね」
「はい、私とロバルトで全滅させましたのでご安心を」
それを聞き、安心し、更に進むのでした。
クリスタとメアリーが談笑しているとまたもや馬車が止まりまる。
またモンスターの襲撃でしょうか?
そう思いながらもメアリーが外に確認に出た。
「クリスタ様、少しお時間を頂けないでしょうか? 」
モンスターではなさそうですね。
大丈夫ですよ、と言いメアリーに連れられ、外に出ました。
外に出て目の前にした光景を見て絶句しました。
そこには滅びた村があったのです。
しかもこの廃れ様はここ最近ではないですね。
しかし動揺している様子をメアリー達に見せるわけにはいけません。
毅然とした態度で彼女達の方を向きました。
「モンスタースタンピードの跡ですか」
「はい、そのようで」
ロバルトが肯定します。
ロバルトも思うところがあるのでしょう。
顔が少し歪んでいます。
「自分達があの村に到着するのが少しでも遅かったらこのようになっていたのかもしれませんね」
いつの間にか馬車から出てきたアレックスがそう言いました。
「ええ、そうですね。更に言うと、あの少年が声をあげなければ同じ道を辿っていたでしょう」
「これを見ると、領地に帰ったら気合を入れ直さないといけないと思わされます」
「そうだな……」
三者三様の反応をしますが、私達は黙祷を捧げ、領都に向かい馬車を走らせるのでした。
★
「彼の高名なカウフマン女公爵様をお迎えでき、恐悦至極の極み! よくぞ参られた! 」
そう言うのは赤髪の三十代男性—―ショーン・ウッド子爵です。
長身で私よりも頭二つ分背が高く、見下ろす感じになっていますが仕方ありません。
男性用の貴族服がはち切れんばかりの筋肉。
我が家のロバルトもかなり筋肉質な体をしていますがそれを優に超える筋肉です。
流石『筋肉主義者』ですね。
「お初お目にかかります、ショーン・ウッド子爵。今日は視察となっていますがよいでしょうか? 」
「構いませぬ、構いませぬ! 存分に観られよ! 」
そう言いながら「ふんぬっ! 」とポーズを決め、筋肉を強調してきました。
何でしょう……。
彼を見ているだけでかなり疲れます。
見せつけるかのように一挙一動ごとに筋肉を膨らませるウッド子爵と共に私達は街へ出ました。
子爵の家もそうだったのですが、この領地は魔法王国とは異なり木製の様です。
木の匂い香る中、屈強な者達が街を練り歩いています。
例にもれずアレックスとメアリーは屋敷で調査を、私とロバルトが領都内を視察しています。
「我が領地は前ロックガット王国の傭兵派遣業と林業を引き継いでおります、ふんぬっ! 」
見えません。
私には筋肉のせいで破れそうな服など見えません!
「この地は最高ですな! 我が筋肉も受け入れられたようで、ふんぬっ! 」
ビリッ!
「いえ、魔法王国を非難しているのではないですよ? ふんぬっ! 」
ビリッビリッ!!
「むしろ感謝しております。魔法を使えぬことで家で冷遇されていた私を魔法王国の騎士団の、それも副団長に任命していただき……更に!!! このような素晴らしい領地を拝領してくれたのですから!!! 」
ビリッビリッビリ!!!
感極まったのか全力で筋肉を膨張させたせいで上半身の服が破けてしまいました。
「おっと失礼」
そう言い破けた貴族服を羽織ったまま、頭を下げました。
本当に失礼です。
★
「ご覧の通りこの街の建物は木でできています」
先ほど服を破いてしまったことを反省したのか、筋肉自慢はやめたようですね。
それが賢明です。
しかしまだ上半身裸の状態です。
街の人は誰も何も言わないのでしょうか?
「なので火災が多く発生することが考えられます」
道行く筋肉質な人が「また領主様、上半身裸だよ」「また破いたのかい? 」「これでここに来て何度目だ? 」等々言っています。
いつものことなのですね。
「よって私が赴任した時まず行ったのは、火災に対する対策です」
あら、普通に仕事はしていたのですね。
色々と不真面目なところが散見されていたので、訓練ばかりしていたのかと思いました。
「一時的な措置として水属性魔法を使える魔法使いをいつでも派遣できる体制を作りました」
「どこから魔法使いを引っ張ってきたのですか? 」
少し苦みを潰したかのような顔をして、返事をしました。
「実家からです……。私がこの地を任されたことで手の平を返したようにアピールしてきました。しかし魔法使いが足りないのも事実。親族でも水属性魔法が得意なもので特に問題がないと判断した者をこの地に呼びました」
ウッド子爵が領地経営方針について「資料を見ながらの方がいいでしょう」と言うので屋敷に戻り聞くのでした。




