第七十四話 ミッドナイト子爵領 四
アレックスの言葉と共に初老の男性が一歩前に出てきました。
するとおずおずと口を開きます。
「お初お目にかかります、私フェルナンド・フィード男爵と申します」
フィード!
ということは、この方はこの国の元国王ですね。
確かに裁量権を委ねておりますが、大胆ですね。
「ご存じかもしれませんが、私はクリスタ・カウフマン女公爵と申します。失礼ですが元フィード王国国王陛下ではございませんか? 」
その言葉に顔を歪めながら答えました。
「はい、その通りでございます。この度は多大なご迷惑をおかけして申し訳ありません」
や、やりずらいです。
爆破された本人がやってくるとは予想外です。
「して、聞きたいこととは何でしょうか? 」
「……我が国、いえ元フィード王国はどこで間違ったのでしょうか……」
聞きたいこととはこのことですか。
これは誠実に対応しなければなりませんね。
「前の戦争時、貴方の国は小国家連合に参入し、騎士王国の崩壊にに加担したことがまずもっての間違いでしょう」
しかしこの方が聞きたいのはこのような模範解答ではないのでしょうね。
「やりようはいくらでもあったと思います。確かに当時騎士王国は攻めるにこれ以上ないタイミングで他の国々にとって攻め時だったでしょう。しかしながら騎士王国を攻められて困るのは実の所、魔法王国なのです」
何を言いたいのか分からない顔をしています。
少々地理を考えたらわかるのですが……。
あまり争いごとが無い国、故の弊害でしょうか。
「騎士王国の更に向こう側には皇国を含めた様々な国があります。騎士王国はその緩衝地帯として役に立っていたのです。よって騎士王国を魔法王国が助けることを念頭に作戦を組むべきだったのです」
魔法王国にとっての騎士王国とはどのようなどのような存在だったのか、初めて知ったようですね。
「総合的に考えて、魔法王国が戦争に参入することを考えた結果、国を守るのならば小国家連合に加担しているふりをして何かしらの連絡をとり、魔法王国側についたのならば王位を剥奪されるようなことはなかったでしょう」
それを聞き、戦争に加担してしまったことを嘆いてなのか泣き崩れました。
「しかしまだチャンスはあります」
そう言うと、泣き顔のまま上を見てきます。
「我が国は良くも悪くも実力主義。平民から貴族へ成り上がる者もいるくらいです。フィード卿の代が無理でも、次代以降に貴族としてですが上位に組み込むことは可能でしょう。これを機に一新して頑張ってみてはいかがでしょうか? 」
そういい残し私達はミッドナイト子爵領を後にするのでした。
★
ミッドナイト子爵領からウッド子爵領へ向かう道中、馬車の中ではそれぞれがミッドナイト子爵について話し合っていた。
「ではアレックス、総評としてミッドナイト子爵はどうでしたか? 」
「大胆な雇用が目立ちますが、仕事としては堅実的な印象を受けました」
くいっと四角い眼鏡をあげ、続けます。
「帳簿もきちんとつけており、特に目立った穴等はありませんでした」
メアリーはどうでしょうか?
「私も同様の印象でございます。ただこのような場合多少なりとも武力的な反発やデモのようなものが起こっても不思議ではないのですがそのようなことも見られておりません。実にいい手腕かと感じました」
そうですね、領地の武装蜂起くらいは起きるのではないかと思っていたのですが、この領地に関しては何も聞いていません。
しかしそれも今回のことで納得しました。
「恐らく武装蜂起等が起きていないのは、ルドルフ陛下が王族を処刑せずに貴族に落としながらも元王都である領都ミッドナイト子爵での雇用を認めたものによるでしょう」
ルドルフ陛下が王族の処刑をしなかったことに関しては戦争にあまり加担していないことに加え、ミッドナイト子爵領が荒れるのを防ぎたかったという思惑も見え隠れします。
ミッドナイト子爵領は『食料庫』と呼ばれる地。
下手に荒れると周辺領地に影響が出てもおかしくありません。
戦後、抑えた土地で食料不足になったら本末転倒ですから。
「次はウッド子爵領です。気を引き締めて行きましょう」
★
「なんだと?! それは本当か! 」
「はい、何人か忍ばせている者からの報告でございます。真実かと」
ここはとある貴族の館の一室。
そこにはソファーでくつろいでいた男が執事が放った言葉によって転び落ちそうになっていた。
「『爆炎の魔女』がミッドナイト子爵領入りしただと?! 」
無言で頷く執事。
「な……あのカウフマン卿が……」
この男にとってクリスタが伯爵家を物理的に爆破したのは記憶に新しい。
そもそもあの現場にいたからだ。
それに加えこの領地に派遣された時に見た王城があったと思われる場所。
そこは王城だった物が散乱していた。
あの貴族家爆破事件が生ぬるく、あの時はまだ本気を出していなかったことを示していた。
瓦礫の山というのは相応しくないだろう。
強いて言うならばマグマが固まった跡、と表現するのが正しいのではないかというくらいであった。
『名前だけの無慈悲なる爆裂』
クリスタの本気を知っている者はこう呼ぶ。
無慈悲なる爆裂は通常風と火そして無属性魔法を組み合わせた魔法である。
クリスタの場合は火力が強すぎて、石や地面が溶けてしまうのである。
その痕跡を間近に見てしまったこの貴族の男は心底、クリスタを恐れていた。
「どうなさいますか? 閣下」
「……『貿易計画』を続行する」
この貴族ももう少し情報が入るのが早ければこの計画を止めていただろう。
「よろしいので? 」
今度は少々不安げに執事が聞いてきた。
「構わない、続行だ」
貿易相手は国なのだ。
本国に許可を取っていない時点で後に引けない。
もし本国の外務省を挟んでいたらここで引き返せたのだが、もう遅い。
「……暗殺部隊を用意しろ」
執事は『愚か』と思いながらもそれを承諾する。
そもそもの話、暗殺が出来るのならばもうすでに誰かがやっている。
「どうにか……無事に終わってくれ……」
そう願うも、未来は暗い。
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