第六十三話 滅国の騎士王国 二
かくして騎士王ジャスター五世ことフィル宰相を打ち取った民衆達であったが、リーダーである者が姿をくらまし混乱していた。
少し頭の切れる者は暴徒になる前に、王都ではなく他領へ逃げたり他国へ向かったのだが実際に参加した者達はこれからどうしたらいいのか分からなくなった。
そして、更なる不幸が舞い降りる。
周辺各国の連合である小国家連合が宣戦布告してきたのだ。
まさかこのタイミングで、と思ったがどうにもならない状態であった。
他の領主はすでに降伏済み。
どんどんと王都へ小国家連合軍が進行し、今にも暴徒とぶつかろうとしていた。
小国家連合軍といえど、その戦力は馬鹿にならない。
騎士王国周辺を取り囲む国家が連合を組み、進行してくるのである。
しかも同時に。
一領主が立ち向かえることが出来る相手ではない。
幾つかの領主が戦闘を行ったようだが、その圧倒的な物量差により負けてしまった。
それもあり元騎士王国の領主は降伏しているのだ。
最も、最初からつながっている者もいたのだが。
★
数日後……。
彼らは暫定政府を立てるための会議のようなものを開いていた。
しかしそれはお粗末なもので会議、ではなく最早責任のなすりつけ合いであった。
そのような中、誰かが小さな声で呟いた。
「これ、どうするんだよ」
声の主は震えていた。
今になってやってしまったことの重大性が分かったのであった。
税金が高かろうと、まだ他国に侵略さるよりかはましであったからだ。
もし反乱など起こさなかったら、少なくとも抵抗くらいはできたであろう。
騎士達が護ってくれただろう。
しかしその願いは叶わない。
彼らの足元に自分達が殺した武器を持っていない騎士達が倒れている現実がそれを物語っている。
「ど、どうすることもできないじゃない!!! 」
「どうしたらいいんだ!!! 」
「あいつはどこだ! 」
「探せ! 」
「責任を取らせろ!!! 」
こうして状況は混迷していくが、それに終止符を打つ者がやってきた。
「何を狼狽えている!!! 」
そう高らかに声を上げやってきたのは騎士姿の『ジャスター五世』であった。
「まさか?! 」「自分達が殺したはずだ! 」と思ったが夢幻ではないようだ。
『影武者』
そう思った者も多いようで、暫定政府内の者達に困惑と怒りが伝播していく。
ジャスターはジャスターで穏やかではない。
暫定政府の足元に転がっている騎士達を見て今にも切りかかりそうになるが、それを抑え暴徒に……国民に声を掛けた。
「諸君らが不満に思うのも無理はない。しかし今はそれどころではないだろう? 」
そういいながらジャスターは振り返り後ろに控えていた九人の騎士と六人の魔法使いを見る。
九人の白騎士達は言わずもがな、この国の最高戦力である。
しかし六人の魔法使いに見覚えが無かった。
『如何にも』な魔法使い風の服を着た者に加え、騎士風の者も混在しどこか傭兵集団の様でもあった。
しかし傭兵集団でない事はすぐにわかる。
彼らの服は豪華で、ところどころ金糸が入っている。
また様々な色の服を着ており統一感が無いが、胸の部分にある国の紋様が描かれていた。
その紋様を観察していた暫定政府の中の者がある事に気が付く。
「ま、魔法王国の魔法使い?! 」
正解である。
魔法王国の魔法使い達の中でも十二魔剣と呼ばれる者達であった。
今回派遣されたのは十二魔剣の内六名——幻影師『ミラ準男爵』、鋼鉄卿『マッスル男爵』、竜殺し『サッチ元伯爵』、守護者『コナー辺境伯』、万能者『ロット元学園長』、そして図書館『フォレスト』であった。
半分以上が五十を超える高齢者であるにも関わらず、その圧倒的な雰囲気に飲まれて声も出ない暫定政府の者達。
そのような中、ウィリアム・コナーが口を開いた。
「こんな愚か者達を守るためにわしらは働かんといかんのんか? 」
辛辣であるが、その通りであるため何も言えない。
「コナー老、そう言わないであげてくださいよ。扇動員が混じっていたのですから、愚かとはいえ仕方ないじゃないですか」
そう言うのはマッスルであった。
「『仕方がない』で奪われた命はどうなるんじゃ? ええ? 」
正論である。
それに乗っかるエドワード・サッチ。
「全くです、この仕事のせいでどれだけお嬢様の婚期が遅れるのか考えると頭が痛いです」
全く関係なかった。
『クリスタお嬢様ラブ』な執事に呆れながらもその他の者達はジャスターの言葉を待つ。
「これより我々『元騎士王国』は『魔法王国』の傘下に入る! 異論はないな? 」
その言葉にいち早く反応したのは暫定政府のリーダー格の男性であった。
「ま、待ってくれ! それは属国になるってことだよな! 」
「無論そうだ」
「何故、俺達が属国にならなければならない? おかしいだろ! そんなの! 」
その反論に協調するかのように他の者がざわめきだす。
ジャスターが「愚か者!」と言いかけようとしたが、それよりも先に民衆が黙った。
何故なら後ろにいる魔法王国の者達から物凄い魔力を感じ取ったからだ。
訓練していなくてもわかるくらいに膨大な魔力量を放つ集団に息を飲み、押し黙る。
「貴様ら、ええか? よく聞けよ? わしらは貴様らが小国家連合に殺された後にこの地を奪い取ってもいいだぞ? それをここにいる、元王様が土下座して頼み込んできたから俺達がおる! 」
元より自分達の反乱が成功した時点で、魔法王国に支配されるか、小国家連合に支配されるかの二択だったことに気が付き青ざめる。
しかし魔法王国はもとよりこの地を支配する予定などなかったのだがそれは言わない。
「はぁぁぁぁ、まあいい。それよりも気になるのは各地に出向いている者なのだが……。ミラよ、何か連絡は来ているかい? 」
「……ドッペル子爵その他軍勢は敵国と内通していた貴族及び領主達、そして各魔法師団が小国家連合軍を制圧、しました。先生……」
「う、うむ……。し、して……『あの子達』は……どうじゃ? 」
「……」
返事が帰ってこないことにピーターは戸惑い、冷や汗をかく。
主にやり過ぎていないかと思って。
★
ドッペル子爵サイド。
ドッペルは纏; 影を用いて影の中を移動していた。
その中で同胞、つまり親族と久しぶりに会い情報を交換する。
「……ここから三つの領主を攻め落とす。異論は」
「「「……ない」」」
「……我々は『影』だ。見つからず、そして一瞬で」
「「「……もちろんだ」」」
「……行こう」
影の中で彼らは散開し各々の任務を果たしに行く。
元騎士王国のとある領主邸。
「ふぅ、今回の件は渡りに船だったわい」
「左様ですな、旦那様」
そう言うのはでっぷりとした顔と体の男であった。
指には豪華な指輪をはめており、かなり裕福なことが分かる。
「これで堂々と『仕事』が出来る、ふふふ」
そう笑いながら手に持つワイングラスを回す。
赤いワインが綺麗に波打っていたと思うと、突如波が重複して見えた。どうやら手に持つワインを飲み過ぎたようだ。
仕方ない、ベットで休むか、と思い移動するためにソファーから立ち上がるもふらふらする。
「だ、だんな……さ……ま」
正面を見ると自身にワインをついでいた執事もふらふらとしていた。
そして主同様に意識が遠のいていく。
「い……い、なにが……」
訳も分からず、この豪邸の主は息を引き取った。
そしてそれを影からのぞき込む者が一人いる。
「……任務完了。ミラ準男爵、次の目標へ行く」
ドッペルはミラに連絡をとり、影に潜り移動する。
属国になった時、害になる領主達を暗殺するために。




