第五十八話 不死の勇者
「あらあら、私達の逢瀬を邪魔する者が侵入してきましたね、イーサム」
「が、が、あ、が……」
あまりにも異様です。
後ろのステンドグラスに描かれているような鬼の顔をしていますが、確かにこの首はカミラの声を発しています。
それにイーサムもおかしいです。
体自体におかしなところはないのですが壊れた魔道具のように動きがおかしく、響いてくる声はまるでアンデットが発する呪詛のような感じがします。
そして何より……
「あら、そうですかイーサム。貴方をここまで追いやったあの女が憎いと? 」
あの変な声をまるで理解しているような雰囲気で会話をする首だけのカミラ。
何が何やら。
(クリスタ、これが陛下が言っていた元勇者イーサムと神官カミラかい? )
その言葉にすぐに答えれません。
何せ私が知っている彼・彼女とは全く異なるのですから。
(声や体つきだけを見るのならばそうです。しかしあまりにもパーティーを組んでいた時と話し方や雰囲気が異なるので正直判断に困ります)
(成程ね、これは捕獲は無理かな)
(無理でしょう……。討伐に変更です。マルクス、記憶の宝珠を)
了解、という言葉と同時にマルクスが懐に入れていた記憶の宝珠を起動させます。
「カミラ……でいいのね」
そう言うとイーサムの方へ向いていた首がこちらを向きました。
「ええ、そうですよ。クリスタさん」
喋る度に背筋が凍るような感じがします。
これが……『鬼族』。
カミラの本性、ですか。
「私これでも貴方に少しは感謝しているのですよ? 」
「どういうことです? 」
少しでも情報を引き出すため会話を続けます。
「貴方のおかげで、イーサムと一緒になれましたもの」
イーサムと一緒、という言葉に違和感を覚えました。
そう言えば……
「ベラはどうしたのですか? 」
「どうした、と言われましても貴方なら大体の想像が出来ているんじゃないでしょうか? 」
確かにそうですが……
「さて、どういうことかしら? 」
「まぁいいです。どうせこの場所から逃げることはできないので冥土の土産に教えましょう。彼女はギャンブルで借金を負い、今は借金奴隷じゃないでしょうか? 」
……直接手を加えたと思った私が少し恥ずかしいです。
「あら、もしかして私が直接手を加えたとでも思いましたか?! アハハ、そう見えるようなことするわけないじゃないですか! しかしまぁ貴方の後釜として入ってきた魔法使いはダンジョンで殺しましたが」
やっぱり殺ってるじゃないですか!
ぐっ! と声を出しそうになりますが、抑えどころです。
「それにしても貴方が滅んだはずの鬼族の末裔とは驚きですよ」
「あらあら、まぁ確かに私で最期でした。えぇ最期でしたとも」
そう言いカミラの首は鬼が描かれているステンドガラスを見ながら、話し続けます。
「『魔王』が先に倒れ、『私』が死亡。これで最期です」
!!! どういうことですか!
「何故『魔王』が出てくるんですか!!! 」
「どうせここで死ぬので知っても意味のない事です。まぁ精々足掻いてくださいな」
「クリスタ!!! 」
はっ!
と、飛びのくとそこには焼け焦げた跡が見えます。
しゅぅぅぅぅぅという音を出しながら焦げる臭いがしてきました。
「光属性魔法、光線……」
そう呟いている間にカミラの首は周辺に魔法陣を展開させ光線を放っています。
「僕以外に完全無詠唱化する人がいるとはね」
そう言いながらも完全無詠唱化させた氷槍で首を打ち落とそうとするマルクス。
負けていられませんね。
自身に筋力上昇と加速をかけ瓦礫を避け、走り炎槍で牽制します。
「あらあら、この程度ですか? 」
と、挑発するような言葉と共に炎槍が何かに阻まれました。
(光線の次は結界ですか。本当に鬼族とはいえ神官ですか? )
神官は本来回復に特化している。
このように多芸な神官がいなくはないが、そのほとんどは異端とされ、追放されている。
「おっと、君は元勇者だね」
「が……」
クリスタがマルクスの方を見ると先ほどまでカミラに攻撃をしていた彼がイーサムと打ち合っていた。
(何、あの動き?! イーサムはあそこまで強くなかったはず! )
イーサムの剣筋は以前、クリスタと別れた時よりも遙かに早くそして破壊力があった。
剣を改良魔杖で受け止め、押しのけ、伸縮させ『突き』で攻撃し、距離を離し、魔弾で突き放す。
しかしマルクスのそのような攻撃にも関わらず、イーサムはその身に全ての攻撃を受けながらマルクスに接近し、切り裂こうとしている。
「根性……じゃなさそうだな……」
私が一瞬、マルクスの方につい注意がそれているとカミラが聖連弾を打ってきました。
くっ!
それに少し反応が遅れ、腕に傷を負いながらも足を止めず三メートル大の風弾で反撃。
それを重力を感じさせない動きで宙を舞いながら回避するカミラの首。
「ハハハ、その程度でしたの?! あれほどに警戒していた相手がこれほどだったとは!!! ハハハ! 」
頭に血が上りそうになるが、それを抑え状況を確認。
あまりいい状態ではないようです。
★
一連の攻防の後、先に均衡が崩れたのはマルクスの方の様だった。
「全てを封じろ! 完全空間凍結! 」
不完全ならも空間を閉じられ、凍り付けにされたイーサムは動きを封じられ粉々に霧散していった。
それはセシリーの十八番であった。
マルクスは膨大な魔力量を差し引いても、単純に強い。
それは劣化版とはいえ自分が興味を持った魔法を再現してしまうからだ。
これを器用貧乏ともいう。
「これでおわ……はぁぁぁ?!!! 」
完全空間凍結が発動したところに、まるで何事もなかったかのようにイーサムが立っていた。
「う、うそでしょ!!! 」
「おい……不完全とはいえあのフォード卿の業だぞ?! 」
マルクス達はイーサムの体が一度霧散したのを確認したが、瞬きをしている間に復活していた。
それを愉快そうに見てカミラからとんでもない事が伝えられました。
「あら、聞いていないのですか? イーサムの勇者としての能力は『不死』ですよ」




