第五十三話 遺跡分布図
私の前に「ポトリ」と落ちてきた本は騎士王国側の国境の街にある雑貨屋さんで買った遺跡分布図、という本でした。
古びた様子のその本は表紙に大きな遺跡のような絵が描かれており、見ただけで何を書いているのかわかるような本です。
「煮詰まっていましたし、この本でも読んでみましょうか」
そう言いながら私は木製の椅子に座ります。
茶色い椅子に腰をかけ、本をめくります。
かなり年季の入った本の様です。
パラパラとめくると少し古本のかび臭い匂いがしました。
しかし目に見えてカビがあるわけでもなく、匂いだけの様ですね。
「このくらいでしょうか」
そう言い本を閉じます。
見た目からわかるようにこの本は大きいだけでそこまで分厚くありません。
魔法王国を中心にその周辺各国にある遺跡だと思われる場所を書いているだけなのでほんの十三ページくらいでしょうか。
しかし……
「大抵、こういう本には仕掛けがあるものです。高位鑑定」
するとその情報が私の頭の中へ入ってきました。
要約すると『遺跡分布図』と『保護魔法付与』が引っ掛かりました。
「む、これだけですか。ならば……」
そう言い様々な道具を入れてある道具棚へ行き魔道具を持ってきます。
持ってきたのは単なる光球の魔道具です。
これを一枚一枚下から照らし映します。
すると……
「む、少しは当たりの様ですね」
一, 三……と、ある種一定規則の枚数に数字が浮かび上がってきました。
そして魔法王国の地図へと移ります。
魔法王国の地図には各領地にそれぞれの番号が浮かび上がりました。
「ならばこの地図の所に浮かび上がった番号を振るのですね……」
そう言いながら手に持つ黒いペンで「ちょん」と一, 三, 五, 七, 九, 十一, 十三と振られた領地に印をつけていきます。
「七個、ですか」
考えながら最善の方法を考えます。
……線で結んでみますか。
各領地の遺跡部分をそれぞれ直線で結び、各線がちょうど交わりあうところを現在の地図と照らし合わせると一つの土地が浮かび上がりました。
「……廃都」
★
「そんなことがあったんだ……」
私は最近の出来事をマルクスに伝えています。
「と、いうことはもう物質輸送や三次元短距離転移、遠距離転移が使えるのかい? 」
「ええ、一通り使えるようになりましたが、それが何か? 」
せっかく研究に貢献してあげようとして覚えたのに不服そうにしてます。
何が不服なんですか!
「いやいや、流石だ、と思っただけだよ。さぞ、陛下が聞いたら驚くだろうね」
確かにどれも使い手が少ない魔法ですが、そこまででしょうか?
「いや、君が天才だということは前から知っているけど流石にこう……短期間でその三つの魔法を覚えられたら僕達凡人は泣きたくなるよ」
誰が凡人ですか……。
凡人であるなら、あのような奇抜な魔法は開発しませんよ。
「それにしても、遺跡か……。その遺跡に何かあると思うかい? 」
「さぁ? 私にはさっぱりです」
そっか、と呟くと何やら考え事をしています。
珍しいですね、興味がないと思っていたのですが少し興味が出てきたのでしょうか?
「しかし!!! 」
そう言うと「うぉ! 」と吃驚して彼の体が跳ね上がりました。
「そこに面白い物があるかもしれません!!! 」
そう、これは調査なのです!
屋敷を抜けるいい口実……もとい仕事になるのです!!!
「マルクス! 貴方研究者でしょう? 」
あ、あぁ……と急にテンションが上がった私について行けないようで困惑していますね。
ふふふ、今回は無理難題に付き合っているのです。少しくらい私の息抜きに付き合ってもらってもいいでしょう。
「ならば、そこに調べるべき摩訶不思議があるのなら調べに行くべきではないのでしょうか? 研究者として!!! 」
そう、これは等価交換です。
マルクスの仕事を少しでも手伝ったのです。
「マルクス、いいですか! 本来なら三次元短距離転移の消費魔力削減だけでも、報酬が出る程の研究成果なのです! それをマルクス譲りますから、さぁ調査に行きましょう!!! 」
こちらの鬼気迫る勢いに押されかなり引いているマルクスですが、少し考えた後に頷き私達は遺跡へ行くことになりました。
★
「そういえば……」
「なんですか? 」
マルクスと領地を出るための計画、いえ調査隊の結成と調査計画を立てているとマルクスが何か呟きました。
また何かごねるのでしょうか?
彼は自分の興味がない事にはとことんと消極的なので。
「確かあの地は王家の管轄だったよね? 」
「ええ、そうです。大昔に遷都した時からあの地は王家の管轄ですね」
あら外れましたね。
でもそれが何なんでしょうか?
「一度、ルドルフ陛下に伝えに行った方が良いんじゃないかな? 」
ぐぅ!!! それを言われると痛いです。
ルドルフ陛下の所へ許可を取りに行くとなると必然的にエドワードやエリー姉さん、ハリー兄さんにも事の詳細が伝わるでしょう。
行く時はどうにでもなるのですが、帰ってきた時が怖いです。
「確かにそうですが……」
「今回は研究の件もあるから一回報告に行った方がいいかもね」
ううぅ……。
分かりました。
行きます、行きますとも。
それを横目で面白おかしく見ていたマルクスが少し笑っていました。
ならば少しだけ反撃です。
笑っていられるのも今の内ですよ!
「……マルクス、そう言えば婚約はどうしたのですか? 」
その言葉と同時に空気が「ピシッ! 」と音がしたような気がしました。
「まさか婚約破棄になってないでしょうね、マルクス」
「そのまさかだよ……」
はぁ、と溜息をつき話し出しました。
「なんか、こう……僕と話していると疲れるそうだよ。曰く「夫婦をやっていけない! 」とのことらしいよ」
なるほど、マルクスのことですからどこかでスイッチが入っていきなり語りだしたのでしょう。
「……いい人がいると良いんだけどね」
「あら? 侯爵家当主となるとお見合い話は多いんじゃないのでは? 」
「全部没! お見合いをしても合わない……。だから今のところ僕からアプローチをしない限りその手の手紙は細切れにしているよ」
あ、憐れ過ぎです。
ふふふ、これで少しやり返せたでしょう!
「本当に、良い人がいるといいんだけど、ね」
横目で見てくる彼の目線に気付かないクリスタは計画をどんどんと練っていくのであった。




