第五話 国境の街 二
雑貨屋を出たクリスタは上を見た。
まだ宿へ帰るには早そうですね。
そう言えばお洋服をどうしましょうか? 旅服のままですしこのままでもいいような気もするのですが家に着いた時、爺や達に心配がられても困ります。
何か買っていきましょう。
商業区を右に左に散策していると一軒の洋服店を見つけた。
特に特徴はないのだが、手ごろな感じがする店であった。
あのお店にしましょう。
クリスタは店の中へ入っていく。
中は適度な間隔で洋服が吊るされていた。旅服から魔法使い風のローブなど多種多様である。しかし貴族服やパーティードレスのような物は流石に置いてなかった。
受付台はあるものの店員はいない。
「すみません、誰かいらっしゃいませんか? 」
と、店員を呼んだ。
すると奥の方から「はーい」という声と共に一人の眼鏡をかけた女性が現れた。
「申し訳ありません、作業をしていたもので」
それは仕方ありませんね。
「一着見繕っていただきたいのですが……」
「あ、はい。大丈夫ですよ。どのような服を御用でしょうか? 」
せっかく騎士王国の国境の街に来たのです。記念の意味も込めてこの街ならではの服もいいですね。
「そうですね……。この街の流行に沿ったような服は御座いますか? 」
「ありますよ、こちらへどうぞ」
言われるがままに彼女について行きます。
この中から選ぶのかと思いましたがどうやら違うようですね。
受付台の隣にある扉を潜り違う部屋へ着きました。
「こちらになります」
そう言われ周りを見ると前の部屋に置いていた服とは材質が違う物が置かれていました。
「この街は騎士王国と魔法王国の国境の街です。よって双方の商品がこの街にやってきます。お客様はどちらへ行かれるのですか? 」
「私は魔法王国へ」
「左様ですか、でしたらこちらの服になりますね」
彼女はそう言うと片側へ行き服を選びだしました。
騎士王国に入る人と分けているのですね。
「お客様に合うのは……」
あ、あまり派手なのは困るのですが……。
「これなんかはどうでしょう? 」
持ってきたのは一着の服でした。
あまり派手でもなく、かといって質素でもない服です。赤いローブのような服に少しばかし黒い刺繍……。
「気に入りました、これでお願いします」
「ありがとうございます」
クリスタは服を受け取りアイテムバックへ入れ代金を払い洋服店を出た。
次は靴ですね。
この靴のままでは家に行く時少し不格好です。
靴を見ると普通の旅用の靴である。しかしながらそれは薄汚れとてもじゃないが貴族が履いている物とは思えないものとなってしまっていた。
靴屋を探し少し移動すると靴の看板がかかれた店を見つけた。
ここにしましょう。
中へ入ると多種多様な靴が展示されていた。
色々な靴がありますね、どのような靴がいいでしょうか……。
「お客さんですかな」
声がする方を向くとそこには背が低めの男性がこちらを見ています。五十代くらいでしょうか? 白髪がちらほら見えています。
「はい、靴を変えようかと思いまして」
そう言うと私の靴を見ました。
少し考えるような素振りを見せると口を開きました。
「丁寧に手入れをしているみたいですが、かなり酷使しておりますな。言われる通り買い替える方がよろしいでしょう」
なるほど、靴の状態を見ていたのですね。
かなり綺麗にしていたつもりなのですが、やはりわかる人にはわかるのですね。流石です。
「こちらはどうですかな? 」
そういうと中央付近に置かれていたロングブーツをこちらに持ってきました。
派手ではないのですがどこか不思議な感じがする靴です。
「これは最近造った物です。本来なら採寸をしてからオーダーメイドで作るのですが、貴方の足を見る限りぴったしだと思うのですが」
いかがかな、と聞いてきますが確かに私の足に合いそうですね。
「では、これでお願いします。一度履いてみても? 」
構いませんよ、と言い靴を渡してきました。
靴を脱ぎロングブーツに足を入れます。
サイズもぴったしですね、大丈夫そうです。
そしてクリスタは靴を履き替えたまま料金を渡し、靴屋の外へ出るのであった。
靴屋を出た頃にはもうすでに日が暮れようとしていた。
夕食の時間までもう少しですね。
宿へと帰ることにしましょう。
テクテクテクと宿へ向いて歩いていると何やら後ろから気配を感じます。
何というか……。浅ましいですね……。
少し痛い目にあっていただきましょうか。
クリスタはアイテムバックから小型の魔杖を取り出し、方向を変え路地へと続く道へ入っていく。それにつられるようにクリスタを追ってきていた者達は裏路地へ走っていった。
裏路地へ入ったら正面を向いて彼らを待ち受けましょう。
驚く顔が面白そうです。
「こっちにいったぞ! 」
「っ! 足の速い奴め! 」
思ったより足が遅いですね。
待ちくたびれてしまいます。
「やっと追いついた」
「あらあら、本当に追いついてよかったのでしょうか? 」
私に反論されるとは思わなかったのでしょう。彼らは少し顔を赤くしこちらを睨みつけ近寄ってきます。
少し臭うので離れて欲しいのですが……。
「俺達を馬鹿にしやがって! 」
「まぁこの女、状況が分かってないみたいだから、よ。分からせてやろうぜ? 」
「そうだな、アイテムバックを持っているから大層な金持ちだと思ったんだが……よく見ると上玉じゃねぇか! 」
フヒヒヒ、という顔はとても気持ち悪いです。
生理的に受け付けません。
今すぐにでも消えて欲しいです。
「一応このまま右に回って家に帰る、という選択肢もあるのですがどうしますか? 」
「こんなチャンスを逃すわけねぇだろ! 」
そう言い襲い掛かってきました。
仕方ありません。少し痛い目を見ていただきましょう。
「漆黒靄」
すると彼らの目に黒い靄がかかる。
「なんだこれ! 前が見えねぇ! 」
「こいつ、魔法使いか! 」
ここは魔法王国と騎士王国の国境の街。
魔法使いがいても何ら不思議ではありません。『魔法使いや剣士に反撃される』というリスクを背負ってまで今までこのようなことをしていたようなのでもうできないようにしておきましょう。
「氷結」
漆黒靄で周りが見えない状態でもがいている彼らの横を通り過ぎ、魔法を唱えるとその足元から凍り付いていく。
「つ、冷めてぇ! 」
「どうなってやがる! 何が一体?! 」
そう言っている間にも氷はどんどんと侵食していき腹部までたどり着きそこで止まった。
「ではごきげんよう」
その言葉と共に彼らと別れました。
最後に彼らが何やら騒いでいましたが構いません。常習犯の様ですし、むしろこのくらいで済んだと思っていただかないと。
まぁその結果、凍傷で足を失っても私は知りませんが因果応報でしょう。
こうしてクリスタは宿へと向かうのであった。