第五十二話 図書館と時空間魔法
翌日、朝食を取り書類処理を終えた私は公爵邸別館『図書館』へと向かいました。
私が移動していると、屋敷の使用人達が何時でも動けるように構えますが今日は違います。
屋敷を脱出して、街にあそ……視察に行くのではないのでそのように構えないでください。
屋敷人の目を堂々と歩き、図書館に着きました。
扉の前に立っている騎士に入る事を伝えると扉が開き、私は中へ入ります。
中には司書がいたので、ひとまず挨拶を行い、本の森を歩いて行きます。
本来なら司書にどこに目的の本があるのか聞くのが一番でしょうが、今回はそうもいきません。
マルクスは軽そうに私に話していましたが、恐らく機密に触れる事案でしょう。
いえ、昔からの研究対象になるので私が聞いたところで「転移魔法の研究か、まぁ頑張れ」くらいに思われるかもしれません。
しかしながら屋敷の者とはいえあまり調べていることを知られない方がいいでしょう。屋敷の者を信頼していないということではないのですが、勘の良い者もいるのも事実。不安にさせるようなことは避けるべきです。
それにマルクスはルドルフ陛下から直接言い渡されたのですからあまり話が出回らないように注意しないと……。
そう思いつつ本を探しに行きます。
「まずは魔力消費量を削減するための資料と……時空間魔法について、と……」
幾つか本を取り、次々と選んでいきます。
「集団物資移動? あぁこれは物質輸送に関する本ですね……」
今までは殆ど攻撃や防御に使えるような魔法を選んでいたのでこういった理論然とした魔法を学んだことは少なかったですね。
いい機会です。勉強し直しましょう!
こうしてクリスタの自主勉強が始まったのであった。
★
「……ん……」
黒いカバーで覆われたペンの上に右手をかざし、物質輸送を発動させる。
「……ちゃん」
右側にあったペンが目標の場所——左手上空に出現した。
「やりました! 物質輸送、成功です!!! 」
「クリスタちゃん!!! 」
私が歓喜に溢れていると、突如大きな声がしました。
その声の方向に顔を向けるとエリー姉さんが怒った顔でこちらを見ていました。
「あ、あれ? エリー姉さん? どうしました? 」
「どうしたもこうしたもありません!!! 」
ま、まずいです……。
この顔はこれ以上ないくらいに怒っています!!!
「……集中のもいいですが、もう夜も深い時間よ! 」
え?!
そんなに時間が経っていたのですか?
私としては数時間くらいの感覚だったのですが。
そういわれるといつもは数人くらいはいる図書館内ももう誰もいませんね。
「夜になりかけた頃にフォレスト司書長から連絡を受けこうしてきたのよ! 」
何ということでしょう、迂闊でした。
しかし師匠も師匠です。
何故ハリー兄さんではなくエリー姉さんを呼んだのですか。
ハリー兄さんなら何とか怒られずに済んだかもしれないのに。
「何回声を掛けても届いていなかったから、間隔を開けて何回も呼び掛けたのよ? そしてやっとこちらを向いてくれたのよ……」
「……申し訳ありませんでした。つい……楽しくなりまして……」
はぁ、と溜息をつきながら言いました。
「集中力が物凄いことは昔から知っているけど、あまり周りに心配をかけないでね」
怒られるかと冷や冷やしていましたが、大丈夫そうです。
本当に申し訳ないです。
今回は反省ですね。
「分かりました。本は一旦部屋へ持っていき、戻るとしましょう」
「……部屋の中で勉強をしないでね? 」
ギクッ!
まさかぁ。そんな事するわけないじゃないですけ。
「明日も仕事があるんだから、早く寝なさい」
そう言われ、本を腕一杯に持った状態で私は自室へ行き休むのでした。
★
翌日眠気を隠しながら、私は執務室へ行きました。
「私……部屋で勉強をしないでね、といったわよね? 」
執務室へ向け歩いているとそこには呆れ顔のエリー姉さんがいました。
「い、いえ……何というか気になったら手が付けられなくて……」
「仕方ないわね……。いいわ、今日は休むか、そっちの勉強に専念しなさい。どの道その集中力じゃぁ執務もできないでしょう? 」
何という天からの声でしょう。
今はエリー姉さんが地獄の鬼ではなく天使に見えます!!!
「ありがとうございます! では、早速!!! 」
「あ、こら! せめて朝食を取りなさい! 」
そんな声が聞こえましたが私はすかさず自分の部屋へ行きました。
どのくらい時間が経ったのでしょうか?
あまり時間のことは分かりませんがかなり経ったと思います。
あれから数日、資料をかき集め調べたのですが結局の所『できない』というのが答えでした。
まず昨日覚えた物質輸送を使い魔力消費を試みました。
これは出来ました。
しかし今日覚えた三次元短距離転移は話が別格です。
空間把握、座標の指定、時間の固定そして自分の移動等々、様々な魔法を同時に使用する必要があり一つ一つに大量の魔力を使います。
それでもその一つ一つの魔力消費の軽減を行い、私なりにアレンジしましたがこれが出来る精一杯ですね。
「やはりできないのでしょうか? 」
そう思いながら、気分転換に次の魔法を覚えます。
遠距離転移、この魔法は本来ならば遠距離を移動するためのものですが今回は実験ということもありこれを使い屋敷の中を移動します。
遠距離転移を使うと虹色の円が出現しました。
成功です!
歓喜が溢れますが、今はそれを抑え円の向こうへ行きます。
円の向こう側、廊下へ行くと突然私が出現したことからそこにいたメイドが目が飛び出るほどの物凄い顔で驚き、手に持っていた洗濯物を落としてしまいました。
「ごめんあそばせ、おほほほほほ」と言いながら私は再び遠距離転移で戻ります。
しかしこれでわかったことがあります。
遠距離転移の方が三次元短距離転移よりも消費魔力量が少ないということです。
私は考えながら、戻った部屋を歩きます。
習得難易度は遠距離転移の方が高く設定されていますし、実際三次元短距離転移よりも習得に時間がかかりました。
では、どうして?
更に動き回ります。
距離の問題でしょうか? それとも指定する座標の数の問題?
ゴン!!!
痛っ!!!
うぅ~どうやら歩いている間に本棚にぶつかったようです。
頭を押さえていると「ドサッ! 」と一冊の本が落ちてきました。
「あれ? この本は……」




