第五十一話 お風呂
「「「研究の補助、ですか? 」」」
私はマーリン魔法学園から帰るとエドワードとエリー姉さん、ハリー兄さんに事の事情を伝えると少し驚いたような顔をして私に聞き返しました。
大規模集団遠距離転移魔法の事には触れていません。
話さない方がいいだろうと判断したのと、もし話す必要が出てきた時はもうすでに知っているだろうと思ったからです。
「クリスタ様、公爵領のことはどうするのですか? 」
私の前で並びこちらを見ながら話を聞いている中、エドワードが一歩前に出て聞いてきました。
「今のところ補助と言っても『調べもの』程度です。領地経営の傍ら調べものをし、何かわかったらマルクスの所へ伝えに行く、ということになっています」
これなら大丈夫でしょう。
エドワードも納得したのか安堵の顔をしました。
流石にそう領地経営を放り出しませんよ?
放り出したいですが。
「それで、何の研究なんだ? 」
『研究』という物に一番無関心だろうと思っていたハリー兄さんから聞かれました。
少し驚きですが……どうしましょう?
本当の事を言うわけにはいけませんし。
「そうですね……。『出来たらいいな』というレベルの大きな研究、とだけしか伝えられません」
「つまり国絡み、ということね」
エリー姉さん、鋭いです。
鋭いですが、わかっていても言わないでください。
ぼかした意味がありません。
「……御想像にお任せします」
その言葉に全員が察したようです。
追及はしないでくださいまし。
「では、早めに終わらせて婿探しをしてくださいね」
と、強めに言うエドワードですが史上最難関の魔法技術的問題を何だと思っているのですか?!
そう簡単に出来たら私やマルクスのような者はいらないのですよ?!
顎をさすりながら「クリスタ様ならすぐにできますよ」と言わんばかりの顔をするのはやめてください!
いえ、もしかしたら私がおばあちゃんになっても出来ないかもしれませんよ!
「そうね、早く婿を探してもらわないといけませんね」
エリー姉さんも何エドワードの話に乗っているんですか!
このままではだめです。
誰か……私をこの状況から救ってください。
そう思いながらハリー兄さんの方を向くと「すまん、無理だわ」と手を合わせこちらを見てきます。
……すっかりエリー姉さんの尻に敷かれてしまって嘆かわしい……。
「婿と言えばアーノルト候はどうなんだ? 」
ハリー兄さんがせめてもの償いと言わんばかりに少しばかしの援護をしてくれました。
「ああ、そう言えばアーノルト候はまだ結婚はしていませんでしたね」
しかし……
「マルクスには確か婚約者がいたはずです。これで今日の話はおしまいです!!! 」
何故か全員首を傾げていましたが、それを気にせず話を打ち切り私は書類を片付けるのでした。
★
夕食も終わり、私は浴槽に浸かり今日の疲れを取っています。
貴族といえどこのような入り方をする者はあまりいないでしょう。
何故ならこの入り方は旅をしている時に皇国出身という方に教えてもらった入り方だからです。
何でも皇国の更に向こう、海に浮かぶ島国で流行っている入り方らしく疲れが取れることで有名だとか。
自領に帰り、その入り方を思い出したので実際に行ってみたところ、これにドはまりしました。
水を多く使うので一般的ではないですが、この屋敷の者は殆ど魔法が使えますし、何なら私が水生成と温熱を使って自分で水を張ります。
「気持ちがいいですね」
そう言いながら腕を伸ばし背伸びをします。
湯船につかり疲れを取っていると、ガラガラガラと扉が開く音がしました。
ガラスの向こう側には巨大な双丘と一人のメイドらしき人が見えます。
この影はエリー姉さんですね。
影でわかるのも何か虚しい感じもありますが……。
そう思っていると扉が開き予想通りエリー姉さんが入ってきました。
「お邪魔するわよ、クリスタちゃん」
「はい、どうぞ」
エリー姉さんもこのお風呂というものにハマっているらしく時折こうして私と入るのです。
体の汚れを落とし、浴槽へと入ってきました。
入ると少しお湯が外に漏れ出ます。
ふと横に来たエリー姉さんを見ると……浮いています!!!
目を見開きそれを見るのですが、何故でしょう。
私は普通よりかは大きいはずなのですが、浮きません。
自身の脂肪に手をやり確認しますが、やはり浮きません。
この圧倒的敗北感……。
くっ!!! これが持つ物と持たざる者の差ですか!
いいです! これは単なる脂肪なのです!
そう思いながらエリー姉さんの方を見つめていると「どうしたの?」とクスクスと笑いながら尋ねてきました。
「い、いえ……特に……。ぶくぶくぶく」
紅潮した顔を湯舟に沈め隠しました。
「そう言えば……。マルクス君はどうだった? 」
「どうだった、とはどういうことでしょうか? 」
「三年ぶりだったのでしょう? 雰囲気が変わっていたとか」
今日のマルクスの顔を思い返し、振り返りました。
だるそうな顔に、不健康そうな白い肌。短い金髪に青い瞳……。
「……特に変わりはなかったですね。強いて言うならば身長が伸びた、くらいでしょうか」
これは道のりは長そうね、と意味深な事を言っていますがどういうことでしょう。
まぁいいです。
マルクスがどうしたのでしょうか?
「そう言えば、どうしてマルクスは結婚をしていないのですか? 」
確かどこかの侯爵家の女性と婚約をしていたはずです。
「ふふふ、それは直接聞いてみたら? 」
意味深な微笑みを浮かべ私を見たエリー姉さんは「もう上がるわ」と言い湯舟から出ていくのでした。
「なんだったのでしょう? 」
★
お風呂で疲れをとった私は寝室へ行き、睡眠をとることにしました。
いつもはもう少し仕事をしてから寝るのですが、今日はどうも疲れました。
久しぶりにマルクスに会い、振り回されたからでしょうか?
……いえ、いつも通りですね。
そう思いながらもベットに潜り天井に吊るしてある光球の魔道具への魔力供給を、壁際にあるスイッチに手をかざし止めます。
光球の魔道具が光を消したことで今日の事が頭を巡りました。
「久しぶりに会いましたが、変わっていなくて安心です」
そう思いながら眠るのでした。




