第四十三話 カウフマン公爵家主催パーティー 二
カウフマン公爵領。
そこは魔法王国国内でも有数の繁栄を誇る地である。
領民は活気に溢れ、行きかう人には笑顔が絶えない。
王都が近い事もあり多種多様な人が行き来するが、今ほどに極端な顔ぶれがカウフマン公爵領を通ることは、さて王の即位式や前カウフマン公爵——つまりクリスタの父の葬式以来なのではないだろうか。
似通った馬がカウフマン公爵邸へと向かっている。
「父上、今回のパーティーはどのような目的でしょうか? 」
そう言うのは白に近い金髪で青い目をしている二十歳くらいの青年だった。
父上、と呼ばれた者も同様な髪の色や瞳をしているが流石親子といったところだろうか。
「わからん……。無事に乗り切れればいいのだが……」
そう言うのはアダムス・ロウセル伯爵であった。
「貴方、そのような弱気でどうするのです」
「もっと強気で行かないと」と励ますのはその妻エミリー・ロウセルである。
別に弱気になっているわけではない。
単にアダムスが口数が少ないだけである。
情報交換の場において余計なことを話さない、という点においてはアダムスのような口数が少ない者は有利だろう。
しかし今回、クリスタの意図が見えない。
これにより余計アダムスの口数がいつもに増して減っているのである。
「カウフマン卿の目的が分からないと我々もどう動いていいのか判断に迷うのですが……。父上はどのようにされるので? 」
自発的に行動し、父であるアダムスと連携をしようとする息子コランドであったが今日はそれを止めた。
「今回はカウフマン卿が仕掛けてこない限り、何も行わない」
その言葉を聞きコランド考える。
コランドは愚かではない。
むしろ優秀である。
父のその言葉を聞き、行動することによる危険性を図り今回積極的にアピールに行かない事を決定したのであった。
★
「お、お父様、大丈夫なのでしょうか……」
そう不安げに聞くのはメリーだった。
ここはカウフマン公爵家のパーティー会場の一角。
その隅の方に震えながら二人は立っていた。
メリーにそう聞かれたジョンはそれに答えることが出来なかった。
何故ならジョン自身も今にも吐きそうなくらいに緊張していたからだ。
むしろメリーの方がまだましといえよう。
まだメリーは悪い夢を見ているような状態だが、ジョンは違う。
これが現実である事を娘よりも自覚しているからだ。
「コナー辺境伯にロウセル伯爵、ディケンズ子爵、ロックウッド子爵、ベリー男爵……そうそうたる面々だ……」
北方を治める領主がここまで一斉に集まることなどほぼないだろう。
それこそ王家主催のパーティーくらいだ。
しかし今は違う。
公爵家とはいえ一貴族が主催するパーティーなのだ。
緊張するな、という方が無理である。
それに加え会場の雰囲気も彼らを緊張させる一因となっていた。
豪華な魔道具で灯されたホールに様々な調度品……。
貴族とはいえ、北方の一男爵には手が届かない物ばかりだ。
自身の不安が伝わらないように少し間が開いたが「だ、大丈夫、きっと女公爵様が取り次いでくれるよ」と愛娘に答えた。
少し待つと扉を騎士が開き、徐々に参加者が入ってくる。
ジョンが覚えて者もいれば貴族位を継承した時に王城で一回あったことがある程度の者もいる。
ぞろぞろと参加者が緊張した顔で入ってくる。
それぞれ挨拶の意味も込めてか家族を同伴し、会場入りをする。
最後の老年の貴族が入ったと思えば、それを見越したかのように主催者側の扉が開きクリスタ・カウフマン女公爵が入ってきた。
それと同時に全員が緊張する。
張りつめた空気の中、クリスタが声を発しようとすると――
「「魔弾!!! 」」
会場の二人が魔法を放ち、それぞれを打ち消した。
★
あら、皆さん緊張しているようですね。
じい様もその雰囲気を感じているようで。
と、言うよりもこの雰囲気が気に食わない様子。
あちらもやらかすつもりですね、いいでしょう。
久しぶりです、受けて立ちます!
こうしてクリスタが壇上に上がり魔法を唱える。
「「魔弾!!! 」」
クリスタとじい様ことコナー辺境伯が魔弾を同時に放つと会場が――揺れた。
「がははは! 腕は衰えていないようじゃの! 」
「じい様も衰えていない様子で……!!! 」
「わしが衰える? むしろ日々、力が増すわい! 」
そして二人は次の魔法を唱える。
「「風弾!!! 」」
またもや魔法が炸裂する。
二人の常識はずれな行動と魔法の威力により戦慄する会場。
最早緊張している場合ではない。
二人は魔法を使っているのだが、武力行使が出来ないような対策は勿論とられている。
その一環として魔杖や剣のような危険物をもちろん会場に持ち込めない。
しかし二人は魔法を使っているのだが、これはどういうことか。
それは単純な答えである。
クリスタは杖の代わりに、威力は格段に落ちるものの魔導の指輪を触媒として魔法を発動させた。
コナーはコナー辺境伯家に伝わる技術を用いて魔法を発動させた。
こちらも詠唱時や杖などを触媒にした時よりも遙かに威力は落ちるものの『ちょっとしたいたずら』には使える。
最もそのちょっとしたいたずらは他の者にとってはかなり脅威なのだが……。
「お二人とも何をやっているのですか! このお馬鹿! 今日はパーティーでしょう! 『いつもの挨拶』をこんなところでやらないでください」
何かあったために武装していたエリーと屋敷の魔法使い達が二人の魔法で被害が出ないよう懸命に結界を張っていた。
そのおかげもあってか招待客は勿論、魔道具一つダメージを負っていなかった。
しかし全員が心を一つにして( ( (これが『いつもの挨拶??? 』) ) )と頭に疑問符を浮かべていたのは言うまでもない。
★
クリスタが魔法を撃つ前、コランド・ロウセルは二方向から巨大な魔力の高まりを感じていた。
(まずいですね、何かやるつもりです)
「「魔弾!!! 」」
高まった魔力がした方向から魔法が放たれた瞬間、自身の身に危険を感じたコランドであったが目の端に六歳くらいの小さな女の子が目に映った。
!!!
咄嗟に女の子——メリーに駆け寄り守るように立つ。
いざと言う時に構えていた魔法使いのおかげで二人とも無事であったが、後ろを向くと女の子がコランドの方をキラキラした目で見つめている。
(どうしたのでしょう? )
「大丈夫ですか? お嬢さん」
「……王子様……」
「え……? 」
コランドの無意識の行動が、本来繋がるはずのない二人を繋げるのはまた別のお話。




