第三話 爆炎の魔女と商人
ガタンゴトンと規則正しく車輪の音がする中、一つの馬車が街道を進んでいた。
その馬車の中には一人の商人らしき女性と剣や魔杖を携えた三名ほどの女性が会話をしている。
「だ、大丈夫でしょうか? 」
「まかしてください! 私達にかかれば大丈夫ですよ! 」
「それにこの道は比較的安全な道です! 」
今回はお父様に任された初めての行商です! 何としても果たさないと!
そう意気込む商人を励ますのは女性の傭兵達だった。
この馬車は魔法王国で商売をする為に荷物をたくさん積んでいる。行商の旅の中で何があるかわからないので傭兵を雇ったのだ。
彼女達はこれらの物を運ぶために雇ったその傭兵で、その中でも珍しい女性のみのグループである。
私は馬車に揺られながら荷物を運ぶ。
「!!! 何か来ます! 」
素早く気が付き声を上げたのは傭兵の斥候役であった。
リーダーの女性がメンバーに聞く。
「マーラ、馬車を走らせるのと迎え撃つのとどっちが早い? 」
「アマンダ、迎え撃つ方が良い。相手の動きがかなり速い」
その声を聞いてアマンダが御者に素早く指示を出す。
「御者さん、馬車を止めてください! 迎え撃ちます! 」
すると怯えた表情で御者が馬車を止める。
「全員構え! 」
横に広がる森へ剣と魔杖を構えた。
「ナル! 保護魔法だ! 」
「は、はぃ! 保護防壁」
行商人のマリンは急な展開について行けず一人困惑していた。
「荷台へ隠れていてください! 」
そう言われすぐさま荷台の方へ向かい息を潜め、隠れた。
な、何が起こっているのでしょう?
「来るぞ! 」
その言葉と同時に数人の男性達が森の中から出てくる。
「っち! カンの鋭い奴らだ! 」
「しかし女ばっかだな!」
「今回は当たりか? 」
ギャハハハッハ、と声を上げると男達は剣を構え馬車の方を向く。
「まぁ俺達がやる事はかわらなぇ。行くぞ! 」
ひぃ! と私が声を上げた瞬間――
「魔弾」
こちらに切りかかろうとしていた山賊達が吹き飛んだ。
★
あれは……山賊でしょうか?
幼気な女の子が襲われそうになっています。
これはいけません。すぐさま駆け付けないと!
「加速! 軽量化! 」
体を軽くして速度を上げ私は彼女達に駆け寄ります。
すぐに彼女達と山賊達が見えてきたので切り付けようとしている山賊へ魔杖を向けて一撃与えます。
「魔弾」
魔法の中で一番スピードが速い魔法を唱え相手を吹き飛ばしました。
あら、意外と軽いのですね。
女の子達が唖然とした表情でこちらを見ていますが構いません。問題は残った山賊達ですね。
「な、何だこいつ?!」「どこから現れた?!」「お、お頭が! 」
一撃で吹き飛んだ男を見て山賊が騒いでいますね。しかし容赦はしません。
『山賊に慈悲はなし』
これは万国共通の認識です。
「火炎散弾! 」
三発の炎の散弾が山賊達を襲う。
「「「ぎゃぁぁ! 」」」
燃え盛る高温に晒された山賊達の肉体はすぐに消え、骨だけとなりました。
山賊は焼却に限ります。
さて、と思い私は馬車の方へ振り返り「大丈夫でしたか?」と聞きました。
「あ、あぁ……。大丈夫だ」
「ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
「俺達はこの馬車の持ち主に護衛で雇われた傭兵グループだ。貴方は一体……」
そう受け答えしているとどこからか声が聞こえました。
「あ、あの~もう出ても大丈夫でしょうか? 」
声がする方を向くと荷物に紛れていた商人風の女性がこちらに向かってきます。
この人がおそらくこの方達の依頼主ですね。
私と横に骨だけになっている元山賊を見て一瞬ギョッ! としましたがどうやら状況が分かったようです。
「この度は助けていただきありがとうございます。私は行商人のマリンと申します。以後よろしくお願いします」
「これはご丁寧に。私は旅の魔法使い、クリ……クリラッサと申します。こちらこそよろしくお願いします」
危ないところです。咄嗟に本名を言ってしまいそうでした。
私達はお互いに挨拶を済ませ馬車を前に進ませます。
★
この馬車はどうやら私と同じ方向へ向かっているようですね。
「お姉様はどうして旅をしているのですか? 」
そう言うのは行商人のマリンです。私より少し背が小さいくらいの女性で青い瞳が特徴的ですね。
それにしても『お姉様』、いい響きです。
兄弟姉妹がいない私にはとても斬新です。
「私は特に目的はありませんが……しいて言うなら実力試し、でしょうか? 」
「へぇ、それならこの後は魔法王国にでも行くのか? 」
そう言うのはこの傭兵グループのリーダー、アマンダです。
私も身長は高い方ですがアマンダはそれよりも遙かに高いです。赤い髪に金色の瞳の女性です。
「えぇそうです。この道を進み国境の街を通り魔法王国へ入るつもりです」
「私も同じルートなのです! もしよかったらご一緒に行きませんか? 」
恐らく妹がいればこのような感じなのでしょう。
「構いませんよ、元より同じ方向の様ですし」
「ありがとうございます! 」
カタコトと馬車は私達を揺らしながら進みます。
「……そう言えば、物凄い威力の魔法だった。あれは本当に火炎散弾? 」
疑問を口にするのはこのパーティーの魔法使いナルです。
ちんまりとした可愛らしい姿で寡黙な雰囲気を漂わせています。興味が上回ったのでしょう、私に疑問を投げかけてきました。
「えぇそうですよ。ただ……。私は魔力が高いので単なる火炎散弾でもあのような威力になるのですが」
「……すごい……」
「あまり良い事ばかりじゃありませんよ? 昔はコントロールが下手でよく周りに被害を出していましたから」
思い返せばよくこれで死人が出なかったと思います。
魔法王国に生まれたので必然的に魔法を学びました。しかし膨大な保有魔力量を当初コントロールできずに困りました。
火属性魔法を使えば火事の危険が、水属性魔法を使えばメイド達の仕事が増え、風属性魔法を使うと何故か風刃が出来……等々初級魔法ですらこのありさまでしたのでいい思い出ばかりではないのです。
「話はここまでのようだ、国境の街が見えてきた」
この傭兵グループの斥候役マーラが指を指す方を見るとそこには小規模な街が見えました。
国境の街……特に名前はない街です。
魔法王国と騎士王国の境目にあるということで様々な物資が行きかう街。しかし同時にいざ戦争になった時に戦場になる街。
聞くところによると『戦場になる可能性』というリスクをとって儲けるか、リスクを避けて違うところで商売をするのかは商人の間で幾度となく議論されているようです。
しかし今のところ二国間の間で戦争になる雰囲気はなく比較的繁栄している街ともいえるでしょう。
そしてその向こう側には国同士を隔てるように聳え立つ巨大な灰色の城壁……。
あの向こう側が私の母国である魔法王国です。
私の死亡はまだ広がっていないでしょうが家の方は大丈夫でしょうか?
いえ、心配は無用ですね。家と領地の管理は信頼のおける子爵家の方々に任せていますし何より爺やがいます。よほどの事が無い限り大丈夫でしょう。
そう安心しながら私達は国境の街へ入るのでした。
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