第三十五話 生還の魔女
無音で移動する馬車の中、私とセシリーそしてエバンス子爵夫妻がお互いに顔を合わせていた。
「それにしてもこれでまた貴方の異名が轟いたわよ、クリスタちゃん」
「ハハハ、豪快に吹き飛ばしたな! いやぁすっきりしたわ! 」
ハリー兄さんにそう言ってもらえると嬉しいです。
エリー姉さん、それは言わない約束ですよ。
仕方ないじゃないですか、私達の中で最も派手な魔法が使えるのは私なんですから。
「いや、流石クリスタだ。私の完全空間凍結が発動しなかったら辺り一帯は爆風で吹き飛んでいただろう」
確かにそうです。
これに関してはセシリーに感謝ですね。
「貴族街であれほど大袈裟に吹き飛ばしたのです。少しは抑止力になればいいと思うのですが……」
「あれを見て犯罪をしようってやつがいるんなら、むしろそいつが勇者だ」
「確かにそうね。普通の感性を持っているならやらないでしょう」
そういえば……。
「確かルドルフ陛下がセシリーが騎士王国の王城を氷漬けにしたといっていたのですが? 」
「あぁやったな。しかし『外交官』として行っている私に切りかかるのが悪い」
確かにそうですが、何故でしょう。
それだけじゃないような気がします。
「??? ちょいまて、騎士王国の王城を氷漬け? 」
「そ、それは本当ですか? フォード卿」
ハリー兄さんとエリー姉さんが引き攣った顔をしてセシリーに聞きました。
「あぁ本当だぞ。我が国に虚偽情報を流した上に『外交官』に切りかかったのだ。やり返されても文句は言えんだろ? 」
「「「確かにそうですけど……」」」
私達がそう言っている間に王城へとたどり着きました。
★
夜とは異なり堅牢な王城に煌びやかな装飾が施され、どことなく優雅さを醸し出している魔法王国の王城。
その謁見の間の中心を四人の男女が敷き詰められた赤い絨毯の上を進んでいた。
言わずもがなクリスタとセシリー、そしてエバンス子爵夫妻である。
その堂々たる様子を見て困惑する貴族達。
それもそうだろう。
現在に至るまで生存は否定されていたのだから。
絨毯の上を歩み切れ目のところまで行き、クリスタが片膝をつき頭を垂れた。
それに習い後ろに控える三人も同様に頭を垂れる。
周囲がざわつく中、宰相グラハムが一喝し静かにさせる。
そして魔法王国国王ルドルフ三世が「面を上げよ」と言い頭を上げさせる。
正面には国王ルドルフ三世が、右側には茶色い髪に金色の瞳をした男性が、さらにその右には金髪に金色の瞳をした八歳くらいの女の子が見えます。そして左側には三十代くらいの金髪で金色の目をした女性が控えていました。
二十歳くらいの男性はこの国の第一王子ケアリック・ニコラウト、八歳くらいの女の子は第二王女のクトリシア・ニコラウト、そして三十代くらいの女性はこの国の王妃ハンナ・ニコラウト様です。
「まず、エバンス子爵。長きに渡るカウフマン公爵家の代理代行、ご苦労であった。広大なカウフマン公爵領が公爵家当主クリスタ・カウフマンがいない間、平静を保てたのもお主達の功績あっての事。大儀であった」
「「はっ!!! 勿体なきお言葉でございます」」
うむ、と頷き次はセシリーの方へ向きました。
「セシリー・フォード女子爵、騎士王国における外交官の役目をよく果たしてくれた。その功のおかげで騎士王国は文字通り凍り付いただろう」
「武をもって我が国に対する誤認を解いたまででございます」
う、うむ、とルドルフ陛下は少し納得がいかないような感じがしましたが気のせいでしょうか?
そして最後に私の方を向きました。
「そしてクリスタ・カウフマン女公爵よ。勇者パーティーへの参加ご苦労であった。当初の契約の通りその任を解くことにする。しかと休まれよ」
ルドルフは厳格な雰囲気を纏ったまま更に口を開く。
「してカウフマン卿よ、報告があるようだが? 」
「はい、ルドルフ陛下」
そう言い私は立ち上がります。
「私の死亡報告がされた後、どうやら我が領土を踏み荒らす無礼者がおりました」
「ほう、それは興味深い話だ。カウフマン公爵領は我が国にとって重要な地、もしそのような者がいるのならば即座に首を撥ねなければな」
「私も同意でございます。しかしながら陛下、ご安心を。一人を除いてすでに牢屋へ入っていますから」
フフフ、と笑うと貴族達がいる集団がざわつきます。
「なるほど、なるほど。流石カウフマン卿だ。卿は成人前よりこの国に尽くしてくれていた。勇者パーティーへ行くことで勘が鈍っていないか心配だったがその心配は無用だったようだ」
「お褒めに預かり光栄でございます。しかし……最後の一人がまだ捕まっておりません」
「……めぼしの方はついているのか? 」
ええ、と言うと合図を出し王城の文官に書類を持ってこさせました。
最初から書類を隠し持つのは流石にまずいので、一旦文官に渡し合図を出したら持ってくるように伝えていたのです。
「こちらにその者の詳細がございます故ご確認を」
クリスタの合図の元、文官はルドルフへ書類を提出する。
それを受け取り一枚一枚めくり読んだ。
「ふむ……成程。この謁見が始まる前こちらからにも連絡があった。その内容と合致する」
するとルドルフ陛下は玉座から立ち貴族の集団に目を向けました。
「ドルケン公爵、前へ」
「へ? 」
間抜けな声が聞こえたと思うと、そこに全員が目を向けます。
皆の目には初老の男性が映っていました。
「わ、私ですか?! 待ってください! 一体何が?! 」
周辺にいた貴族達は何か察したのだろう。
自分達に被害が来ないように全員がドルケン公爵から離れます。
「早く前に……」
「待ってください! 何故私が! 」
いきなり指名されてかなり混乱しているようです。
「騎士達よ、ドルケンを俺の前に連れてこい!!! 」
指示に従い謁見の間の扉の前で待機していた騎士達がドルケン公爵の元へ行き「早く来い! 」と言いながら引き摺りながらルドルフ王の前に連れていった。
その様子はまるで罪人の様でした。
まぁ本当に罪人なのですが。
「ドルケンよ、失望したぞ! 貴公、考えは違えど国を支える者と考えていた俺が恥ずかしいわ! 」
「陛下、何を言っているのか分かりません! 」
「えぇい! まだ言うか! 」
顔を赤くし、震えながら怒鳴るルドルフに恐怖しながらもドルケンは抗議する。
「公爵とはいえそこの者はしょせん小娘! 陛下はその小娘の報告とやらを信じるわけですか! 」
プチン! とういう音が三方向からした。
それと同時に「ズドォォォォォォン!!! 」と音がしてドルケンの前で爆発が起こった。
一体何が起こっているのか分からない貴族達であったが、貴族の中からセシリーの声がする。
彼女の足元を見るとドルケンの方向に向かって氷の道が作られていた。
「何故邪魔をするのです? 氷漬けにしてその汚い口を閉じてやろうとしたのですが」
その声に反応するかのように玉座の方からルドルフの声がする。
玉座からドルケンへ向かう道はピリピリっと電気が弾けていた。
「邪魔をしたわけではない、俺がしゃべれないように雷で気絶させようとしただけだ」
そしてクリスタの方からも声がした。
ドルケンの方向へ向かう道は絨毯ごと焼け焦げ、今もなお炎を纏っていた。
「あらあら、私が炎で丸焼きにして差し上げようとしたのですが」
そして彼らの魔法が交差した点、からほんの少し外れたところでドルケン公爵が気絶していた。
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