第三十二話 カウフマン公爵家 七 たった一人の合格者
「え? あれ? 貴方様は……」
フフフ、少し動揺しているようですね。
「私はカウフマン公爵家当主クリスタ・カウフマン女公爵です。今後ともよろしくお願いいたしますね、マイケル・スミスさん」
その言葉を聞いてぽかんと口を開けていたマイケルは徐々に正気を取り戻し、現実を理解する。
「え?......えええええ!!! 」
★
一通りマイケルが驚いた後、一旦落ち着き今回の件を説明することにした。
どの道雇うことにしたのだから話しても大丈夫だろう、ということだ。
一同は一旦応接室へ移動し、ソファーへ座りました。
私を中心に両脇にエバンス子爵夫妻、その背後にはエドワード、対面する形でマイケル君です。
「まず、今日の件ですが本来は予定していなかった求人なのです」
「え? あれ? でもぼ……私求人を見ましたよ? 」
あれ、どういうことでしょう?
何か貴族のつてで聞いたのかと思ったのですが。
「……失礼ですがそれはどこでみましたか? 」
「アカデミーの就活促進部の所です」
恐らくアカデミー側が新年雇用分の求人票を外し忘れたのでしょう。
「大体状況は読めました。で、今回なのですが我が公爵家に対して不穏な動きがありました。それに加え私の死亡が流れたと同時に数多くの貴族家が人員を送ってこようとしました」
「そ、それは聞きました。しかし……」
「えぇ、私はこうして生きています。よってそれを逆手に取ろうかと思い今日に至るわけです」
成程、と頷くマイケル。
そこで一つ気になったことを聞きましょう。
「最初から私の存在隠蔽を見破っていたようですが、何かの魔法でしょうか? 」
「あ、いえ違うのです」
それと同時に自分の目を指さして「私の目を見てみてください、危険とかはないので」と言います。
少しだけキラキラしてますね。
「この目、分かりにくいかもしれませんが魔眼なのです」
「ほう、そりゃ珍しい……」
そう乗り出したのはハリー兄さんです。
彼は突然のハリー兄さんが会話に入ってきたことで驚いている様子です。
「こ、これは看破の魔眼です、ハイ」
「看破、か。これならクリスタの屋敷からの脱出を見破るのに役に立ちそうだな! 」
「何を言っているのですか! ハリー兄さん。私はそう易々と捕まりません」
「脱出することを前提に話さないでください……」
マイケルはそのやりとりを緊張しつつも、どこか温かく見ていた。
何というか、印象と違う仕事場だ。
最初はどうなるかと思ったけどやっていけるかもしれない!
「そんで、この坊主はどこへ配属するんだ? 」
「そうですね……。面接は彼らを捕縛するためものだったのできちんと面接はしなかったのですが、何か得意なことはありませんか? 」
あるけど……。
「……特に……」
クリスタはその様子を見て「何かありそう」と感じ、さらに聞く。
「なんでもいいのですよ? そこのハリー兄さんは魔眼の事もあって治安部隊に入れたそうにしていますが……」
ちらっと横目でハリー兄さんを見ると、頬を掻きながらバツの悪そうな顔をしています。
「なんでもいいのですよ? 」
「……絵を描くのが……得意……です」
「絵、ですか? 」
「はい。父の勧めもありアカデミーに入りましたが、実際の手書きや魔法を駆使した……様々な方法を用いて絵を描くのが得意です」
ムムム、これはもしかすると金の卵かもしれませんね。
いいでしょう。
「分かりました。では、道具や資金はこちらで用意するので絵を描いてもらいましょう」
「いいのですか?! 」
「はい」
「でも私は使用人の面接を受けに来たはずでは……」
「えぇ、なので我が家の専属の絵師になってください」
「あ、ありがとうございます! 精一杯頑張ります! 」
こうしてカウフマン公爵家に新しい従業員が入った。
彼はカウフマン公爵家で働く中、途中カウフマン公爵領オーガスへ国内留学に行くことによりその才能を開花させるのだがそれはまた別のお話。
★
新規従業員の採用も終わりクリスタ、ハリー、エリー、エドワード達は一同会議室に集まっていた。
「さて、これからの事ですがいいでしょうか? 」
「なんでしょうか、クリスタ様」
メイドが紅茶を汲み、それが終わると退出していった。
ポットからティーカップへ注がれる紅茶からいい匂いが漂ってくる。
私の言葉に反応したのはエドワードでした。
「まず方針として、まだエバンス子爵夫妻がこの家を管理していることにします」
そう言いながらハリー兄さんとエリー姉さんを見ると「まかせてくれ」というような表情をしています。
頼もしい限りです。
「まず、彼らの親に暗殺未遂の事を連絡します」
「ふむ、それで我が家に不埒者をおびき寄せるわけですな」
流石エドワードです。
こちらの意図を瞬時に代弁してくれましたね。
「はい、その通りです。その間に私は再度ルドルフ陛下にお会いし、我が家に来た彼らの親を逮捕出来るように手配していただきます」
「「「再度??? 」」」
あ、口が滑りました。
「おい、クリスタ……。もしかして……」
「また抜け出したのですか……」
皆が頭を抱えています。
仕方がないじゃないですか、流石に生存の報告に行かないといけないでしょうし。
「はぁぁぁ、分かった。その話は後だ。で、どうする? 」
うぅぅぅ、後が怖いです。
「逮捕状を出してもらい我が家におびき寄せられた貴族家を逮捕します。しかしそれだと領地持ちの貴族の場合、領民が困ると思うので代官を出してもらうよう説得します」
その言葉を聞いてクリスタ以外は全員こう思った。
( ( (ルドルフ陛下、ご愁傷様。頑張ってください) ) )
クリスタに常に巻き込まれている身としてはルドルフの胃が心配になるところであった。
★
「と、いうことで少しばかし国内が騒がしくなると思うのでよろしくお願いします」
ここは魔法王国王城玉座の間。
深夜またもや忍び込んだクリスタの提案という名の決定事項を聞いてルドルフは頭が痛かった。
「……止めてもやるのだろう。わかった。代官を用意し、公爵家には国直属の憲兵を向ける」
「ありがとうございます」
ロドルフには彼女の顔はさぞ悪魔のように見えただろう。
「件の貴族家達の罪状の裏は勿論とれているのだろう? 」
「ええ、抜かりなく」
どこから出したのか大量の証拠となる紙を出してきた。
それをパラパラとめくり内容を確認するルドルフ。
「ふー、これは言い逃れが出来んな。ならば逮捕状も出しておこう」
「話が早くて助かります」
「後日屋敷に郵送する。確認してくれ」
クリスタは「了解しました」といい嵐のように去っていった。
「はぁぁぁ、セシリーもそうだがもう少し三雄に落ち着きはないのだろうか……」
自身も宰相を悩ませていることを自覚しないルドルフは早速逮捕状と憲兵の派遣の手続きを始めるのであった。
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