第二十九話 カウフマン公爵家 五 ジェフリー商会 二
手紙からルーカスが言わんとしていることを察した私はエドワードに野菜も持ってくるように伝える。
エドワードが外に出た後、代わりにハリー兄さんが入ってきました。
「おう、お前さんが塩を運んでくれた商人ってか? 」
「は、はぃ! 」
ハリー兄さん、何威圧しているのですか……。
品定めするにしてもやり方という物があるでしょう。
「ふむ……。まぁいいんじゃねぇか? 『他の商人』よりかは信用できそうだ! 」
ミルチは何を言っているのか分からないような雰囲気ですね。
まぁ彼を通してジェフリー商会という物全体を見たかったのでしょう。
「話は変わりますが、最近カウフマン公爵領内での商人達はどうしていますか? 」
ハリー兄さんが威圧して委縮させたので話を変えましょう。
「はぃ、一部を除き行商人は撤退していますぅ。領内に支店を持つ店も撤退をしている所もありますが、古くからあるような店はそのままです」
成程、大体思い描いた通りですね。
あとは他の貴族家の手の者を表に出して違法な事をしていたら叩くのみですね。
そう考えていると扉が開きエドワードが入ってきました。
そこから磨かれた大きなカボチャが運ばれてきます。
「お待たせしました、クリスタ様」
そう言いつつエドワードは両手に持ったその大きなカボチャを机の上におきます。
「おい、でけぇな……」
「……ハリー様、少し場を考えていただけると嬉しいのですが……」
「細かいことはいいじゃねぇか。それにしても……鑑定が必要か? 」
「そうですね、私も出来なくはないのですが詳細となると、より上位の鑑定が必要ですね」
「ならエリーを呼んで来よう。後は料理長だな……」
料理長もですか?
「あぁ、エリーは詳細を呼び出すことが出来ても野菜の専門家じゃねぇ。なら、我が屋敷の専門家にその情報を見てもらうのが筋ってもんだろ? 」
確かにそうですね。
出された情報の意味が分からなければ意味はありませんし。
「ではお願いします」
おう、ちょっと待ってな、といいハリー兄さんはエリー姉さんと料理長を呼びに行きました。
部屋を出ていく様子を見ているとミルチが聞いてきます。
「あ、あの……私は席を外したほうがいいのでしょうか? 」
エドワードと顔を合わせ少し考えます。
通常このような家の情報に関するやりとりの時に外部の者を入れることなどありません。
しかし今回の目的は違法性の疑われる商人の炙り出しと商人に扮した貴族家の手の者の排除。
「同席していただいてもいいですよ。結果次第ではジェフリー商会に影響が及ぶかもしれませんしね……」
鑑定結果など少しジェフリー商会に恩を売る形になりますが、今回はあえて同席してもらいましょう。
一般水準を遙かに下回る粗悪品の場合、ジェフリー商会が取引農家と取引をしなくなるという可能性もでてくるので。
少し時が経つとハリー兄さんが扉から入ってきました。
「クリスタ、エリーと料理長を連れてきたぞ」
「お客様の前でそんな粗暴な言葉使いを! 申し訳ありません」
お叱りの言葉がしたと思えばスパン! と綺麗な頭を叩く音がしました。
「いてぇな」と呟きながらもどこか楽しんでいるようなハリー兄さんに少し呆れ顔をしながらも、私の方を向き「申し訳ありません、女公爵閣下。夫は後程教育しておきますのでどうかご容赦を」と言いました。
「了解しました。教育の方は任せます」
お客人であるミルチがいる手前どうしても形式上のやり取りが必要なのは仕方ありませんね。
だからハリー兄さん、その絶望的な顔をこちらに見せないでください。
形式上の言葉なので……もしかしていつも折檻を受けているのでしょうか?
なにやら不穏な気もしますが夫婦の間に割ってはいる程私も無粋ではありません。
ハリー兄さんを見捨てるわけではありません。
決して……。
「さて、このカボチャでしょうか? 」
「えぇ、これを鑑定して欲しいのですが」
「分かりました、では鑑定結果を書き出しますので後はよろしくお願いしますよ、料理長」
「は、はい! 」
先ほどのやり取りで「下手な言葉使いが出来ない」と思ったのでしょうか?
料理長が緊張していますね。
「では失礼して、詳細鑑定」
カボチャの上に手をかざして魔法を唱えるとカボチャを中心に黄色い魔法陣がかかります。
鑑定魔法『鑑定』……。
これは簡単な情報を引き出すものから詳細な情報を引き出すものまでいくつかあります。
商人の中でも裕福で人材に富む商会ならば鑑定を使える者を雇っているところもあるとか。
しかしエリー姉さんのように詳細鑑定を使える者は魔法王国広しといえど数えれるほどしかいません。
それに加えこの魔法の難しさに拍車をかけているのが引き出す情報の取り扱いです。
通常、魔法使いは魔法に特化している者が多いです。
エリー姉さんもその一人でしょう。
今回のようにその手の専門家がいないとせっかく引き出した情報を扱いきれない、ということが多発するのであまり習得しようとする者が少ないのも使い手の減少を引き起こしている一因でしょう。
黄色く輝く魔法陣から文字が浮かび上がります。
それはエリー姉さんが手に持つ魔法紙に吸い込まれるように付与されていき情報として形成されていきました。
一通り魔法陣から文字がでるのが治まったら今度は料理長がそれを読み始めました。
ジェフリー商会のミルチが驚きすぎて石のように固まっていますね。
それもそうでしょう。
幾ら大商会のジェフリー商会といえど詳細鑑定を使える者がいないと思いますし、何より魔法陣から文字が出てくるという現象を見るのは初めてでしょうね。
これは詳細鑑定の特徴の一つなのですから。
勿論他の鑑定ではこのようなことは起こりません。
「なんだ、こりゃ? 」
突然驚いた声を上げたのは料理長でした。
ミルチがいるのも忘れていつもの口調に戻っていますね。
「どうしたのですか? 料理長? 」
「どうしたもこうしたもねぇです。栄養価なんてあったもんじゃねぇですよ、このカボチャ」
憤慨したように魔法紙を見ながら話します。
「これはカボチャじゃねぇ! カボチャの皮を被った大きな何かだ!!! 」
そこまでですか。
「これを食べ続けるとおそらく栄養失調になりますぜ。おい、そこの商人! 」
「はぃぃぃ! 」
「わりぃことはいわねぇ! 仕入れるのをやめな。その内あらぬ罪を着させられて牢獄行きになるぞ」
「りょ、了解です! 会長にも伝えます! 」
こうして一通り塩や試供品のような魔道具と野菜を置いて行きミルチは帰って行きました。
★
ミルチがいなくなった後のカウフマン公爵邸会議室にて
「さて、これらなのですが……」
そう言い机の上に置いてある壊れた魔道具と巨大なカボチャを見渡します。
「これは意図して流通させた・させようとした物でしょうか? 」
エリー姉さんの方を見て意見を促す。
「そうね……。魔道具の方はラムリー伯爵が割って出てきたということだから恐らく意図して流通させようとしたのでしょう」
ではカボチャはどうでしょうか?
「正直分からねぇな……。国内の作物生産量は特に問題はねぇ。カボチャにしろ他の野菜にしろ飢饉が起こっているわけじゃねぇ。これが飢饉だったらまだわかるんだが……」
「そうだな、話を聞く限り作物を強制的に成長させているようだ。それで土地がやせ細り栄養価が極端に減少したんだろう。だが引っかかるな……そこまでして作物を売りさばいてどうするつもりだ? 」
ハリー兄さんの言葉に私なりの考えを言ってみます。
「カウフマン公爵領オルトのシェアを奪いたかったのか……。もしくは何かしらの理由でお金が必要だったのか……」
「ちまちま野菜を売ったところでそんなに金は動かんぞ? 」
「本来ならもう少しかけて回収するつもりだったのでは? ラムリー伯領から仕入れた、ということはラムリー伯爵領で何か起こっているのでは? もしくはカウフマン公爵領で騒ぎを起こしたかったとか……」
あれこれ考えますが決定打になる答えは出てきません。
仕方ありません。根本的な解決にはなりませんが対策を講じることにしましょう!
「何にしろ領内に注意喚起をしましょう。同様の不審な作物を見かけ次第治安部隊に連絡していただきましょう。エドワード、情報公開の準備を」
「はっ!!! 」
少しですが領内を荒そうとしている者達の全容が見えてきました。
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