第二話 旅路
「よっと、着きましたね」
青い光に囲まれながら辺りを見渡すと緑豊かな森林に包まれていました。
ダンジョンの入り口の様ですね。入った時と変わりありません。しかし……。
ゴゴゴゴ、という音ともに私の後ろにあるダンジョンは入り口が消えてしまいました。
毎度おなじみの光景ですが不思議です。
何故最後のモンスターを倒すとダンジョンが最初からなかったかのように構造が変化するのでしょう?
ムムム、これは世界七不思議に数えてもいいと思います。
領地へ帰ったら調べてみるのもいいかもですね。
「さて、これからどうしましょうか……」
ここは騎士王国辺境の地。
少し走れば魔法王国へ帰れます。
「確かこの道を真っ直ぐ行くと街へ、東へ行くと魔法王国へ続いていましたね……」
その間に幾つか街や村があったはずです。
これからの事考えている中、ふと勇者パーティーへの参加要請を受けた時の様子を思い出しました。
「……陛下が土下座で「頼む! 勇者パーティーに加わってくれ! でないと我が国の面子が!」と言っていた時、何か怪しそうでしたし……」
陛下のあの焦りよう……いえ、いつもの感じではあるのですが何故私を指名したのでしょうか?
普通なら実績が欲しい他の貴族に向かわせたら良いものを何故? むしろ他の貴族が全員首を振らなかったのでしょうか? 小娘とはいえ仮にも公爵家当主を魔王討伐に向かわせたのです。派閥争いの一端でしょうが……。
「ゆっくりと帰りましょう。その間に私の死亡の話が流れるでしょう」
その間に何か企んでいる貴族が表に出れば儲けものです。
しかしこの姿のままだと私が生きていることを宣伝しているようなものです。染めるにも染料がありませんし……。
「仕方ありません、幻影」
するとクリスタの髪の色が金色から銀色へ、瞳の色が金色から青い色へと変貌した。
「これで大丈夫でしょう! 」
しかし体の方はどうにもなりませんね。
もしも誰かと触れた時に違和感を感じられたらいけませんし……。もう少し大きくしたかったのですが……。いえ、年相応です! まだまだいけます!
そう思いダンジョン跡を東に向かうことにしました。
クリスタが少し歩くと街道へ出た。
あら? 街道はこんなに近かったのですね。もしかしたら別ルートでダンジョンに向かった方がお金を抑えられたのかもしれません。イーサムのわがままのせいで来た時は馬車でしたし。
まぁすでに私の手から離れているので関係はありませんが。
そう言えば私を追い出してくれたのはこちらとしてもありがたいのですが、彼らはこれからどうするのでしょう? お金の管理は……イーサムとベラには無理でしょうね。すぐに女やお酒、ギャンブルに使いますから。
そうなるとカミラでしょうか。彼女ならできそうな気がしますが、イーサムに甘々ですから……どうなるのでしょうか?
私が抜けたことでかなりバランスが悪くなりましたが今後どうするのでしょう? 新しい魔法使いでも呼ぶのでしょうか? 彼らの素行の悪さは知れ渡っているので入る人はあまりいないと思うのですが……。
考え事をしていると前方に馬車が見えました。
あら? 何かに襲われていますね。
★
魔法王国王城会議室
「な、なんだと!? 宰相! もう一回言ってみろ! 」
「は、はい。分かりました! 分かりましたので体を揺さぶらないでください! 」
周りに王国の重鎮がいる中、人目もはばからず宰相の体を揺さぶるのはこの国の王であるルドルフ三世であった。
「す、すまぬ……」
「では改めましてご報告します。勇者パーティーに参加していたクリスタ・カウフマン女公爵がダンジョンにて死亡したとの報告が教会よりなされました」
「そんなバカな! 『爆炎』だぞ?! あの『爆炎の魔女』だぞ?! 彼女がやられた? ありえない!まだ暗殺されたと言われた方が現実的だぞ? 」
有り得ない……とブツブツと呟くルドルフ。それほどまでに彼女の死亡は受け止められなかった。
魔法王国は近隣諸国でも珍しい実力主義の国。実力さえあれば平民でも貴族にもなれるのがこの国である。
そのような中、身分・才能双方ともに生まれ持ったのがクリスタである。
勿論国王自身も実力者でなければならない。彼は数多いる貴族の頂点で実力も勿論トップクラスである。しかしそのルドルフでさえ勝てなかった相手がクリスタである。自分が勝てない相手が死亡したことが余程非現実的なのであろう。
空を眺めるような目をした後に現実に戻り宰相へ問いただす。
「……どのようなモンスターにやられた? 」
「教会からは『ダンジョンで死亡した』とのことのみでございます」
それはおかしい、と思い更に聞く。
「カウフマン女公爵が負けるほどの相手だ……。余程強力な相手なのだろう。現在騎士王国の動きは? 」
「特に動いておりません」
「虚偽情報……というのが最も分かりやすい線だが……。どうしたものか……」
未だにどこか『虚偽情報では?』と考えるルドルフであるが頭を切り替え対策を練る。
もしカウフマン女公爵が負けた事が真実ならばモンスターがダンジョンの外へ出た時にそれ以上の戦力を集めなければならない。そうなると兵や物資、薬に道具等々様々な物が必要となってくる。
しかしこの情報が虚偽であった場合、集めた物資や兵が無駄になってしまう。兵が足りない貴族領だと農民から徴兵する者も出てくるだろう。それらが全て無駄になってしまう。
さて……。と考えていると大臣の一人が声を上げる。
「陛下、近々の問題としてカウフマン公爵領を如何いたしましょうか? 」
う、うむ……。と『困った』と思いながらその質問に答える。
「現在カウフマン女公爵の親族が代行をしているはず。そのままでよいと思うが? 」
「しかしその者は子爵家の者……到底広大な公爵領をこのまま治めることができるとは思いませぬが? 」
困った……。
この国は主に三つの派閥が存在している。
実力を重んじる『実力主義』の派閥と家柄を重んじる『血統主義』の派閥、そして『中立』派閥である。
現在三つの派閥の間で大きな争いはない。これは実力で成り上がった新興貴族である実力主義派閥の者が血統主義派閥の者や領地を助けることがあるからだ。
実力主義派閥の者はその『力』で、血統主義派閥の者はその『知識』でお互いを補完し合っている。
この大臣は血統主義の者で恐らくカウフマン公爵領を、もしくはその一部を狙っているのだろう。
このゲスが! と心の中で蔑みながらも「一旦保留とする」としておさめる。
先が見えない中「強大なモンスター進行に備えて最小限の準備を進めながらカウフマン女公爵の安否を再確認する」ということで議会は閉じた。
安否の再確認をすると決議したものの心のどこかで「カウフマン女公爵は生きている」と確信めいたものを持っているルドルフ三世であった。