勇者パーティーサイド 一 教会への報告
俺達はダンジョンを出た後この国——騎士王国の教会へ来ていた。
「して勇者イーサムよ、今日はどういったご用件かな? 」
「はい、実は報告したいことがございます……」
流石の俺もこの教会の連中には頭が上がらねぇ。
こいつらがいねぇと俺は『勇者支援金』がもらえねぇからな……。
「ん? 見ると一人メンバーが足りないような気がするのだが……今日はお休みかな? 」
「実はそのことについて、でございます。パーティーメンバーのクリスタは……我々を庇って死亡いたしました……」
「な、なんだと?! 」
っち! 何をそんなに驚いてやがる。
「彼女の死亡は我々の不徳の成すところ、これからより一層の精進をしたく……」
「な……なんということだ……」
おい、こっちの話を聞いてねぇのかよ……。
対応していた神官はイーサムの言葉を聞いて倒れそうになっていた。「し、司教様! お気を確かに!」と言われながらも倒れ込む男を周りの修道士が支え何とか気丈に立つ。
それを勇者パーティーの面々が不思議そうに見ていると気を取り戻して司教と呼ばれた男が口を開く。
「……その話は本当なのだな? 勇者イーサムよ……」
司教は震える声で再確認してくる。
何をそんなに怯えてやがる? たかが魔法使い一人死んだくらいじゃねぇか……。
それにダンジョンの奥に置いてきたんだ。生きてこれるはずがねぇ。
「はい、本当でございます」
「……そうか……。今後の事もあるが……一先ず休まれよ、そなた達も仲間の死を受け止めるのに時間がいるだろう」
「お心遣い感謝いたします」
あいつの驚きようが気になるが、まぁいいだろう。
悲痛そうな顔をしながらも心の中ではにやにやしながらイーサム達は教会を出るのであった。
イーサムがいなくなった教会では報告を受けた司教を初め教会内にいる修道士達が総出で集まり話し合っていた。
「カトル司教……。ど、どうしましょう」
そう言うのはまだ若い修道士であった。
「事実を……伝えるしかないだろう……」
その言葉にもう一人の修道士が提案する。
「一層の事公表しない、というのは如何でしょうか? 」
「馬鹿者! そのようなことをして魔法王国にもしバレたらどうする! 過去にあの国の逆鱗に触れた国がどうなったか知らないのか! 」
その言葉を聞いて全員が顔を青くする。
過去に魔法王国の逆鱗に触れ滅ぼされた国はいくらでもある。それに反して騎士王国はお世辞にも強国とはいいがたい。戦争になればどうなるかは一目瞭然である。
加えて教会は独立した組織であると言ってもこの教会は騎士王国に配置されている。
もし魔法王国と騎士王国が戦争にでもなれば自分達も被害にあうかもしれない。
尚悪いのは騎士王国出身のイーサムが魔法王国の貴族であるクリスタを見殺しにしている、というところである。勇者なのだから死んでも守るくらいの行動に出なければならない。
事実、神より与えられた彼の力を使えば死ぬくらいどうにでもなるのだが、幸いにもそれを知っているのは司教以上の教会関係者と勇者のみである。
「至急教皇様へ連絡をとり……。そして魔法王国へ伝達を行おう……」
こうしてイーサムの知らない所で事態は動き出していた。
★
「ハハハ、あのクソ女がいなくなって精々するぜ! 」
酒場の賑やかな雰囲気の中、イーサム達は顔を赤くし酒を片手にクリスタがいなくなったことを喜んでいた。
「全くだね、これで金に煩いやつがいなくなる。預金を見てみたらかなりあるじゃないか! 何が金がないだよ。嘘をつきやがって! 」
酒瓶でエールを飲みながら愚痴を言うのは褐色肌に金髪ショートの軽装の女性——ベラであった。
「で、でも流石に補助役がいないのは不便だと思うのですが……」
そうおずおず進言するのは金髪ロングの女性カミラである。
「ああ! 一人分の分け前が増えたんだ! 魔法使いを雇って分け前が減ったらどうするんだ?! 」
「し、しかし命あってのものだと思うのですが……」
「まぁカミラの心配もわかる。だが俺達は勇者パーティーだ。魔法使いがいないだけでどうにかなるメンバーじゃねぇよ! 」
自信満々に言うイーサムに不安げなカミラ、それを苦々しく見ながら横に座っていたベラはイーサムに近付き腕を組み甘い声でお願いごとをする。
「ねぇ、イーサム。私すこーしばかしお金が欲しいんだけど……」
そう言いながら更に体を寄せる。
「あの女がかなり貯め込んでいたみたいでさぁ、ちょっと軍資金が欲しいんだけど、ね? 」
クリスタが貯めていた金額を耳元で囁き、その金額にイーサムは驚いた顔で了解を出す。
「あいつそんなに貯め込んでいたのか? なら大丈夫だろう! 」
ベラは体が密着させた状態でお願い事を伝え終わると離れる。
「おいおい、これだけか? 」とイーサムが抗議すると「お楽しみは今晩よ」とだけ伝え元の位置へと戻る。
その様子を一瞬深淵からのぞき込むような瞳で見ていたカミラは二人が離れると何事もなかったかのように二人を見て話を戻した。
「や、やはり補助役は必要だと思うのですが……」
自分の実力を疑われて腹が立ったのだろう。しかしカミラが言うことも一理ある。命あっての物だ。
よって妥協案を少し声を荒げてカミラに言う。
「分かった、分かった。ならこうしよう。次ダンジョン攻略が出来なかったら誰か雇うってのはどうだ? 」
「イーサム……。それじゃぁ分け前が減っちまうじゃないか……」
「だから次、攻略できなかった時だ。まぁそんなことなんてありゃしないだがよ! 」
自信満々にそう告げイーサムは荒々しく宿へと向かった。
「ったく、あの女がいなくなって本当に精々するぜ……」
そう言いながら夜の街を歩く。
「あの女がいると俺が何もできねぇみたいじゃねぇか!!! 」
ドゴン! と横にあった樽を蹴り上げ苛立ちをあらわにする。
以前にあまりにもイーサムが情けなかったためクリスタが迫りくるモンスター達に無双したことがあった。
それが未だに脳裏に焼き付いているのだろう。
「くそっ! まだ俺に纏わりつくのかよ! 」
はぁはぁはぁ、と息を切らしながら暴れるイーサム。
そこに三人程の酔っ払いがやってきた。
「おいおい兄ぃちゃん、何やってんだ、ハハハ」
「こんなところでよぉ、油売ってると悪い奴らにひん剥かれるぞ? 」
「そうそう、俺達みたいなのにさ!」
「「「ハハハ!!! 」」」
「おい、てめぇらにも……そんなに俺が弱く見えるのかよ……」
その笑い声を聞いて苛立ちが頂点に来たのかイーサムは男達に近寄り、殴る。
ぐぉ! という声と共に吹き飛び体を引き攣らせながら動かなくなる。
未だに痙攣している仲間を見て他の二人はイーサムが普通ではないと感じ即座に逃げようとする。
しかしイーサムは逃げまとう彼らを追い一人また一人と血の海に沈めていった。
「俺は強い……そうだ、俺は強いんだ!!! 」
ハハハ!!! と満月の下で叫ぶその姿はまるでおとぎ話の中の狼男の様であった。
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