第十五話 アローズ子爵領 三 鉱山に巣くうモンスター 一
私とセシリー、そして随行人のミラとマッスルそしてドッペルの五人は領主の屋敷の前へ来ています。
領主の屋敷は宿がある所から近くにありました。
これは緊急時に早急に鉱山へ向かうことが出来るように配慮した形の様です。
屋敷は他の貴族の屋敷と比べて武骨な感じですね。
飾り気のない屋敷、と言えばいいのでしょうか。大きさもそこまで大きくなく二階程で門番が二人ほどいます。
「私はセシリー・フォード女子爵、アローズ子爵に用があってきた! 通してもらおう! 」
そう言うも門番の屈強な男性達は首を傾げ疑うような目線でこちらを見てきます。
「……確かに高価そうな服装だが貴族と偽るのは重罪だぞ? 今日の所は見逃すからさっさと帰れ! 」
少し口調は荒いですが、お優しい方なのですね。
普通なら取り押さえられます。
「いいからさっさと呼べ! 」
そう言うと少しばかし彼女から冷気が漏れています。
感情的になると無意識に冷気を放つ癖は治っていませんね。
「もしあんたが本当にセシリー・フォード女子爵としても今日、面会の予定は聞いていない。会いたいなら後から来るんだな」
「そうか……。鉱山の事で困っていると思ってきたのだがどうやら無駄足だったらしい。皆、帰るぞ! 」
そう踵を返し帰ろうとすると屋敷の上の方から「待ってください!」と声が聞こえてきました。
その声に反応し私達が足を止めると屋敷の扉から一人の大男――マウト・アローズ子爵が中から出てきました。
★
私達は今、屋敷の中へ通され応接室にいます。
セシリーとアローズ子爵が対面する形で座り私と騎士三人は立った状態で待機しているのですが、セシリーはそのことに終始不満そうでした。
しかし取り繕いながらも座っています。
そのセシリーの様子を見てアローズ子爵が門番に問題があったように勘違いをしたのか門番を叱責していました。
しかしセシリーがそれを「門番としての役割を果たしためだ」と窘めたため彼らは解放されました。
それでもセシリーの機嫌が治る気配がなくアローズ子爵の褐色の額に冷や汗が流れています。
何故同じ子爵なのにこれほどまでにアローズ子爵が慌てるのか。
答えは簡単です。
国家戦力と一領主では相手にならないからです。
今の状況がまるで両派閥の力の差を示しているようです。
まぁその中間にいるのが私なのですが。
短く茶色い髪を整えながらもアローズ子爵が沈黙を破りました。
「今日はいかがされましたか? 」
「おや、話を聞いていたのではないのか? 」
アローズ子爵としてはジャブをかましただけの様ですがカウンターを喰らいました。
「うぐぅ! 確認の意味もあったのですが……。鉱山について、でよろしかったですか? 」
「うむ、その通りだ」
私を含め他三人を見つめ更に汗を流しています。
「モンスターに鉱山を占領されたのはつい最近……。すでに陛下の耳に入っているのでしょうか? 」
「いや、私達が来たのは偶然だ」
そう言い冷気ですっかり冷えてしまった紅茶を飲み続けます。
「我々が遠征で向かう途中に貴君の領地に寄ったのだが、街に活気がない様子。そこで原因を聞いたところ鉱山がモンスターに占領されてしまったと聞いたのでこうして出向いた訳だ」
左様ですか、という彼の顔には「余計なことを」と書いていました。
血統主義寄りの彼には実力主義の彼女が介入するのはあまり気持ちの良いものではないのでしょう。
しかしこうして屋敷にいれ鉱山の話をするということは打つ手がない、ということを示しているようなものです。
「我々としては早急に対処し次の仕事へ向かいたいのだが……鉱山への入山許可を頂いてもいいかな? 」
そう言うと苦みを潰したような顔で鈴を鳴らし執事を呼びました。
そして入山許可書を持ってこさせサインをしそれを人数分渡します。
「後、案内人も出しましょう。屋敷を出る時にご一緒出来るようにいたします」
「ご厚意、感謝する」
人手を出すほどに困っているのでしょう。
「……可能ならば鉱山を壊さないでいただけたら嬉しいのですが……」
そう言いながら私達の方を見ます。
私はともかく他三人の実力も知っているのでしょう。
「善処する」
そう言い残し私達は鉱山へ向かいました。
★
鉱山へ行くと事前に連絡が来ていたのか一人の案内人の男性が待っていました。
「は、初めまして。私はこの鉱山を案内するよう承りましたガトーと申します。よ、よろしくお願いします」
そう今にも土下座をしそうな雰囲気で頭を下げてきました。
「そうかしこまらなくてもいい、私はセシリーだ。そして後ろにいるのがミラ、マッスル、ドッペル、そしてクリラッサだ。案内をよろしく頼む」
し、承知いたしました、と答えるガトーについて行き私達は鉱山の中へ入っていきます。
鉱山の中は一定の距離で置かれているランプがあるくらいで薄暗くじめじめとしています。
セシリーが得意とする細剣は今日はアイテムバックの中でお預けです。
鉱山の中では使いにくいので。
その代わりに今日彼女が持っているのは少し青い魔杖です。
剣士としても超一流なのですが魔法使いとしても一流です。
ガトーを先頭に進みますが少しした所でミラが「足を止めて、何か来る」と呟きます。
その言葉と同時に全員が臨戦態勢を取りました。
その隙に事前に打ち合わせをしていた通りにガトーは守られるような形で私達の後ろへ周り込みます。
パタパタパタ、と奥の方から何か羽ばたく音がしてきました。
「……血吸い蝙蝠の群れ……」
どうやらミラの鑑定に引っかかったようですね。
「この程度なら「全員耳をふさいでくだせぇ」……」
その言葉と同時に全員が耳をふさぎます。
先んじて血吸い蝙蝠を討伐しようとしたセシリーは少し遅れましたが。
耳をふさいだのを確認してマッスルが両手を大きく開いて「パン!!!」と叩き大きな音を出しました。
その音が反響し血吸い蝙蝠がいる奥まで響き渡ります。
ミラが血吸い蝙蝠の全滅を確認した後に私達にもう耳を開けても大丈夫だと手で合図をします。
「……私が倒そうと思ったのだが……」
その声の温度の低さに顔を引き攣らせながらもマッスルが「勘弁してください」と答えます。
「この程度の相手、無駄に魔力を消費する必要はないでしょう……」
「わかってるが……」
不完全燃焼気味なセシリーを横目に私達は案内人に尋ねました。
「鉱山に巣くっているモンスターはまさかこの程度じゃないだろうな? 」、と。




