第一話 追放と爆炎の魔女
「任せろ!」
「あ、ちょっと待ちなさい! このバカ勇者!」
私がそう言う間もなく勇者イーサムが魔鬼に切りつけるために走り出してしまいました。
「あ~もう! 硬化! 筋力増強! 行動遅延! 」
様々な魔法を使い黒髪の勇者イーサムを強化し相手を弱体化させました。
魔鬼とはいえ今のイーサムにはまだ早い相手……。実力が伴っていないのに何故真っ先に攻撃しようとするのでしょう?
あら、そう考えている間にイーサムが魔鬼を切り刻みました。
「ふぅ今日も俺様の活躍で窮地を乗り越えたぜ! 」
魔鬼程度が窮地? そのような考えでよく魔王討伐に行くことになりましたね。
「アハハ、流石だね~」
「流石はイーサム様です! 」
そう言うのは斥候役で私より背の低いベラと神殿から派遣された小柄なわりに大きなものを持っているカミラです。
いつもの事ですがこの人達は戦闘に参加せずなにを言っているのでしょう?
「それはともかく……。クリスタ、これはどういうことだ? 何故魔法王国出身の君が討伐に参加しない? 」
いえ、していましたよ? 貴方のサポートを。
しかも貴方、私が倒してしまうとすぐに機嫌が悪くなるでしょう?
「魔法王国の出だからって期待していたのに何の役に立たないじゃないか……」
はぁ~と彼は溜息をつきこちらを見てきます。
溜息をつきたいのはこちらです。何故攻撃役の私が補助役をしないといけないのですか。
そう考えているとイーサムがキリッ! とした目をしてこちらを向きます。
嫌な予感しかしません。
「クリスタ! 君をここで追放する! 君とはここでおさらばだ! 」
はい? と思わず聞き返してしまいました。
指をこちらに差しビシッ! と決める彼の周りにベラとカミラが近寄っていますね。
「君の事は教会へ死亡と報告するよ」
そう言いながら懐から一つの道具が見えます。
あれは……! 帰還の魔道具!
「じゃぁな! 魔法王国の魔法使いさん! 帰還! 」
そう言い彼らはこの場所――ダンジョンから出ていきました。私を置いて。
★
彼らが帰還で地上に戻っている間に私は懐にしまっていた『記憶の宝珠』を取り出しその動きを止めました。
「ふぅやはりこうなりましたか。仕方ないとはいえ最低限の陛下へとのお約束は果たせました。それに証拠も十分ですし、大丈夫でしょう」
独り言を言っていると後ろからズドン、ズドンという音が聞こえてきます。
「また魔鬼でしょうか? 」
そう言い暗視を発動させ相手を確認します。
「魔鬼……ではなく赤魔鬼ですね。街からすれば大きな違いなのかもしれませんが……」
そう言い魔杖を相手に向け魔力を込める。
「私にはあまり変わりませんね。獄炎」
Gyaaaaaa! という悲鳴が聞こえますが放っていると街に被害が出るので仕方ありません。
しかしどうしましょうか? ここはダンジョン地下二十階層……。
普通なら登るのでしょうが、降りてダンジョンを攻略した方が早いような気もします。
おや、獄炎が消えたようですね。
赤魔鬼の体も骨も残らずなくなっています。
「二十階層で赤魔鬼……。それならばあまりこのダンジョンは難易度が高くなさそうですね」
魔法使いのローブを翻し私はダンジョンを攻略するために降ります。
その後、私はモンスター達を真っ黒こげにしながら階層を進ませました。
確か……私がアカデミーに通っていた時は『爆炎の魔女』とか呼んでいる者もいましたね。
呼んでいた者は違う意味で家が炎上して取り壊しになったようですが、私のあずかり知らないところです。
周りを焦がしながらどんどんと先へと進む。
それにしてもイーサムは本当に勇者なのでしょうか? 彼の力は一般の騎士と大差ありませんし、むしろまともな状況判断ができる点を考えると騎士の方が強いと思うのですが……。
爆音をまき散らしながらそれでも進む。
神殿からの発表がなければ勇者とは思えませんね。
それにしてもあの女達も鬱陶しかったですね。
斥候役のベラはいつもお金ばっかり使ってメンバーの財政を圧迫しましたし、神官のカミラはイーサムにべた惚れなのが見え見えです。
イーサムもイーサムです。
女好きが過ぎます。
世界に一人しかいない勇者を支援するための『勇者支援金』。それを旅や自分の強化に使うのではなく女遊びやお酒に使うなんて……。
まぁこれで陛下の取り巻きも言い逃れが出来ないでしょう。
「ここが最後でしょうか……」
いくら難易度が低いとはいえここはダンジョン。あまり進むのは気乗りしないのですが……。
そう思いながらも奥へ行くと巨大な扉が目の前に見えてきました。
まぁ進むしかないのですが……。
行きましょうか。
扉を開くために火球を扉にぶつけ衝撃を与えます。斥候がいない状態で扉を手で触るなんて愚の骨頂。罠が張ってあるかもしれません。
パン! と何かが弾けた音がした後にギギギと音を立てながら扉が開きました。
やはり罠が張ってありました。地雷系統の罠でしょうか? 弾けたところが大きく陥没しています。これだからダンジョンは気が抜けません。
では中へ入りましょう。
中は少し光が灯っておりその奥にはこちらを見下ろす形で一体の巨大な生物が見えます。
凶悪そうな顔に大きな牙、巨大な翼に強靭な爪、そして何より多くの赤い頑丈な鱗を体に纏った生物……。
「あら、竜さんですね」
「……我を見て怖気づかないとは、度胸だけはほめ「岩石散弾! 」」
あら、流石竜ですね。
これだけでは潰れないようです。ならば次の一手です。
「ぐぉ! い、いきなり何を「獄炎! 」」
「あ、熱い! せめて口上くら「煩いですね。氷結領域! 」
竜さんは怒っているようですが自分の体を見た方がいいと思いますよ?
「えぇぇい! 小娘が調子にのりやが……て……」
ピシピシピシ……。
「あ、あの~ちょっと待っていただけませんでしょうか?」
ピシ!
「お断りです! 」
パリン!
「超重力物資! 」
その魔法と共に鱗が弾けた竜の巨体は見る見るうちに潰れ跡形もなく消え去りました。
「ふぅこれで終わりですね。こういった光景に慣れるのもどうしたものかと思いますが……。一先ず外へ出るとしましょう」
クリスタ・カウフマンこと魔法王国『カウフマン女公爵』は目の前に現れた青白く光る転移ポータルの所まで行きダンジョンの外へと出るのであった。