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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
98/100

98『ヤバイ!』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


98『ヤバイ!』小菊  





 九州と山口県が梅雨入りした。


 東京の梅雨入りは四五日は先だろうに、神楽坂のあたしは一足早く梅雨入りだ。


 なんたって腐れ童貞と兄妹だと言うことが学校中に知れ渡ってしまったんだから!




 マッジがお弁当を持ってきた。




 学食のトラブルをいち早く知って、お弁当を用意して届けてくるのはアッパレよ。


 四時間目を十分だけカットして買いに行けと言う学校も無茶だわよ。


 だからってメイド服でやってくる!? 


 校舎のどこからでも丸見えの大蘇鉄の前で待ってる!?


「いいか、マッジさんは格安で下宿する代わりにメイドの仕事をしてくれているんだ。大蘇鉄の前に居たのは、玄関が掃除中で、教頭先生が『蘇鉄の下なら陽が当たりませんよ』と言ったから、マッジさんは悪くない! 兄妹だってことが大っぴらになるけど、バレるのは時間の問題だっただろうが、な、お前も分かれよ、な、分かるだろ?」

 

 腐れ童貞は、小学生に言うみたいにウダウダ説明。でも、説明されても気持ちは収まらないよ!


「うすうす分かっていたけど、二人がホントに兄妹だったなんて、とってもアメージングじゃない!」


 増田さんが手放しで、いつもの彼女では考えられないくらいクリアーに叫ぶ。


 お蔭で「同居してるイトコなの!」という最後の設定も言えなくなってしまった。


 おまけに金髪美人のメイドまで居るというので、あたしの家そのものへの関心まで高まって来た。




「どういうつもりよ、あんたたち!?」




 学校帰りの交差点、急ぎ足も虚しく赤信号にひっかかって、とうとう叫んでしまった。


 電柱や自販機の見え隠れに十人ほどの生徒が付けてきているのだ。


 …………………………。


 あたしの叫び声に応える者はいない。追跡を諦める者もいない。


 青信号までは間があるけど、エイヤ! 車の間隙を縫って横断歩道を駆ける。


 角を曲がってコンビニの前で立ち止まる。いきなり走ったのでわき腹が痛い、ジュースでも買おうかと店内に目を向けると、ここにもうちの生徒たち。

 

 ヤバイ!


 再び駆け出す。


 ここらへんは、子どものころからの遊び場、でもって神楽坂というのは通り一本中に入るとラビリンス。


 三回角を曲がった路地で息をつく。


 ハーハー


 すると、パート帰りのお母さんが通りを歩いているのが見える。


「お、お母さ~ん!」


 こんなにお母さんを懐かしく感じたのは保育所以来だ。


「あ、どうしたの小菊!?」


 いきなり路地から飛び出してきたあたしにビックリのお母さん。


「もう、あたしイヤダ!」


 お母さんの胸にすがり付いていると、また気配!


「あ、あれ、妻鹿さんのお母さんだ!」


「キャー、小菊と雄一を生んだ奇跡の母よ!」


 え、ええ!?


 いきなりのことで、わけもわからず立ちつくすお母さん。



 申し訳ないけど、お母さんをスケープゴートにして逃げる。



 このまま帰ったんじゃ、家に殺到されてしまう!


 あたしはご町内をグルッと大回りするハメになった……。




☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  

百地美子 (シグマ)     高校二年

妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 

妻鹿幸一           祖父

妻鹿由紀夫          父

鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち

風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘

柊木小松ひいらぎこまつ  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ

ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母

マッジ・ヘプバーン      ミリーさんの知り合いの娘 天性のメイド資質

ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

増田汐しほ        小菊のクラスメート

ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ

           



 

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