79『イテ!』
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
79『イテ!』小松
ミリーさんからメールが来た。
ほら、ミコちゃん……じゃわからないか、シグマちゃんのお祖母さま。
春先に@ホームに来られてメイドカフェが気に入って、ハワイ@ホームを作っちゃって、わたしたちアキバ@ホームのメイドをインストラクターに呼んでくださった。
―― おかげさまで、ハワイ@ホームは順調です。月末にでも、みなさんいっしょに来ませんか? ワイキキの浜辺も待ってますよ! ――
ハワイ@ホームのメイドさんたちの写真が添付されていて、一気に懐かしさがこみ上げてきた。
―― みんなと相談して、ぜひ伺います! ――
返事を打ってルンルン気分。考えたらハワイ、湘南にいくようなわけにはいかないんだけど、お仲間はいっぱいいるし、ま、なんとかなるでしょ(^▽^)/。
ワクワクして笑いがこみ上げてくるのは、青春真っ盛りの証拠です!
ウフ フフフ フフフフ アハハハハハ…………イテ!
激しく笑うと傷が痛む。今日のわたしは、退院後最初の通院なんだった(^_^;)。
思わずわき腹を押える。ショーウィンドに映る姿が自分でも可哀そうなんだけど、ひどく三枚目じみて見えるのは、わたしの本性だからなのかもしれない。実際、ウィンド向こうの店員さんが笑いをこらえて俯いている。
十時の予約だったのに、診察室に入れたのは十一時だ。
お待たせして申し訳ありません。他の業種だったら、ぜったいお詫びの言葉から始まる。
病院は、こういう場合でも涼しい顔で「84番の方どうぞ~」になる。
「失礼しま~す」
「え~と……あら、ずいぶん早く退院したのね」
挨拶に返事も返さずに、この言葉。わたしは絶句しそうになったけど、きっちり言いました。
「先生が退院しろっておっしゃったんです」
にこやかにしているけど、目が三角になりかける。
「あ、そうだ、わたし次の日から休暇だったんだ」
な、なんだって!? 休暇に入るから在庫一掃整理したってか!
「あれから熱が出て、別のお医者様に診ていただいて、そしたら一週間安静の診断でした」
「そうですか、で、今は?」
「笑うと痛いです」
「でしょうね、笑うとか怒るとか、感情的になるのは、即痛みになります」
言いたいのをぐっとこらえた。
で、けっきょく五分足らずの問診だけで終わってしまい、診察を出ようとして、なにかを引っかけた。
ブチ!
音がしたかと思うと、女医さんの悲鳴が続いた。
キャッ、デ、データがああああ!!!!!
確認も同情もしないで診察室を出たことは言うまでもありません。
ああ、ワイキキの浜辺が待ち遠しい……。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿幸一 祖父
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐 小菊のクラスメート




