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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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7『あーーなんでこうなるんだ!?』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


7『あーーなんでこうなるんだ!?』




 けっきょく菊乃に口止め料をくれてやった。


 後ろめたいことは何もないんだが、手っ取り早いことと諸般の事情を鑑みたからだ。



 諸般の事情というのは、むろんシグマの事情だ。


 それと、我が家の事情な。


 俺の家は、その昔このあたりでは名の通った置屋(芸者さんを置いてマネジメントをやる)をやっていた。


 むろん俺が生まれるずっと前、親父でさえ生まれていない昔。祖父ちゃんが、子ども時代の微かな記憶として覚えているくらいの昔だ。


 祖父ちゃんの代には店を畳んでイギリス風のパブになった。今は、そのパブも畳んで、親父がせっせと中間管理職を務めるサラリーマンの家庭だ。


 だけど、粋筋いきすじの伝統ってのが気風として残っていて、粋でない異性への興味とか感心の持ち方というのは軽蔑の対象になる。


 俺は今時の高校二年生だ。いや、だからこそ、身内やご近所から妙な目で見られるのは勘弁だ。


――え、妻鹿屋の倅が、そんな無粋なことを!?――

――この街の粋もすたれたもんだねえ――


 なんぞと言われてはたまらない。


 そーなんだよな、リアルな彼女の一人も居ないでエロゲをやってるなんて、このあたりじゃ腐れ外道なんだ。




 それと、小菊の事情だ。




 小菊は、十日先に高校受験を控えている。


 たいていの中三は二月に入試を受けて、さっさと進路を決めている。


 ところが、小菊は分割後期募集とかいうやつで、今はバリバリの受験前なんだ。


 憎たらしい妹だけど、兄として、そこんところは気を使ってやらなきゃならない。


 むろん、受験前にアキバに行ってゲームを買ってくるなんて誉められたことじゃないんだけど、気が強いように見えて小心者の妹には、やっぱ配慮してやんなきゃならない。


 口止め料は、小菊が買ってきたゲーム代を肩代わりしてやることで手を打った。


 妙なもんで、ゲーム代を払ってやると、なんだかエロゲはシグマにじゃなくて俺のものみたいに感じるから不思議だ。




 今朝は珍しくノリスケとは別行動だった。




――わりー、先に行ってくれ――


 メール一本確認して、学校への坂道を上った。


――シグマもいないなあ……ま、ハワイじゃ、まだ帰ってこれないか――


 一人で登校すると、いつもよりも早く着く。


 昇降口で上履きに履き替えているとヨッチャン(ほら、うちの担任)に声を掛けられた。


「妻鹿君、ちょっと手伝ってくれる」


 おはようの挨拶も省略して君付で手招きされる。ヨッチャンが君付してくるとろくなことが無い。


「うい、なんすか?」


 気のいいωの口で応える。


「これ運ぶの手伝って」


 見ると、段ボール箱三つの荷物。はみ出た口から見えるのは、どうやら組合のビラの束。


 生徒に組合の荷物を運ばせるのは問題ありだと思うんだけど、ヨッチャンも学校じゃ若手のペーペー。手伝ってあげるのが順当だ。


 ヨッチャンの用事が終わって教室に行くと、今度はノリスケがオイデオイデをしている。


「なんだよ、今朝の『先に行ってくれ』と関係ありか?」


「あー、小菊に呼び出されたんよ。オメガ、俺をエロゲの共同正犯にすんじゃねーよ」


「え、あ……」


 小菊のバカヤローと思ったけど、やっぱ、事実は言えない。


「んなんじゃねーー!」


 そう言って自分の席に行こうとしたら、ノリスケが袖を引っ張る。


「えへへ」


「んだよ、気持ち悪いなあ」


「共犯にされっちまったんだから、俺にも、そのエロゲ回せよな」


「あん?」


「な、あいぼう(^_^;)」


「…………」


 あーーなんでこうなるんだ!? 




☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  

百地 (シグマ)      高校一年

妻鹿小菊          中三 オメガの妹 

ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち

ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任

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