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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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68『御籠りの五日間・2』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


68『御籠りの五日間・2』オメガ 





 崩落殿という字を思い浮かべてしまったぜ。


 巫女さんに案内されて「ほうらくでんをお使いください」と言われたんだけど、ついさっき吊り橋が落ちたので『崩落』という字がとっさに出てきてしまう(^_^;)。実際には『豊楽殿』という札が掛かっていて、風信子んとこの豊楽殿と同じような三十畳余りの部屋だ。


 本殿は式年造替しきねんぞうたいっていう建て替えをしたばかりの新品だけど、豊楽殿は百年はたっているんじゃないかと思うくらいに古さびている。LEDと思われる照明器具がなければ、そのまま時代劇の撮影に使えそうだ。


「造りは、風信子とこのに似てるな」


「逆よ、うちがここの造りに習ってるの」


 そう言えば、神楽坂神社の本家みたいなもんだと言っていたな。


 物珍しさに、最初はキョロキョロしていたメンバーたちだが、五分もすると座敷の片隅に腰を下ろした。



 三十畳の広い座敷なんだけど、部屋の真ん中では落ち着かない。


 気づくと風信子の姿が無い。


「お茶とお召し替えをお持ちしました」


 声が掛かって巫女さんが二人入って来た。よく見ると一人は風信子だ。


「ここでは、わたしも巫女だからね」


「作務衣ですが、着方は分かりますか?」


 出されたのは職人さんたちが着ているようなので、男が藍色、女が茜色だ。


 男女一緒に着替えちゃまずいだろうと思ったら、時代劇に出てきそうなT字型のスタンドに四枚の布を垂らしたパーテーションみたいなのが出てきた。


「これって几帳きちょうですよね!」


 シグマが感動した。


 この台詞だけ聞いたら源氏物語とかが好きな文系女子に聞こえるんだけど、やりこんだ時代劇エロゲの中にでも出ていたんだろうな。


「紐の結び方がわかりませーん」


 増田さんが巫女さんの助けを借りている、几帳一枚だけなので衣擦れの音が聞こえるんだよなあ。


「なんだか新鮮ですね!」


 シグマは無邪気に喜んで、増田さんと写真を撮りはじめる。


「写しましょうか?」


「あ、お願いします!」


 巫女さんが笑顔で言ってくれて、正面にある神棚の前で二人が並び、「いっしょに入ってください!」と巫女さんと風信子も入って記念写真。


「巫女服も、すっごくいいですね!」


「憧れますぅ!」


「じゃ、こんどお召しになってみますか?」


 巫女さんの口がωになる。同じωでも、ちょっと神々しく感じるのは雰囲気なのか巫女さんの個性なのか。


「はい!」


「ぜひぜひ!」


 子どもみたいにピョンピョンする一年生。


「あはは」


 微妙に笑う風信子、本家筋なんだ、あんまりはしゃいでもらっても困るんだろう。




「で、ここで何をすればいいんだ?」




 お茶を飲んで落ち着くと、ノリスケが素朴な質問をする。


 もっともな話で、俺たちは「アゴアシ付きだから、連休の後半は付いて来て!」と風信子のお願いで、ここに来ている。雰囲気は林間学校みたいだけど、スケジュールが示されていないので、落ち着いてしまうと、そもそもの疑問にぶち当たってしまう。


「まず、ゲームをやってもらいます」


 そう言われて、俺の頭には飯盒炊爨とかやって、そのあとオリエンテーリングとかのイメージにになる。


「「「え、えーーーーー!?」」」


 襖が開いて、増田さんを除く三人が声を上げた。


 襖の向こうには座卓が並んでいて、座卓の上にはパソコンとエロゲのパッケージが人数分載っていたのだ。


 増田さん一人が声をあげない、たぶん意味が分かっていない、パソコンはむろんそうだし、エロゲのパッケージって、ぱっと見には、アニメの豪華版とかに見えるもんなあ(^_^;)。




☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  

百地美子 (シグマ)     高校二年

妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 

妻鹿幸一           祖父

妻鹿由紀夫          父

鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち

風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘

柊木小松ひいらぎこまつ  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ

ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母

ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

増田汐しほ        小菊のクラスメート



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