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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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63『連休初日に寝坊して』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


63『連休初日に寝坊して』オメガ 





 朝寝坊したら食パンがなかった。


「遅いからよ!」


 お出かけ準備の仕上がった小菊が蔑んだ目で言う。


 キッチンのテーブルは、食後の湯呑やマグカップが空になって、それさえお袋が片づけにかかっている。朝のバラエティーは祖父ちゃん好みのお天気お姉さんが――素敵な連休をお過ごしください――と締めくくっている。


「えと、じゃ、食パン買ってくるわ」


 寝癖のまんまパーカーだけ羽織って家を出る。


「ちょ、邪魔!」


 ドアを開けると、戻って来た小菊に邪険にされる。なんだか忘れ物をしたようだが、冷やかすなんて無謀なことはしない。


 俺の座右の銘は『波風を立てない』なんだ。


 足許に気配、馴染みの街猫が二匹走って、後ろの猫が、駆け抜けざまに停めてあった自転車をひっかける。


 あ~~~~


 猫一匹のわずかな衝撃なんだが、物の弾みってやつだろう、自転車はジワっと傾いたかと思うと、すぐ横の自転車も巻き込んでガッシャーン!と倒れてしまい、路地と言った方が的確な道は自転車二台に塞がれてしまった。


「しょ-がねーなー……」


 ヨッコイショっと自転車を起こす。


「あーーーもーーーあんたって邪魔しかしないのよね!」


 再び小菊に罵倒される。


 プリプリ尻を振りながら表通りに向かう妹の足元は、さっきまでのエナメルじゃなくって、大人しめのパンプスだ。


 あいつ、このごろおかしいなあ……。


 夕べも「覗いたら殺す!」の捨て台詞。あいつの来客はくぐもった声しか聞こえなかったけど、あきらかに大人の男だった。


 それに、先日は段ボール一箱のポテチが届いていた。


 で、今日は、朝からパンプス履いてお出かけだ。


 女子の服装ってのはよく分からないけど、俺の節穴が見ても遊びに行くと言う風体じゃない。


 なんちゅうか……これから見合いに行ってきまーす!


 有りえねーよな、あいつは高校に入ったばっかしの十五歳だ。


 いやいや、小菊のことは考えるのも無駄ってか、危険でもあるので、脳みそをニュートラルにする。


 朝寝坊には眩しすぎる連休初日の日差しだ。


 この朝寝坊にはワケが有る。ノリスケが遅くまで電話してきたからだ。


 本を拾ってやったことがきっかけで我が親友は一年の女子と付き合い始めた。


 ノリスケは、今まで特定の女の子と付き合ったことが無い。


 あいつのスタイルは広く浅くだ。


 珍しいなあとは思ったが、恋の道は神のみぞ知る。だから、俺は生温か~い目で見てきた。


 それがどうやら悩んでいる。ノリスケ自身は言わないが、状況から、その女子はヤンデレさんのようだ。


――そう言うカテゴライズはするな――


 そう言われたら「あ、そ」という返事になるんだけど、親友を邪険にもできずに男の長話になったわけだ。



 コンビニというのは目的のものを買っても、ついぶらついてしまう。



 雑誌とかカップ麺の新製品とかスナックコーナーだとか……。


 ああ、やっぱしなあ。


 先月には三段の棚にビッシリあったポテチが一段の半分になってしまっている。代わりにコーンスナックが幅を利かせて、俺は少なくなったポテチに同情した。


 この気持ちは間違っている。同情すべきは人間のポテチファンの方なんだ。


 でも……小菊に届いた段ボール箱いっぱいのポテチはなんだったんだ?


 余計なことに関心は持たねえ!


 そう自戒して、五枚切りの食パンを買って帰った連休初日であった。


 



☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  

百地美子 (シグマ)     高校二年

妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 

妻鹿幸一           祖父

妻鹿由紀夫          父

鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち

風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘

柊木小松ひいらぎこまつ  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ

ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母

ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

増田汐しほ        小菊のクラスメート

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