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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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58『ガスマスク!』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


58『ガスマスク!』オメガ 





 松ネエの両親はミサイルを心配していた。


「アハハ、そんなの落ちてくるわけないのにね(^_^;)!」


 笑って言い切ると、時間の迫っていたアルバイトに出かけて行った。


 段ボール箱はパックリ口を開けたままテーブルの上だ。


 リビングの真ん中、開いた箱から顔を覗かせているガスマスクは、なんとも禍々しい。


「ほんと、やあねえ」


 眉を顰めるお袋だけど、オキッパにしている松ネエや、送りつけてきた叔母夫婦を非難しているわけでもない。


 夕べも家庭用シェルターが売れているというニュースをしっかり聞いたしな。


 ガスマスクは箱ごと、一晩リビングに置かれたままになった。



「これって案外むつかしいんじゃないかなあ……」



 朝食を食べ終わった小菊がガスマスクをいじくりまわしている。


「ただ被りゃいいんじゃないのか?」


「被り物ってムズイんだよ。VRの体験会とか行ったけど、あれだって慣れないと一人じゃ被れないもんね」


「こういうものはなあ……」


 お祖父ちゃんも、一つ手に取った。


「バイクのヘルメットよりも複雑ねえ」


 お袋もいじくり出した。


「女は、こういうストラップとかの結束には強いんじゃないのか」


「あなた、それじゃ反対」


 逆さに被った親父をお袋がたしなめる。


「オキッパですみません」


 松ネエが二階から下りてきて恐縮する。


「ちょうどいい、期せずして全員が集まったんだ、ガスマスクの練習をしておこう」


 お祖父ちゃんの発案でガスマスクの装着練習が始まった。


 あーだこーだと言いながら、五分後にはみんなダースベーダーのようになってしまった。


「なんか、みんなアッヤシー!」


 フガフガ言いながら小菊が喜ぶ。


「息はそれほどでもないけど、圧迫感がハンパないわね」


「密着してないと、隙間から毒ガスが入ってくるからね」


「でも、案外会話はスムーズだね」


「ね、記念写真撮ろ!」


 小菊の発案で三脚を持ち出し六人で記念写真を撮った。


 なんだかテンションが上がって、先日の花見の時よりも賑やかな記念撮影になった。


 ま、一般市民の危機意識というのはこの程度のものだろう。


「え、えと……どうやって外すんだろう」


 小菊が頭の後ろに手を回してモゾモゾしだした。


「この留め具を……」


 やってみるが、俺も外せない。


「待ってろ、祖父ちゃんが……」


 お祖父ちゃんも留め具の解除に戸惑う。


「だから、母さん、ここを……あれ?」


 親父も、語尾が?になる。


「ウフフフ……」


「なにが可笑しいんだよ」


 なんだか両親はいちゃついているように見える。


「なんだか新婚時分の二人みたいだなあ」


 祖父ちゃんが冷やかす。


「いやですよ、お父さん(^^♪」


「アハハ、女が身に付けるものって男は外しにくいもんだぜ、初めての時は俺も婆さんのブラホック壊しちまったもんなあ」


「お、親父」


「お祖父ちゃんたら」


 ここまでは余裕だったけど、十分ほどしても外せないので、ちょっと焦り始めた。


「これって……」「やだー……」「なんで……」「ムムム……」


 ドッカーン!


 大音響とともに、家がグラッと揺れた。


「「「「「「!!??」」」」」」


 ただ事ではないと思った俺は、こけつまろびつしながらも玄関から這い出した。


「え、ええーーーー!?」


 ガスマスクのグラス越しに見えたうちの外壁には自動車が食い込んでいた。


 で、車のエンジン付近からは濛々と煙が立ち始めているじゃねえか!


 わらわらとご近所の皆さんが集まり始めている。寿屋の小父さんなどは大きい消火器を抱えている。


 俺は玄関にとって返して叫んだ!


 みんな逃げろー!





☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  

百地美子 (シグマ)     高校二年

妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 

妻鹿由紀夫          父

鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち

風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘

柊木小松ひいらぎこまつ  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ

ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母

ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

増田汐しほ        小菊のクラスメート

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