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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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53『図書室のガイダンス』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


53『図書室のガイダンス』小菊 





 わたしじゃありませんから……。


 涙目になりながら、増田さんが言う。


「わかってるわよ、増田さんは……」


 後の言葉を飲み込んだ。


―― 言えるくらいなら、もう友だちできてるわよね ――


 入学してから半月近く、増田さんは、あたし以外には友だちってか、まともに口の利ける相手がいない。だから目撃者だとは言え、彼女が広めた話ではない。


 なんの話?


 あれよあれ、寿屋さんの前であいつといるところを目撃された話。


 お花見の幔幕を借りに行ったんだけど、寿屋さんがラブホだってことが飛んでしまっていた。


 だって、ご近所で、子どものころから出入りしてるんだし、娘さんの幸ちゃんは、あたしの憧れのオネエサンだったし。


 でも、ラブホはラブホ、地域以外の部外者が見れば、男女二人が出てくるのを目撃したらドキッとするよね。


「増田さんは信用できるから」


 言い直してからまずいと思った。


 信用できるからというのは、増田さんなら人に言ったりしないよねってことで、そこから読み取れるのは「増田さんが見たのは真実だよ」ということになり、弁明することがいっそう難しくなる。


「うん、人に言ったりしない。ああいうことが出来るということが、わたしは素晴らしいと思ってますから(;'∀')!」


 あー、完全に誤解してるよ(=゜Д゜=)。


 けど、ま、いいや。現時点であいつと兄妹であることがバレるよりはましだ。



 今日は二時間目に図書室のガイダンスがあった。



 司書の先生が図書室の案内やら本の借り方を説明してくれる。


 なんでも、卒業するまでに図書室の説明を受けられるのは、この一回限りだから、しっかり聞いておくようにって枕詞が付く。


 自慢じゃないけど、図書室で本を借りたことも無ければ借りる予定もない。


 だから、お行儀よくボーっと聞いてるふりだけしておく。


「……ということで、残りの時間は、実際に本を手に取ってみてください。もし借りたい本があれば、この時間に限って貸し出しをします」


 司書の先生が締めくくる。


 五台あるパソコンから埋まっていく。


 みんなポケットにスマホを忍ばせているんだろうけど、図書室で出すわけにはいかない。


 他の子たちは、団地のように並んだ書架に向かう。


 あたしは入ってきたときにチェックしておいた雑誌コーナーに。


「お……」


 Pティーンが有ることまではチェックしきれていなかった。


 中学の図書室には絶対置いてない雑誌なので少し興味が湧く。


 載ってるモデルには興味ない。みんなバカに見えるかバカそのもの。モテカワ系も媚びてる感じがしてやだ。


 ま、彼女たちのファッションに、あーだこーだと思いながらページをめくるのが楽しいっちゃ楽しい。


「ん……」


 ツンデレモデルのところで手が止まる。


「似てるなあ……」


 作ったんじゃなくて、地のままツンデレですって感じなのが、なんとなく、あのシグマに似ている。


 Σ口も地のままだと魅力あるのかも……。


 なんで、このページで停まってるんだ!?


 癪になって雑誌ごと書架に戻す。


「へへ、借りてきちゃいましたー」


 増田さんが嬉しそうに本を抱えてやってきた。


「あら、読みたかった本なの?」


「『耳をすませば』ですよ」


「え、耳?」


「ほら、ジブリアニメの!」


「あ、あーーー」


 思い出した。


 図書館の貸し出しカードが元になって、中学生の男女が付き合い始めて夢を追いかけるとかって話だ。実写版もできたとか云ってた、主人公は雫って言ったっけ?


「そうそう、月島雫です。素敵ですよね、あの出会いは(*’▽’*)!」


「ハハ、増田さんは、ああいうのに憧れてるんだ」


「はい、わたしのしほって名前はここからきてるんです!」


「え、汐?」


 たしかに増田さんの名前は汐だけど、アニメとおりなら雫でしょ?


「フフ、雫のお姉さんが汐ですよー♪」


「あー、そうだっけ(^_^;)」


「こうやって本を借りれば、わたしにも開けてくるかもしれませんよ」


 あー、でも、今はバーコードの読み取りで、貸し出しカードなんてないから出会いなんかありえないんだけど。


 思ったけど、もう一度言葉を飲み込んだ。




☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  

百地美子 (シグマ)     高校二年

妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 

妻鹿由紀夫          父

鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち

風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘

柊木小松ひいらぎこまつ  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ

ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母

ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

増田汐しほ        小菊のクラスメート

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