43『今日は小菊の入学式なのだ』
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
43『今日は小菊の入学式なのだ』オメガ
まだ着替えてないの!?
トースターに食パンをぶち込んでいると、後ろから非難された。
「お、似合ってるじゃないか」
ピカピカの制服を誉めてやると、小菊の表情が一瞬だけ緩む。
べつに誉めてイナそうと思ったわけじゃない、ほんとにそう思ったんだ。
こないだ不用意に試着しているところを見た時は張り倒されたが、今朝の小菊は青筋を立ててはいない。入学式本番の朝だから緊張はしているんだろうけど、こないだほどにはナーバスにはなっていないようだ。
「じゃなくって、もう着替えなきゃ学校間に合わないじゃん!」
「え、在校生は休みだぜ」
「えーー、入学式よ、かわいい妹の!」
「お袋が付いていくだろーが」
「お母さんは学校のことなんか分かんないじゃんよ!」
「入学式なんて、言われた通り起立と礼やってりゃいいんだよ」
「もーー! どこかのミサイルとか飛んでくるかもしれないじゃん!」
「どーいう発想なんだよ(^ω^;)」
「世の中なにが起こるか分かんないってことでしょーがあ!」
「んなこたー、万に一つも起こらないから安心しろ」
さらなる文句を言うために息を吸い込んだところでお袋の声。
―― 菊ちゃん、もう出るわよ~ ――
「もー、その呼び方やめてよ、学校で定着したらヤダー」
プータレながらも玄関に行く小菊、二言三言あってドアの閉まる音。
「ハハハ、元気に行ったな」
居眠りしていた祖父ちゃんが陽気に笑う。
「あ、今まで寝たフリ!?」
「菊ちゃんがプータレてる時は、余計な半畳は入れない」
「ま、ややこしくなるだけだけどな……でも、小菊の制服ピッタリすぎやしない? じきに小さくなるよ」
「制服を大きめにあつらえんのは中学までだ、女子高生ってランクは、まず身だしなみだ。小さくなりゃまたあつらえりゃいいさ」
どうやら小菊の制服代は祖父ちゃんが出したようだ。
チーーーン
納得したところでトーストが焼き上がる。
半分まで食べたところでスマホが鳴る。
「え、ヨッチャン!?」
案の定、ヨッチャンの連絡ミスだ。冷めたトーストを頬張りながら制服に着替える俺。
「ごめんねぇ、まだ学級委員とか決めてなかったから~(^人^;)」
学校に着くと、とりあえずは詫びてくれるヨッチャン。で、次の呼吸で用事を頼まれる。
「あれ、妻鹿くんも学級委員?」
廊下で一緒になった木田さんに聞かれる。ほら、二年のクラスでいっしょだった副委員長。
「ピンチヒッター、ヨッチャン抜けてるからさ」
「アハハ、そうなんだ」
言われたかないよ、合格者登校日には木田さんのピンチヒッターやらされたんだからな。
職員室に行くと新入生のクラスに持っていく諸々の物品が入った段ボール箱を渡される。
チラ見すると、十種類以上のプリントやら冊子。
こんなもの一度に渡されたって読まねえよ(渡しました=伝えました)って学校のアリバイだ。
でも文句も垂れずに一年三組への階段を上がる。
「配布物を持ってきました」
告げると担任は入学式の説明の真っ最中。黒板には諸注意や式場までの経路や席順が書いてある。
こんないっぺんに言ったって分かんねーよなあ……思いつつも口には出さない。
「失礼しました」
挨拶して廊下に出て階段にさしかかったところで、後ろから足音。
「ちょっと兄ちゃん!」
振り返るとヘタレ眉の小菊ではないか。
え、え? こいつ、いま「兄ちゃん」て呼んだよな?
ゾクっと背中に怖気が走る。
で、小菊は、俺に難題をふっかけたのだ……。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校二年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校二年 幼なじみの神社の娘
柊木小松 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)




