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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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42『4月6日は始業式』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


42『4月6日は始業式』オメガ 





―― 笑顔は苦手です( ノД`)シクシク…… ――


 ハワイからのメールだ。


―― シグマちゃんも元気してま~す!(^0^)! ――


 松ネエからもメールをもらっていたので、ちょっと戸惑う。


 でも、両方とも本当なんだと納得する。


 松ネエは人を見る目が暖かい。だから、シグマが頑張っているところに重心を置いている。メールを読んだ俺が「ハワイでも頑張ってんだな!」と、明るく肯定的に接するだろうことまで見越している。


 シグマも深刻に悩んでいるわけじゃない。深刻に家に籠っているのならハワイくんだりまで三泊四日で行こうとはしないだろう。


 でも、こういう緩い悩みでも積み重なれば山になることもある。


 それに――先輩は笑顔が上手くていいですね――という気持ちが底にある。


 ω口の笑顔にも悩みはあるんだぜ……。





「真剣に話してるんだから笑わないでよ!」




 ヨッチャンが眉を逆立てた。今朝のヨッチャンは気が立っている。

 

 噂によると、ヨッチャンは「担任を下りる!」と叫んだんだそうだ。


 三年の担任は進路がかかっているから責任の重さを感じたイラ立ちがあるんだろう。


 先生が気を揉まなくったって、たいていの生徒は自分で折り合いを付けた進路に進んでいく。そう前のめりになることもないと思うんだけど、これがヨッチャンの性分だ。


 だから、始業式が終わってのクラス開き、ヨッチャンはホームルームの半分以上を使って演説した。


 黒板には『四当五落!』とか『成功の女神には前髪しかない!』なんてスローガンだか脅迫だか分からんものが書いてある。


 秋には決まってしまう、決めてしまわなきゃいけない進路だから、もう時間ないのよ! あんたたち分かってるぅ!?


 そういうことを言ってるんだけど、俺を含め三年A組の生徒は聞くふりをしているだけ。


 でも妨害はしないし、きちんと教壇のヨッチャンを見ている。


 気の回らない先生だけど、やっぱ担任の先生なんだという敬意は払っている。でも、聞くふりになってしまって、頭ではスマホのメールがループしていたんだ。


 そいで、俺的には、ちょっと寂しく思い出していたんだけど、その顔がヨッチャンには笑っているように見える。




「よう、三年もよろしくな!」




 ホームルームが終わると、ノリスケに肩を叩かれた。これでノリスケとは三年連続のクラスメートだ。


―― 麺類だけだけど、今日から食堂は開いてます ――


 きょう唯一有益だったヨッチャンの情報で学食に向かう。


「オバチャンは、やっぱ学食の服装があってるよな」


 牛丼屋にパートに行っていた南さんが八面六臂でオーダーをこなしている。たくましいなあ~。


「「ども」」

「アハハハ」


 これだけで南さんとは通じてしまう。で、南さんが視線を移した。


「あ……」


 視線の先、入り口の近くの席にスぺ蕎麦をすすっているシグマが居た。帰ってくるのは今日の午後だと思っていたのでビックリした。


「なんだ、もう帰ってたのかぁ?」


 スぺ蕎麦をトレーに乗っけてシグマの前に向かう。


「始業式はパスかと思ったぜ」


「朝いなかったしな」


「遅刻でさっき来たとこ……」


 箸を止めて上げた顔、なぜか目には光るものがあった。


「お、おい」


「やっぱ、ハワイの笑顔は疲れますぅ(´;Σ;`)ウッ…!」


 あいかわらずのΣ顔だけど、とびきりの泣き笑いだというのが分かる。


 なんだかシグマが戦友のように思える始業式の昼下がりだった。

 




☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  

百地美子 (シグマ)     高校一年

妻鹿小菊           中三 オメガの妹 

妻鹿由紀夫          父

鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち

風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘

柊木小松ひいらぎこまつ  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ

ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母

ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

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