41『ハワイ@ホーム・4・ 試運転』
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
41『ハワイ@ホーム・4・ 試運転』シグマ
歳の差は二つだけだ、あたしと小松さん。
でも、チョウチョと毛虫くらいの違いがありますよ。
お祖母ちゃんちに着いた日は、ハワイ@ホームで働く女の子たちも集まってパーティーになった。
女の子たちは歳こそ近いけど、民族的には、白人、黒人、ネイティブ、ヒスパニック、日系、中国系、韓国系とバラバラ。お祖母ちゃんが、わざとしたのか、ハワイの民族構成が反映されているのかは分からないです。
でも、民族はバラバラだけど、中身はみんなアメリカ人。
明るく表情も豊かで、とってもフレンドリー!
彼女たちがやってきて、わずか五分で握手の新記録。
彼女たちを含め三十人のゲストがみんな握手。あたしは、これまでの十六年間で、この日の半分も人の手を握っていない。
なんだか、もう握手会みたいで、アイドルは偉いと思った。
五人目くらいでくたびれて、慣れない笑顔が引きつってくるんです。
握手によるハッピーは基準値があるのか、あたしの笑顔が弱くなってくるとアメリカネエチャンたちの握手力が強くなる。
ノブヨという日系ネエチャンは、なんと、あたしにハグしてきた。
パッと見は日本人なので、ビックリは倍になる。
ノブヨはほっぺたをくっ付けてスリスリまでする。心臓がドックンで、なんだか百合フラグが立ってしまったのではないかとオタオタ(;'∀')。
でも、小松さんたちは余裕で対応していた。
小松さんは、なんだか銀行の案内係のオネエサンみたいに大人びていましたよ。とっても優雅で、アメリカネエチャンたちが子どもじみて見えてしまった。
「ハーーーあたしなんか、まだまだよぉ」
洗面でいっしょになったら、歯ブラシ咥えながら、小松さんはため息ついた。
「メイドは永遠の十七歳で、夜にはタンポポの毛に掴まって雲の上のお家に帰るんだもん。さっきのあたしは、そんなメルヘンじゃなかった」
小松さんの志は高いのです。
昨日は一人でパールリッジショッピング センターのオタクショップに行ってきました。
ハワイ@ホームの開店祝いに配るグッズを買うためだけど、正直エスケープなんです。
日米16人のやる気ムンムンの中に居たら、空気を壊しそうだし。
教える方も教えられる方も、まぶしいくらいにキラキラしているんですよ。ひとりだけ手持無沙汰でポツンとしていたら、Σ顔が尖がりすぎて、誰かを傷つけてしまうかもしれないもの。
「自分のは買ってこなかったの?」
アキバに比べれば数段見劣りするグッズにも、メイドとメイド候補生たちはキャピキャピの反応。新しく店を開くというのは、こんなにも人をキラキラさせるんです。
「だって、ハワイにはエロゲないんだもん!」
精一杯の強がりを言ってみる。
今日はハワイ@ホームの試運転。
お祖母ちゃんの仕事関係や交友関係の人たち、メイドさんたちのお友だちなどが午前と午後の二回に分かれてやってくる。
制服(メイド服)の力はすごいです。
押し出しの強すぎたアメリカンメイドたちも程よくメルヘンになっている。
「「「「「「オカリナセマセ、ゴシュジサッマ~!」」」」」」
制服でない彼女たちから挨拶されたら、お客さんたちは鏡に映る自分の姿を確認しただろう。
だって、ハリポタの呪文で魔法をかけられたに違いないと思ってしまうから(^_^;)。
あたしは記録係という仕事を与えられ、すこし時代物のプロカメラ担いで、ひたすら撮りまくりました。
これだと自分がカメラの付属物になったみたいでラクちんなのだ。
お祖母ちゃんも、あたしの性格を知っていての上手いはからいです。
明日は日本に帰ります。
あとはエンターキーを押すだけ…………でも、バックスペースに指を掛けて、ダーーっと消してしまう。
こんなメール、やっぱり送れないよ。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校二年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校二年 幼なじみの神社の娘
柊木小松 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任




